<評価の移り変わり>

pressココロ上




昨日、ニュースを見ていましたら、小泉元首相がかつての仲間の政治家と食事会をする映像が映りました。山崎拓氏や小池都知事や二階幹事長などと食事をともにしたようです。もしかしたなら、参議院選がダブル選挙になる可能性も噂されていますのでニュースになったのかもしれません。

僕は小泉氏をニュースなどで見るたびに思い出すことがあります。今から5年くらい前のことですが、ある物件の掃除をしているときに隣の戸建ての家に仕事でやってきていた測量士さんの言葉です。測量士さんは60才前後の方でご自分で事務所を開業しており、社員の方と来ていました。

たまたまその方と話す機会がありしばらく立ち話をしたのですが、その方曰く「小泉さんのおかげで仕事が減った」と嘆いていました。小泉さんは規制緩和を進めていたのですが、規制は既得権益者にとっては好都合のものでした。なぜなら、競争相手が現れないからです。

業者にとって得になることは、利用者や消費者にとっては損になることです。競争が起きないのですから自分たちが好きなように仕事ができます。僕は既得権益に反感を持っていましたので、やんわりと反論しましたが、今一つ理解されなかったようです。

僕は小泉氏の政策を支持していましたが、反対に今でも小泉氏を評価しない声を聞くことがあります。小泉氏が「昔から連綿と続いてきた社会の規範を乱した」と考えている人たちです。立場により人の評価は変わります。

小泉氏の評価について考えていましたら、その連想の続きとしてスティーブ・ジョブズ氏が頭の中に浮かんできました。

スティーブ・ジョブズ氏は言わずと知れたAppleの創業者で、iphoneの生みの親としても有名です。今の若い人ですと、iphoneのほうでしかわからないかもしれません。IT業界に精通している人ならともかく、普通の知識しか持っていない人ですとiphoneのジョブズ氏でしょう。

僕の年代ですと、Microsoftのビル・ゲイツ氏とのライバル関係が記憶に残っていますが、簡単に言ってしまいますとジョブズ氏はゲイツ氏との戦いに負けたわけです。しかし、数年後に見事復活していますから、やはり才能が優れているのは間違いないところです。

僕は天邪鬼ですので普通の人とは違う考えを持つことが多いのですが、例えば僕が開業したラーメン業界で業績を決めるのは「味ではない」と思っています。この僕の意見は一般の人からは否定的な反応をされることが多いですが、業界に詳しい人には理解される傾向があります。

しかし、中には周りの反応を気にして本音を隠して「味が一番重要」などと言う人もいますし、また、中には本気で「味が一番」と考えている人もいますので難しいものがあります。

同じように、IT業界でも20年以上前AppleがMicrosoftとの競争に負けたのは「windowsのシステムが優れていたから」と思っている人が多くいました。ですが、天邪鬼の僕が納得したのは「Appleが自社のシステムをほかの会社に使わせなかったのに対して、Microsoftはほかの会社にも使わせたこと」という解説でした。

その記事には、『ビジネスにおいては「閉鎖的」よりも「解放的」のほうが成功する』と解説されていました。確かに、Appleは自社のOSを自社製品にしか使わせていませんでしたが、windowsは米国のIBMなどほとんどの企業と、日本においてもNECや東芝や富士通などすべてのパソコンに導入されていました。いわゆるプリインストールというわけですが、これではappleと差がついて当然です。その先見の明という点においてゲイツ氏は優れていたことになります。

業績の悪化の責任を負わされて、ジョブズ氏はAppleを追われるわけですが、(「負わされる」と「追われる」で韻を踏んでみました(笑))、ピクサーやNEXTといった企業を創業したのちにappleから請われて復帰しています。復帰した理由は、ジョブズ氏が去ったあとのappleの業績がさらに悪化していたからです。

その後CEOにまで復活し、iPod・iPhoneなどで大成功を収めるわけですが、2011年に56才の若さで亡くなっています。ジョブズ氏はスピーチの達人としても有名ですが、特にスタンフォード大学でのスピーチは今でも語り継がれています。幾度かこのコラムでも紹介しています。

最近になり、そのジョブズ氏の評価に「疑問を投げかける」とまでは言いませんが、違う一面を指摘する記事を幾つか目にしました。例えば、ジョブズ氏亡きあとのAppleの業績からジョブズ氏の経営者としての実力を考察するものです。

どんな企業にもあることですが、カリスマ的な経営者がいなくなった企業はカリスマ経営者の存在感が大きすぎたゆえに業績を落とすのが普通です。しかし、Appleはジョブズ氏亡きあとも業績を落とすことなく成長しています。その理由がジョブズ氏の評価の再考に関係しています。

ジョブズ氏のあとを継いだのは現在のCEOであるティム・クック氏です。つまり、ジョブズ氏がいた当時から実際にAppleを経営という視点で動かしていたのはクック氏だったという記事を読みました。記事によりますと、ジョブズ氏は製品を創る才能には優れているのですが、経営の裏方として最も重要な「在庫管理などにおいてはあまり精通していない」と書いてありました。

ジョブズ氏はどんぶり勘定で製造していたそうで、売れるとなるとたくさん作り、作りすぎたあとは値段を下げて売りさばくということを繰り返していたようです。ですから、マスコミでの賞賛に比して業績的には芳しくなかったそうです。そうした状況を立て直すために在庫管理の専門家としてクック氏を招へいしたようです。実際に、クック氏が来てからAppleの業績は上がったそうです。

同じようなことがAppleを追い出されたあとに創業したピクサーでも起きていたようで、財務関連の専門家としてジョブズ氏の元で働いていた人物の著作を読みました。その中でもジョブズ氏の財務的な問題点などが指摘されていましたが、ジョブズ氏は財務に関してもあまり詳しくないことが書かれていました。

米国では日本に比べて新しい企業が生まれやすい環境が整っていると言われています。そして、将来的の伸びそうな企業をスタートアップ企業と言うそうですが、そうした企業をサポートする環境が優れています。

例えば、googleにしても検索技術を開発した二人の青年は確かに素晴らしい才能の持ち主ですが、検索技術を考える才能と企業を経営する才能は全く別物です。資金調達や人員採用など様々な問題に対処しなければいけないのが経営者です。

米国はそうしたサポート体制ができているのが、GAFAと言われるIT企業が誕生した秘訣です。ジョブズ氏がAppleを創業して大成功を収めた時代よりもその体制は充実しているはずです。ですから、時代が進んだあとに過去の出来事について評価する際は注意が必要です。

当時と現在では周りの状況が全く違っているからです。その違いも踏まえたうえで評価するのが正しい評価のあり方だと思います。

もし、ジョブズ氏が「僕が考える評価のあり方」について感想を求められたとき、日本語で答えるなら、こう言うと思います。

「ん~ん、ひょうか」

じゃ、また。




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