<テレビの見方>

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僕はたまにテレビ東京の「ガイアの夜明け」を見るのですが、先週はジーンズメイトを取り上げていました。ジーンズメイトは名前のとおりジーンズを中心にしてカジュアル系の洋服を販売している会社ですが、ここ8~9年赤字が続いており昨年トレーニングジムで有名なライザップに買収されていました。そのジーンズメイトを再建するようすを取材していました。
ジーンズメイトについて書く前にこの「ガイアの夜明け」という番組について少し書きたいと思います。最近、テレビ東京が注目されることが多いのですが、番組作りがほかの局とは違っていることが興味深く思われているようです。例えば「Youは何しに日本へ?」とか「家、ついて行ってイイですか?」などはほかでは観ることがない番組です。番組は知らなくとも番組名だけは聞いたことがある人は多いのではないでしょうか。
テレビ東京の特長は低予算で番組を作っていることですが、というよりは低予算で「作らざるを得ない状況にある」ことですが、それが逆にほかのキー局とは違った発想を生んでいるのかもしれません。ある経済誌の取材にテレビ東京のプロビューサーが「キー局との大きな差を実感している」と告白している記事を読みましたが、一般人が思うより以上にキー局との差は大きいようです。
低予算が宿命のテレビ東京ですので自ずと一般人を取材する番組が多くなるようです。先の「Youは何しに日本へ?」や「家、ついて行ってイイですか?」も一般人が番組に登場するだけですから低予算でも可能な番組です。その延長線上に「ガイアの夜明け」もあるように思います。この番組もビジネス関連の人物や仕事を取り上げて伝えるのですから低予算で済みそうな番組です。
最近の放送で僕が印象に残っている内容は大手引越し会社で働いている従業員が会社から理不尽な待遇に遭っているようすを伝える放送でした。会社と従業員の対立といいますか、戦いを取材しているのですが、番組は従業員側の視点から番組を制作していました。
番組の中で特に注目を集めたのは副社長が取材陣に対してまるでチンピラヤクザのような激しい口調で詰め寄る映像です。態度や目つきや振る舞いはまさにヤクザと見間違うほどの迫力がありました。あの映像だけでこの会社がブラック企業であることが伝わってきます。
おそらく民間のキー局ではこのような番組を作ることは不可能でしょう。理由は言わずもがなですが、企業は広告のスポンサーでもあるからです。報道番組は常にそういた問題を抱えていますが、民間である以上仕方のない面があります。
ネットなどでは引越し業者のブラックぶりを批判する記事が溢れていますが、そんな中ある経済誌が引越し会社にインタビューを行っていました。取材相手は番組内で取材陣に対してチンピラヤクザのような口調で怒鳴り詰め寄っていた副社長でした。記者はチンピラヤクザふうの怒鳴り口調についても質問しています。
すると、「あれはカメラを持っている人が私の足を踏んだから怒っているのです」と答えています。あの映像は「テレビカメラ用に仕組まれたもので、それに引っかかってしまった」のが実状のようです。それを聞いてからあの映像を観ますと確かにそのように見えなくもありません。もし、そのような取材方法をとっているならあこの番組の全体の構造が変わってくることになります。
大手引越し業者の番組を放映した日は、安売りをウリにしている大手小売業の会社のブラック企業ぶりも伝えていました。上場一部の立派な大企業でありながら、サービス残業をを常態化させているようでした。番組では、労働監督署に密着するという内容で早朝から出勤してくる社員を車の中から隠し撮りしている映像でした。
このときは社長がインタビューに応じ、反省の弁を述べ今後改善する旨を話していましたので引越し業者ほどの悪いイメージは伝えなかったように思います。
この2つの会社はブラック企業であることは間違いのないところですが、僕が気になるのは両社とも現在も営業を続けていることです。本当に極悪企業でブラックであるならあれだけのイメージダウンを与える番組が放映されていたのですから倒産していてもおかしくないはずです。そこが気になります。
さて本題に入りますと、先週のガイアの夜明けはジーンズメイトという企業を再建するようすに密着取材する内容でした。密着した番組の主人公は岡田 章二氏という方ですが、昨年までユニクロを展開している株式会社ファーストリテイリングに在籍していた方のようです。番組では岡田氏がいろいろな指示を店長や従業員にテキパキと出していたのですが、驚いたのはジーンズメイトの社長にまで指示を出していたことです。肩書は最高顧問ということでしたが、番組を見ている限り権限は社長よりも上のようでした。
そこで気になりますのは社長ではなく社長をサポートする最高顧問という肩書です。僕は常々思っているのですが、コンサルタントとか再建請負人などという立場の人たちの評価についてです。このような人たちのズルいところは短期間だけしか関わらないことです。経営という仕事は短期間では評価できる種類のものではありません。短期間でよいなら、ある程度経営センスに長けている人なら誰でもできます。経営で最も重要なことは好業績を「継続させる」ことです。それなくして経営もなにもあったものではありません。
ガイアの夜明けのような番組においても同じ問題があり、番組内で成功した事例を伝えていてもあくまでそれは取材している期間だけのことです。繰り返しますが、経営で重要なことは「継続する」ことです。それを取材というほんのわずかな期間だけで成功したと評価するのには違和感があります。
番組内ではジーンズメイトの社長が岡田氏の部屋に入ってくる映像がありましたが、あの映像は社長が最高顧問である岡田氏に呼びつけられている印象をあたえます。意図的なものかどうかわかりかねますが、あまり感じのよいものではありません。本来、社長とは企業の業績を左右する重要なポストで、すべての決定権があるべき要職です。その社長が外部からきた人間に呼びつけられているのでは社員のモチベーションが上がるわけがありません。
番組ではあの場面以外に社長は出てきませんでしたが、あのような状況では組織がスムーズに回るとは思えません。会社という組織が活動するとき、最も大切なことはそこで動いている人たちの意志であり、意思の疎通です。外部から来た人間が最高顧問という肩書をつけているとはいえ、偉そうにふるまっている会社が健全とは思えません。岡田氏が本当に再建をしたいなら社長という立場になることが必要です。
若い人には古い話になってしまいますが、「iモード事件」という初期の携帯電話を開発するようすを書いている本があります。これを書いたのは松永真理さんという元リクルートの編集長ですが、松永さんはリクルートからNTTドコモという全く畑違いの仕事場に転職しています。松永さんがそこで奮闘する姿は、外部からの人間が入っていって仕事をすることの難しさを教えてくれています。
ジーンズメイトを紹介したあの番組もたった30分だけの短期間で実態を伝えることは不可能です。テレビ番組というのはそのような部分があるということを前提に見ることが必要です。
先ほど書きました松永氏は元リクルートの社員ですが、今から20年くらい前の頃、仕事人として注目される人には「元リクルート」と「元IBM」の人が多いと言われた時期がありました。番組に登場した岡田氏は元ユニクロですが、今の時代は「元ユニクロ」という人が多いような気がします。
じゃ、また。




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