<個と子と糊塗>

pressココロ上




「儲かる商売はない。儲ける奴がいるだけだ」
 この言葉はワコールの創業者塚本幸一氏が語ったものですが市場主義のビジネス界において核心をついていると思います。どんな業界においても民間では激しい競争が行われており、皆さん「儲ける奴」になろうと必死に努力を続けています。その競争が消費者に利益をもたらします。例えば私が従事しています保険業界は自由化により保険料が数年前に比べ明らかに安くなっています。こうしたことも規制緩和や自由化が行われたことにより市場原理が働いたからこそです。保険業界に従事している人たちにとってはとても厳しい状況になったのですが消費者にとっては喜ばしいことに違いありません。
 もし私が個としての自分だけのことを考えるなら保険業界の自由化には反対です。しかし日本全体のことを考えるなら致し方ないことだと考えています。将来の日本、今の子供たちの将来のことを考えるなら受け入れざるを得ないでしょう。
 郵政民営化についても同様に考えています。民営化され市場原理が働いたならそこには必ず競争が起こり消費者の利益につながります。保険業界の自由化のときはマスコミはじめ世論は反対することはありませんでした。むしろそれまでの金融界や保険業界を「護送船団方式」などと言い、自由化を大歓迎しています。しかし郵政民営化については反対する世論が半数近くあるようです。実際、参議院では否決されたのですから…。
 反対世論が大きい理由は郵政事業が国営であることです。国営でなくなることに対して人々が不安を感じているからです。この反対意見には2つの側面があるように思います。1つは消費者としての側面、他方は労働者としての側面です。
 消費者としては、地方では郵便局は地域の核となっており閉鎖されることにより不便になるというものです。このような意見を聞くとき私は流通業界を思い浮かべます。かつて流通業界も「大規模小売店法」といった規制がありました。これは法律によって大型スーパーから中小企業や個人商店を保護しようというものでした。しかしこの法律も徐々に緩和され現在はほとんど自由に出店できるようになっています。この動きはつまるところ法律で規制していても中小企業や個人商店の衰退が止まらなかったことによるものです。商店街が「シャッター通り」となどと言われるのはご存知の通りです。
 こういう状況になると必ず載る新聞投稿があります。
「昔ながらの地元の店がなくなるのが寂しい」といった内容ですが、こうした状況にしているのは消費者です。買い物を地元でなく大型スーパーなどきれいで品揃えのあるお店でしているからです。消費者は自分が満足する購買行動をするのが常です。もし仮に地元のお店がかわいそうなどという情緒的な気持ちなったとしてもそうした気持ちは長くは持続できません。
 郵便局を国営にしていることは独占という形で国民の選択ができないことです。消費者にとって選択の余地がないことはマイナス要因でしかありません。また国営であるということは最終的には国民が負担することでもあります。現在は赤字ではないと言われていますが、赤字になった場合その赤字を負担するのは国民自身です。例えば政府の案では郵便局を過疎地でも閉鎖させないとしていますが将来に渡って確約できるかはわかりません。しかしどちらにしても最終的には国民が負担することには変わりありません。郵便局がなくなって不便を受け入れるか、将来赤字になってその赤字を国民のお税金で穴埋めするかです。どちらがより少ない負担で済むかの問題です。郵政民営化について考えるとき、このようなことも参考にしてほしいと思います。
 次に労働者としての側面での反対です。
 今までのように倒産しないという安定した職場でなくなるのですから反対して当然です。私が郵政で働いていたならやはり反対します。しかし個人の人生を考えるときは反対でも国としての政策を考えるときは国民全体の将来にとって有益であるかどうかで判断する必要があります。今の子供たちが大人になったとき「より暮らしやすい社会」になっているような視点で考えなければなりません。個の視点ではなく子の将来の視点です。世の中にはいろいろな考えの人がいるのですから全員が100点満点満足することは不可能です。個の満足は60点に抑え子の将来の満足が100点となるような選択をしたいものです。
 各党がマニフェストを発表していますが、立派なマニフェストも実現できなければ糊塗したことになってしまいます。例えば野党の中には「年金一本化」を掲げている党もありますが、これを実現させるのは並大抵なことではありません。「年金一本化」に限らずマニフェストを実現しようとするとき必ず反対勢力が出てきます。そのとき反対勢力を押さえ込み実現させることができる「力」や「方法」が必要です。それらがないばかりに今までに頓挫した改革がいかに多いかは歴史が物語っています。投票する際はマニフェストだけに目を奪われるだけでなくそうした「力」や「方法」が持っているかどうかも判断材料にしなければなりません。
 ところで私は仕事柄いろいろな街を歩くのですが、どこに行っても目につくのは民家の家の前に掲げてある張り紙です。「飼い主の皆様へ」と題して「犬のフンは自分で始末してください」と書いてあります。どこの地域でも自分のことしか考えない人はいるのですね。そのような人は問題外として、みなさ~ん、自分のことだけでなく国全体にとって利益になるような政策に投票しましょう。
                       じゃ、また。




シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする