<今週は、ドキュメント番組の見方>

pressココロ上




早いもので今年も残り2週間となりました。毎年のことながら「あっという間」です。ですが、僕の中では11月から今日までの期間が昔とは違うような気がしています。それは年末を迎える心の準備を急かせるメッセージが遅くなっているという印象です。
ちょっとわかりにくいかもしれませんので具体的なことを書きますと、クリスマスが来ることを知らせるメッセージがその一つです。昔は11月に入ったらすぐにクリスマスソングが繁華街で流れていましたし、煌びやかな電球が散りばめられたクリスマスツリーが至るところで飾られていたように思います。僕はいつも「ちょっと、いくらなんでも早いんじゃね」と思っていました。しかし、一応小売業の基本は旬の時期が来るまでに消費者にイメージを喚起させることですので「仕方のない面も」と理解はしていましたが、心の中ではやはり「ちょっと、早いんじゃね」と思っていました。
先に書きましたように小売り業界はイベントを早めにやって消費者のイメージを喚起するのが基本ですが、そうした慣習がどんどん早まりすぎてしまいますと弊害が起きることになります。近年の百貨店業界はまさにその真っただ中にいました。セールを「前倒し前倒し」で行うようになっていました。それを解消しようと奮闘していたのが三越伊勢丹の大西社長でした。しかし、その大西社長は反対勢力によって解任されてしまいました。
現在、相撲協会内での対立がマスコミで連日報道されていますが、どんな組織でも争いが起きるものです。こればかりは人間が集まるところには必ず生じるものですので仕方ない面がありますが、それでもやはり外から見ていると感じのよいものではありません。
対立が起きますと、どちらかが悪でどちらかが善という構図がどうしても頭の中に浮かびますが、現実はそれほど単純ではないかもしれません。ノーベル賞を受賞したボブ・ディランさんは「正義の反対は悪ではなく、別の正義」と喝破していますが、ここに紛争を解決する難しさがあります。
そして、さらに難しいのは決着点を見るにはどちらかの正義を選択する必要があることです。三越伊勢丹においては大西社長の正義と反対派の正義があったはずですし、相撲協会においても同様です。貴乃花親方が正義なのか相撲協会が正義なのか外から見ているだけではわかりません。
僕はこのような対立を見ますと「戦争広告代理店」という本を思い出します。この本については幾度かこのコラムでも紹介したことがありますが、「アメリカのPR企業がボスニア紛争においてセルビアを悪にしたてあげ、いかに ボスニアに有利な国際世論を作っていったかを描いた作品」です。対立において勝利を勝ち取るにはいかにして自分の主張を認めてもらうかが重要になってきます。この本を読みますと、最終的に重要なことは「事実ではなく、イメージをどれだけ社会に訴え、世論を味方につけること」というのがわかります。
究極的に考えてみますと、これはあらゆる場面で当てはまります。本来、裁判という制度は悪人を裁く場ですが、これも検察と弁護人の戦いにおいていかにして自分の主張を訴えられるかにかかっています。冤罪が起きるのも「事実ではなく、イメージの重要性が大きな要因」となっているからです。
古い話になりますが、戦後の日本の犯罪史で最も注目を集めた事件の一つに永山事件があります。これは1968年に「当時19歳の少年だった永山則夫が起こした拳銃による連続殺人事件」です。この事件が注目を集めたのは犯人の生い立ちがあまりに悲惨だったからです。
ちょっと長いですが、最高裁での判決をウィキペディアより引用します。
「「永山が極貧の家庭で出生・成育し、両親から育児を放棄され、両親の愛情を受けられず、自尊感情を形成できず、人生の希望を持てず、学校教育を受けず、識字能力を獲得できていなかったなどの、家庭環境の劣悪性は確かに同情・考慮に値するが、同じ条件下で育った他の兄たちは概ね普通の市民生活を送っており、また上京から3年以上社会生活を送った後に保護観察措置を自ら拒否して逃避した末に連続殺人の犯行を犯していることから、生育環境の劣悪性は4人連続殺人を犯した決定的な原因とは認定できない」
結局、永山則夫は死刑になっています。
先週、印象に残るドキュメント番組がありました。タイトルは「ザ・ノンフィクション 人殺しの息子と呼ばれて…」というものですが、2002年に発覚した北九州連続監禁殺人事件である夫婦の下に生まれた男性を取材したものです。劣悪な環境で育った少年が成長してく過程の心の軌跡がインタビュー形式で語られているのですが、この青年が淡々とインタビューに答えている姿が印象的でした。
先週のコラム題名を覚えているでしょうか。「テレビの見方」だったのですが、僕はテレビに対して懐疑的です。いったいどこまで事実を伝えているか、です。広告代理店は依頼主の立場で事実を伝えます。しかし、ドキュメント番組は依頼者がいません。だからこそ注意が必要です。
ドキュメント番組でありがちなのが、最初にストーリーを作り、それに沿った番組内容にすることです。これには作り手の思いが理由のこともありますし、費用の面でということもあります。先日のニューストピックスに「情熱大陸」という番組のプロデューサーを取材する記事がありましたが、この番組もドキュメント番組の老舗です。
テレビ局の一番の問題点は制作を下請けに投げていることです。この「情熱大陸」もそのようですが、下請けが制作したものをただ選別するだけでは番組を作る心意気というものがどうしても欠如しているように感じてしまいます。究極的にはテレビのドキュメント番組の問題点はそこにあるように思います。
ドキュメント番組を見るときはテレビカメラがどのようなタイミングでどのような角度から撮っているかを想像することが大切です。大家族の生活ぶりを取材する番組がありますが、あれなどはカメラが撮影されているときにいつも問題が起きています。このような番組を信頼するわけにはいきません。
番組を作るうえで「必要である」とか「効果がある」という理由で映像を撮っているならそのドキュメント番組はすでにドキュメントではありません。それを見破る目安になるのがカメラのタイミングと角度です。
フェイクニュースが注目されていますが、恣意的なドキュメント番組も立派なフェイクです。そのことを制作者の方々は肝に銘じて番組を作ってほしいと思っています。
それにしても、太川陽介さんのマスコミ対応は素晴らしかった!
奥さんである藤吉久美子の記者会見はドキュメントだったけど、松居一代さんの記者会見は無理矢理感満杯だったな。
じゃ、また。




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