<信頼感の裏付け>

pressココロ上




今から17~18年前のことですが、ある中学校で行われていた授業が注目されたことがあります。「よのなか科」という授業ですが、その授業を考案したのは藤原和博氏という方です。それまでの杓子定規な授業の進め方ではなく、実際の生活に即した授業をすることで注目を集めました。

当時藤原氏は、いろいろなメディアに出演していましたが、それは藤原氏の経歴が大きく関係しています。中高年以上の方はご存じでしょうが、元々藤原氏はリクルート出身のビジネスマンでした。リクルートが成長したのは就職雑誌が成功したことです。その広告営業で頭角を現したのですが、「伝説の営業マン」というキャッチフレーズでマスコミで重宝されていました。

マスメディアに出演するようになったのは、外見上はボーっとした風貌でありながら、「実は東大出身」という経歴がものを言っているはずです。僕が覚えている映像は、10チャンネルの深夜にバラエティー番組に出ていた藤原さんです。

一見すると、うだつが上がりそうもないサラリーマンが、悩んでいる若者に的確なアドバイスをするというギャップがマスコミ受けをしているようでした。マスメディアに登場するには肩書がとても重要ですが、リクルートで「東大出身の伝説の営業マン」に価値があるのは間違いないところでした。

本人もそのあたりはしっかりと理解し押さえていたようで、のちに中学校の校長として改革をするにあたり、マスコミの巻き込み方が絶妙でした。公立中学校で民間人が校長になることは大変です。教職員の間には間違いなく民間アレルギーがありますので、批判し抵抗する教職員が少なくないからです。そのような環境で改革を実行するのは並大抵のことではなく、それなりの手練手管が必要です。それを身に着けていなければできない改革でした。

藤原氏が伝説の営業マンといわれるようになった逸話を読んだことがあります。

ある取引先に毎日のように通い、まるでそこの社員のような存在になっていったそうです。そうしてその企業の業績をあげるように働いたことで当時の「一億円」の契約をとったそうです。この逸話からは「営業で一番大切なことは、相手企業の業績をあげることを考えること」の大切さがわかります。

中高年以上の方はご存じでしょうが、リクルートはその後政財界を巻き込んだリクルート事件を起こします。のちに藤原氏は創業者である江副浩正氏について「リクルートという奇跡」という本を書いていますが、あまり評価していない印象を受けました。

それはともかく藤原氏が考案した「よのなか科」は画期的な授業方式で学校というシステムに風穴を開けたのは間違いないと思います。これは誰しも感じることでしょうが、学校の授業は実際の生活にはあまり役に立たないことを教えています。

それに対して、「よのなか科」は実際の生活の場面に即して子供たちにいろいろなことを考えさせようとしています。例えば、ハンバーガー店の店長になったつもりで儲けが出るような価格を考えたりする授業ですが、子供たちは単に教科書を開いて算数を勉強するよりも興味を持ちます。マスコミに取り上げられたこともあり、当時は多くの学校が参考にするために授業見学に来ていました。

このように、これまでとは違った授業方式で子どもたちが積極的に勉強に興味を持つようななったのはよいことですが、僕は今一つ心にひっかかったものを感じていました。

池田晶子氏という哲学者をご存じでしょうか。池田氏は2007年に46才という若さでお亡くなりになりましたが、「14才の哲学」とか「無敵のソクラテス」といった著作が有名です。亡くなったあとも人気が衰えていないようで、本屋さんに行きますと、今でも平台に積んであったりします。その池田氏の文章で忘れられない言葉があります。

「お金は人生の大事なものなのに学校で教えてくれない、という親がいるが、人生にとって大事なものはお金ではないことを教えることこそ教育」

藤原氏はどのように感じるのでしょう。

現在、学校改革で注目を集めている中学校の校長先生がいます。マスコミで取り上げられることも多いですし、本も出版されていますのでご存じの方もいるかもしれません。工藤 勇一氏という方ですが、千代田区立麹町中学校で校長を務めていらっしゃいます。

工藤氏が注目を集めたのは、定期テストや固定担任制などを廃止し、学校や教育のあり方を根本から問い直す改革を行っているからです。藤原氏も同じような理念を掲げていましたが、大きな違いは現場からのたたき上げで校長になっていることです。

工藤氏は校長という立場ですが、校長の一つ上の立場に教育委員会という組織があります。俗な言い方をするなら「校長の上役」ということになりますが、この教育委員会の教育長に就任して注目を集めている女性がいます。

広島県の教育委員会の教育長に就任した平川理恵氏ですが、奇しくも藤原氏と同じリクルート出身の方です。また平川氏も藤原氏と同様、営業でトップセールスを記録した方ですが、なにかを成し遂げようとする方は「営業力が高い」という共通点があるようです。

僕は、平川氏が就任したのが「広島県」という場所にも興味を持ちました。以前、広島県では民間から高校の校長に就任した方が自殺をした事件がありました。報道からは自らの理念と教職員の間に対立があったことがうかがえましたが、外部の人間を敵対視する風潮が高い地域という感覚を持っていました。それだけに広島県の教育長に就任したことの大変さを想像しました。

現在、平川氏は広島県の教育現場の長としていろいろな改革を行っていますが、その姿を見ていて僕が藤原氏に感じていた「ひっかかるもの」がわかりました。それは現場を全うしていないことです。

僕は経営コンサルタント業という職種に疑問を持っているのですが、それは一時的な対処法で業績が好転したとしても、その後については責任を負っていないからです。経営で一番大切なことは、好業績を続けることです。語弊を恐れずに言いますと、一時的な好業績はある程度の実力を持っている人なら誰でも可能です。ほんの少し目先を変えるなら物珍しさから好業績を上げることは難しくはありません。難しいのは、好業績を継続させることです。

平川氏が尊敬できるのは教育現場を改革する行動を現場で続けていることです。藤原氏は現在、現場から離れ評論家的な立ち位置で活動しています。責任を負わなくてもよい立場です。本当に子どもたちのことを思い、教育現場を改革する意思があるなら現場にとどまる必要があったと思います。

教育現場で子供たちと接している教職員の方々はそういうところに抵抗感を持つはずです。いくらトップに立つ人間が素晴らしい改革を叫ぼうが、現場で動いている人たちが賛同しなければ組織は動きません。

どうせ少ししたらいなくなるくせに…。このような姿勢が見えるトップを信頼する人などいません。どのような業界でも信頼感を得るには継続する姿勢を見せることが大切です。

僕は出会ってから40年間、今でも妻を愛し続けています。

うふ、…ウソです。

じゃ、また。







シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする