<榎 啓一さん>

pressココロ上




前に「新聞を購読しなくなってから情報を得る方法が変わった」と書きましたが、僕は毎日30分~1時間くらいをかけてネットサーフィンで新聞記事や経済紙、または週刊誌などを読んでいます。最近気に入っているのは「ITmedia」というサイトですが、ほかのネットとは一味違った内容が書いてあり、勉強になります。

タイトルの頭に「IT」とついていますので、読む前はPCとかスマホ関連などいわゆるIT業界の記事に特化しているイメージがありました。ですが、取り上げている内容はビジネス全般です。それでもやはり、ネットに関連のある業界が多いのですが、飲食業や製造業までほとんどすべての業界を取り上げています。また、ビジネスマンの自己啓発関連についても書いてありますので、経済誌といっても差しさわりはないでしょう。

このように新しいメディアがいろいろと登場していますが、僕の年代からしますと、経済誌としてはダイヤモンドと日経ビジネス、東洋経済が頭一つ抜けている印象があります。ですから、ネット情報を読む順番としては新聞全般に目を通してからNHKのwebニュースを読み、それから経済誌のオンラインで気になった記事を読んでいます。

先日、その日経ビジネスに夏野剛さんの記事がありました。ここでわざわざ説明する必要もないほど夏野さんは有名な方ですが、一応紹介しますと、夏野さんを世に知らしめたのはNTTドコモの「i-mode(アイモード)」です。「i-mode」と言いましても、今の若い人は知らない人もいるかもしれません。

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i-mode(アイモード)は、NTTドコモ(以下、ドコモ)の対応携帯電話(フィーチャー・フォン)にてキャリアメール(iモードメール)の送受信やウェブページ閲覧などができる世界初の携帯電話IP接続サービスである
―ウィキペディアより引用
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ITに疎い僕ですので詳しくはわかりませんが、現在当然のようにihponeやスマホなどでインターネットを利用していますが、そのシステムを最初に作ったのが「i-mode」のようです。そして、それを実現させたチームで重要な役割を果たしていたのが夏野さんです。

僕のコラムは15年くらい続いていますが、これまでに夏野さんについては幾度か書いています。もしかすると、取り上げている回数は一番多いかもしれません。その理由は、自分が脱サラでラーメン店を開業し廃業したことで、「失敗」に関心を持つようになったからです。

そうした心中のときに、たまたま板倉雄一郎氏の「社長失格」という本を読み、その中に登場したのが夏野さんでした。この本は1990年後半にハイパーネットというベンチャー企業の誕生から倒産までを書いた本ものですが、当時、板倉氏はこの本がベストセラーになったことでマスコミでとりあげられることが多く、ある番組では再現ドラマまで製作されていました。

もちろん一連の盛り上がりの中でマスコミから注目されたのは板倉氏です。夏野さんはあくまで脇役の立場でしかありませんでした。ですが、脇役とはいえベンチャー企業での役職は副社長でしたので重要な役割を担っていたのは間違いありません。ですが、その本を読んだときはあまり印象に残る登場人物ではありませんでした。

それどころか、企業が危急存亡のときに、副社長という立場でありながら、「逃げた」印象もありヒール感を持った人も少なくないかもしれません。

その夏野氏を思い出させたのが「i-mode事件」という本です。この本は世界初の「i-mode」が誕生するまでの苦労がつづられた本ですが、著作は松永真理さんという方です。松永さんはリクルートの雑誌「とらばーゆ」などの編集長からNTTドコモに転職した方で、「imo-de」を成功させた立役者です。

松永氏は雑誌の編集長から「i-mode」の責任者に引き抜かれたわけですが、夏野氏を開発チームに誘ったのは松永氏です。松永氏と夏野氏の接点のはじまりは夏野氏がリクルートでアルバイトをしていたことです。そして、バイトを辞めてからも定期的に連絡を取り合っていたようです。おそらく松永氏は夏野氏の能力を買っていたのでしょうし、夏野氏も松永氏に魅力を感じていたのでしょう。

余談ですが、僕はコンサルタントという職業が好きではありません。そのきっかけになったのはこの「i-mode事件」を読んだことです。この本にはNTTドコモの本体に属している人と夏野氏のように外部から新たに入ってきた人と、コンサルタント会社からやってきた人の3つの集団から成り立っている組織で一つの事業を成し遂げることの困難さが書いてあります。

それぞれ属している集団は考え方もやり方も全く違いますので、どうしても反目する状況が生まれてしまいます。その中で特にエリート意識が強いコンサルタントの人たちの姿勢に違和感を持ちました。責任は負わないのにまるでなんでもわかっているように上から目線でふるまっている姿に嫌悪感を持ったのです。それ以来、僕はコンサルタント業を信頼しないようになりました。

話を戻しますと、NTTドコモは3つの集団の軋轢がありながらも「i-mode」を成功させたのですが、表向きの立役者は松永氏です。だからこそ松永氏は「i-mode事件」というベストセラーを出版することもできたのですが、よくよく考えてみますと、雑誌の編集長であった松永氏がどうして「i-mode」の責任者になったのか、という疑問が沸きます。しかも松永氏はITに全く疎い状況でした。

また、「一介の」という表現がふさわしいかわかりませんが、一介の民間企業から元々は国営企業である巨大企業に転籍するのは並大抵のことではないはずです。松永氏が在籍していたリクルートは一応は名の知れた企業でしたが、NTTドコモに比べますと伝統もなく歴史も浅く、一つ間違えますと倒産することすらあり得る一民間企業です。例えるなら、像とアリくらいの違いがあります。

これだけ成り立ちや企業規模が違う企業間で転籍するのは、普通なら不可能です。やはり巨大企業には巨大企業なりのエリート意識があり、一介の民間企業の人を受け入れるのはかなりの抵抗があるのが当然です。

そんな状況にもかかわらず、松永氏を責任者に任命したのが榎啓一さんという方です。「i-mode事件」に出てきますが、榎さんという方はエリート企業に勤めていながら交流範囲がかなり広かったようです。そうすることで人材を探していたのかもしれませんが、人を見る目の確かさを思わずにはいられません。

また、エリート意識が強いNTTドコモという企業において、外様を事業のトップに据えるのは容易ではなかったと想像します。それを実現させたところから榎氏の企業内におけるマネジメント能力の高さがわかります。

実は、日経ビジネスに夏野氏が書いていたのはこの榎氏のことです。尊敬できる理想的な上司として榎氏のことを書いています。夏野氏の記事や「i-mode事件」に出てくる榎氏からわかるのは、榎氏のビジネスマンとしての有能さと人間的なすばらしさですが、そうしたことがわかればわかるほど不思議なのは、榎氏があまり表に出てこないことです。

榎氏の実績からしまうと、松永氏に負けないくらい世に出てもおかしくない方です。今回の夏野氏の記事に寄りますと、最後は役員で会社員生活を終えているようですが、もっと社会的知名度を高めることもできたはずです。もしかすると、人格者という方はひっそりと人生を送ることをモットーにしているのかもしれません。

iモードの猛獣使い 会社に20兆円稼がせたスーパー・サラリーマン

著・榎啓一(講談社)という本を出版していますが4年前のことです。もっと早く出していてもよかった本です。謙虚な方なのでしょう。

じゃ、また。

追伸:松永氏の部下として仕えた女性の話も興味深いですよ。
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO13412430X20C17A2000000/?







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