<回帰>

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<回帰>
コロナウイルスが世界的に蔓延し、そのことによって経済が大打撃を受けています。最も影響を受けているのは外食産業だと思いますが、外出自粛を求められ、さらには営業時間どころか営業日さえも制限されるのですから当然です。

ニュースを見ていますと、売上げが下がった業界や企業について事細かに伝えていますが、僕からしますと行政が経済を抑え込む施策をとっているのですから当然です。わざわざ詳細にニュースにするまでもないように思います。ニュースにしてしまいますと、ますます経済が落ち込むような気分になってしまいます。

そんな中、「さすが!」と思ったのは世界のトヨタ自動車です。軒並み赤字に転落する企業が続出する中でトヨタは黒字を確保していました。報道によりますと、生産台数を減らしても利益が出るように対処していたことが功を奏したそうです。まさにこれが「アフターコロナ」とか「with コロナ」の企業の理想形なのかもしれません。

交通機関、例えば新幹線や航空業界では利用するお客様が大幅に減少しているのですから、売上げが減り利益が出なくなるのは当然です。関連業界の旅行業界も然りです。一般の人に最も身近な業界である飲食産業ではさらに顕著です。ソーシャルディスタンスの必要性を訴えられては、客数が減少するのは言うまでもありません。

飲食店の売上げは「客数×客単価」ですが、その「客数」を制限されるのですから廃業に追い込まれる店が出てくるのも必然です。もし、3ヶ月とか半年といった期間が限られていたとしたなら、耐えることも可能かもしれません。しかし、現況ではコロナが終焉する時期がわからない状況です。治療薬やワクチンの開発には最低でも1年以上要するそうですし、もしかしたなら開発されないことも考えられます。

その最悪の状況でも利益を出せるようにするのが経営者の務めです。「アフターコロナ」「with コロナ」の形を示せるかどうかが経営者としての腕の見せ所です。その意味で言いますと、トヨタの経営者が名経営者のひとりであることは誰もが認めるところです。

「トヨタ黒字」というニュースを見ていて、僕が真っ先に頭に浮かんだのは「亀山モデル」という言葉です。「亀山モデル」とは2004年にシャープが三重県亀山市に作った液晶パネルの生産工場ですが、当時は最先端の工場として注目されました。女優の吉永小百合さんがCMに出ていたのですが、「世界の亀山」のキャッチコピーは強い印象を与えました。

「亀山工場」が注目されたのは、最先端の設備を備えていたこともそうですが、液晶パネルが将来成長することを見越していたことです。もちろんそのような予想をしなければ、莫大な資金を投資して工場など建設しません。

「亀山工場」を成功に導いた経営者は町田勝彦氏という方ですが、町田氏について僕は忘れられないインタビュー記事があります。ある経済誌で町田氏は商売をしていた祖父からの教えとして

「商売は10年やったら3年は損する。5年はトントンで、儲かるのは2年。事業なんてそんなもんや」

という言葉を紹介していました。当時、自分がラーメン店を営んでいましたので、この言葉が妙に心の底に響きました。僕の中ではシャープという大企業の社長の口から出たことが新鮮でした。しかし、後年町田氏は亀山工場にこだわりすぎて業績を落ち込ませてしまい、戦犯の烙印を押されてしまいます。その後、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業に買収されたのはご存じのとおりです。

シャープが業績を落とし始めていた頃、IT関連の製造業では「ファブレス化」という言葉が注目されていました。「ファブレス企業」とは「工場・生産手段を持たないメーカー」のことですが、僕などは「工場を持たないでメーカー、または製造業といえるのか?」と疑問に感じたものです。しかし、時代は瞬く間に「ファブレス化」に向かっていました。

では、「ファブレス企業」はなにをするのかと言いますと、「製品開発や販売」です。普通に考えて、工場を建設するには莫大な資金が必要ですし、建設したあとも人員確保から工場の運営など様々なリスクを抱えます。そうしたリスクを外部に委託することで自らは避けることができるわけです。

最も有名なのはiPhoneのアップルです。これもスティーブ・ジョブズ氏の功績かもしれませんが、「製造工程」を外注していました。実は、それ以前に半導体業界ではファブレス化が進んでいました。IT関連業界では「ドッグイヤー」という発想が浸透していましたが、スピード感を持つには「ファブレス化」は避けて通れない方向だったのかもしれません。

このようにIT業界においてはファブレス化は一般化していたのですが、自動車業界では自らが工場を持っているのが一般的でした。しかしこれが、電気自動車になりますと様相は一変します。仮に自動車業界がすべて電気自動車に移行しますと、業界全体に変革が起こります。

それはともかく現時点ではまだ自動車業界はファブレス化されていないのですが、その代わり「系列」というシステムが取り入れられています。そうした中で、トヨタ自動車は利益を確保していたのですが、ここが重要です。

「系列」を簡単に言いますと、自動車メーカーの下に幾つかの層に分かれた下請け企業が連なっているシステムです。このシステムだからこそ生産台数が減少しても利益が出せたように思います。トヨタ以外の自動車メーカーの業績を見ますと、赤字のところがほとんどですのでトヨタ独自の取り組みが優れていたことは間違いありません。そして、それを可能にしたのは工場を自らが持っていたからです。

工場を持っていたからこそ、いろいろな作業工程を自ら見直すことで利益を確保することができたはずです。もしIT業界のように、製造・生産を外部に委託していたなら作業工程の細かなことまでかかわることはできません。

こうして見てきますと、ファブレス化が一般化しているIT業界でも今後はファブレス化が見直される可能性もあります。実際に、以前読んだ記事にはアップルは「ファブレス化から舵を切った」と書いてありました。

それにしても、コロナ対策として「3密を避ける」ことを求められるなら、販売業や娯楽産業のような業界でも「お客様の人数を増やさねばならない」という発想は通用しなくなります。なにしろ「お客様を減らさなければいけない」のですから、根本的な転換が必要です。

昭和39年に「戦後は終わった」と言われ、それから経済至上主義が定着し、バブルがはじけ、そして「失われた20年」と言われながらも、日本のビジネスマンはひたすら売上げを上げることだけを目標にして働いてきました。

そうした流れを知っている身としては、昔の日本は働いている人に対してもっと大らかで、責め立てるようなこともなかったように思います。それがいつしか、「お客様は神様」の精神が染みつき、「お客である自分は偉い」と錯覚する人も出てきました。例えばスーパーのパートさんの少しのミスに対しても激怒する人がいます。働いている人に対する感謝の気持ちがなくなっているように感じます。

コロナは人間社会を危険に陥れていますが、考えようによっては人間に対して警鐘を鳴らしているとも考えられます。自然破壊もそうですが、「なんでも思い通りになる」と思い違いをしている人間に警告を発しているのです。

いま一度、純朴な人間に回帰するきっかけを与えているように思います。

じゃ、また。




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