<マスコミの責任>

pressココロ上




油圧機器大手「KYB」という会社の子会社が地震対策に使う免震・制振装置の検査データを改ざんしていたことが公表されました。中高年以上の人ですと覚えているでしょうが、今から13年前に「姉歯事件」という建築に関する事件がありました。これは一級建築士の姉歯さんという人物が建物の耐震強度を偽装した事件です。このときはマスコミ報道の過熱ぶりが凄まじく、僕などは事件よりも報道の過熱ぶりのほうを記憶しているくらいです。約1ヶ月間、どこのチャンネルを回しても「姉歯、姉歯」を取り上げていました。
しかもマスコミは「視聴率がとれる」または「販売部数が伸びる」という理由で、あることないことまで報じていました。「豪邸に住んでいる」とか「隠し財産がある」とか「愛人がいる」などバッシングされるに値する「あることないこと」を伝えていました。のちにすべて誤報であることが判明するのですが、そうした報道が影響いたのでしょう、姉歯さんの奥さんは事件の翌年に自殺をしています。このときは新聞などは一面で報じることはしましたが、その原因がマスコミ自身にあるとは伝えていませんでした。
マスコミもしくは世論というのは本当に曖昧でふわふわとしていて、ある一つの流れができるとそれに乗っかるまたは従う傾向があります。しかもその流れは、一定期間を過ぎますと反対の方向に流れるという特徴があります。このこと自体は「振り子法則」が働いていることですからよいことだと思いますが、あまりに振れ幅が大きいと傷つく人が出てくるのが問題です。
姉歯事件にしても、2011年に起きた東日本大震災の際に「耐震強度を偽装した建物は倒壊しなかった」、つまり「耐震偽装はあまり問題ではなかった」などという報道がありました。バッシングされていた当時、姉歯さんは偽装を認めてはいましたが、「強度には問題がない」と話していました。それが真実だったことが証明されたことになります。いったい姉歯事件のときのバッシングはなんだったのでしょう…、と思わずにはいられません。
さて、こうした過去の事件を踏まえつつ、今回の「免震・制振装置の検査データを改ざん」事件について考えてみたいと思います。
不正改ざんが公表されたあと、国土交通省は改ざんがあったとしても「震度7くらいの地震に対する強度は保たれている」と見解を発表しています。しかし、普通に考えるならこの見解で納得する人はほとんどいないでしょう。なにしろ今現在住んで生活している人がいるのですから当然です。しかし、ここはマスコミの方々は冷静になって報じてほしいと思っています。
実は、姉歯事件があれだけ激しいバッシングになったのは、偽装が発覚したあとの建設会社の小島社長および姉歯さんのマスコミ対応の姿勢にあると思っています。今でこそマスコミ対応次第でマスコミの報道の仕方が変わることが企業の幹部に浸透していますが、当時はそのような発想はありませんでした。ですから、小島社長にしても姉歯さんにしてもマスコミへの対応の重要さがわかっていなかったのです。ですから、普段どおりの受け答えをしてしまい、それが激しいバッシングを招いてしまいました。
その点で言いますと、今回の油圧機器大手「KYB」の社長の会見は姉歯事件のときの小島社長および姉歯さんに比べますと問題のない会見だったように思います。今の時代はリスクコンサルタントという謝罪会見をスムーズに無事に終える方法を伝授する会社があります。おそらくそうした会社のアドバイスを受けているはずです。
それはともかく今回の企業は行政と密に連絡をとり、マスコミを敵に回さないような会見を継続させることが重要です。いらぬバッシングを招かないことが事件を穏便に収束させるうえで最も大切です。
いらぬバッシングを招かないためにあと一つ重要なことがあります。それは事件が表面化した経緯についても誠実に対応することです。具体的に言いますと、内部告発をした元従業員に対する処遇です。現在、この元従業員は転職をしているようですが、本来は企業を正そうとした人なのですから優遇されてしかるべき人です。それが反対に職場にいられなくなっているのですから企業のガバナンスに問題があることを示しています。
内部告白で思い出すのが2002年に起きた「雪印食品牛肉偽装事件」です。これは輸入肉を国産肉と偽って国からの補助金をだまし取っていた事件ですが、この事件により雪印食品は消滅してしまいました。それほど大きな事件でした。
この事件を告発したのは雪印食品と取引があった会社の社長さんですが、この会社は告発をした後に取引先が次々にいなくなり、休業状態になったそうです。正義の行動をとったことで苦境に陥ったことになります。この2つの事件に限らずほかの内部告発を見ていますと、日本では内部告発者のその後の人生が暗転しています。米国では内部告発者に報奨金のようなものがあるそうですが、日本でもなにかしらの対策をしませんと「正直者が馬鹿を見る」社会になってしまいます。
今回内部告発をした元従業員はニュース番組に顔出しNGで出演していましたが、この方は最初上司に違法性を指摘いたそうです。それをうやむやにしようとしてした上司または幹部の人たちは今頃いったいどのような気持ちでいるのでしょう。免振偽装に関しては3年前に東洋ゴム工業が免震ゴム性能において偽装していた事件がありました。このときは社長を含む幹部が数人辞任していますが、そうしたニュースを今回の事件の幹部はどのような気持ちで見ていたのでしょう。
「自分たちは見つからない」と
考えていたのでしょうか。そうとしか思えないこれまでの対応です。
このような事件が起きますと、市場競争が激しいからという理由をあげて競争に問題があるようにいう意見が出てきますが、市場競争と法律違反は別物です。競争をする際に法律を守るのは大前提です。100メートル競走でドーピングをしてはいけないのはわざわざ言うまでもないことです。
今回の事件が今後どのように展開するのかはわかりませんが、その大きさを決めるのはマスコミです。もちろんほかに起きな事件が起きるなど外部要因も絡んできますが、それを考慮しても事件を大きくするかしないかはマスコミの匙加減にかかっています。
マスコミの方々は徒に問題を大きくするのではなく、平和で平等な公平な社会になるように報じてほしいと思っています。
なぜ、このようなことを書くかと言いますと、朝方見た番組で高級ブランドが立ち並ぶ青山地区で障害者施設の建設についての報道に違和感を持ってからです。番組の中で区の職員と建設地域の住民とのやり取りを報じていましたが、反対する住民が激しい怒鳴り声で区の職員を追究している画面がありました。
それについて意見を求められた専門家が「この開発に関係しているが、あのような怒鳴るような住民の方は少数派」と話していました。テレビ局はインパクトのある映像がほしいばかりに極端な意見を取り上げる、報じる傾向があります。しかし、そのようなマスコミの姿勢は社会を間違った方向に導くことになります。
そのような印象を受けましたので、今回のコラムとなりました。
じゃ、また。




シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする