<間違ったヒーロー伝説>

pressココロ上




少し前にも書きましたが、安倍首相の周りでサポートやアドバイスをしている、いわゆる取り巻きと言われる方々の感性が最近鈍くなっているように感じます。僕は政治の専門家でもありませんし、経済に精通しているわけでもありませんので、あくまでいろいろな記事を読んだ範囲での感想です。

ある記事では「最近は菅官房長官の影が薄い」などと書いてあり、不仲説まで報じていました。確かに、最近の菅官房長官は「影が薄い」と言いますか、以前に比べて存在感が弱まっている印象はあります。

安倍首相の世論に対する捉え方に違和感を感じ始めた時期と菅官房長官の存在感が薄くなった時期がちょうど合致することを思いますと、菅官房長官との不仲説もあながち間違いではないように感じてしまいます。

こうした状況は反対から考えますと、菅官房長官の感性が素晴らしかったことの証となります。その菅さんを遠ざけたのは安倍首相の大きなミスということになります。先ほどの不仲説を書いていた記事によりますと、安倍首相は菅さんのかわりにある側近の官僚の注進ばかりを受け入れているそうです。ということは、その官僚の感性が鈍くなっているのかもしれません。

これまでは菅さんと側近官僚の両方の絶妙なバランスのうえで政策のかじ取りをしたものを官僚だけの意見に偏向した結果が現在の状況かもしれません。スクープで有名な週刊誌に、女性部下との不倫を報じられた人物です。そうした醜聞がその官僚の感性を鈍らせたと考えると辻褄が合うようにも思えます。

安倍首相が官僚の意見ばかりを取り入れている、と感じたのは安倍首相が4月12日に投稿したSNSを見たからです。投稿した瞬間に多くの批判を浴びていますが、一般的な感覚からしますと今の世情にふさわしくない動画です。家のリビングで犬を抱いて寛いでいる様子を映した投稿でした。

多くの国民が感染のことや経済的なことで不安な気持ちになっているときに、総理が余裕で生活しているようすを映すことになんの疑問も感じなかったのでしょうか。それが不思議です。もし、菅さんとの関係が良好であったなら投稿などしなかったように思います。

この動画は誰が考えても安倍首相自身の発案ではなく、取り巻きの提案です。ですが、その提案を取り入れた安倍さんに最終的な責任があることは言うまでもありません。

では、なぜ周りの官僚は「寛いでいる安倍さんの姿」をわざわざ投稿しようと思ったか…。

そこには、官僚という受験戦争を勝ち抜いてきた自負を持っているエリートの発想があります。「一国のトップは世の中が不安になっているときにこそ、余裕のある姿勢を見せる」という発想です。

映画などでよく見かけますが、ヒーローは困難に遭遇し苦境に陥った状況でも常にユーモアを忘れず、余裕で対処しています。焦ったりドタバタしたりなどせず、ドッシリ構えていることが大物であることの証なのです。大物は常に余裕をカマしてなければいけません。

安倍首相の投稿映像を見たとき、僕が真っ先に思い浮かんだのは今から24年前の1996年に起きた在ペルー日本大使公邸占拠事件でした。ブリタニカ事典より引用します。

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1996年 12月 17日,ペルーのリマで天皇誕生日祝賀パーティを開いていた日本大使公邸を左翼ゲリラ が襲撃し,700人以上もの出席者と大使館関係者を人質にたてこもった事件。

ゲリラたちは獄中の仲間の釈放,戦争税 (身代金) などを要求する一方で,人質を暫時,釈放。最終的には日本大使と大使館職員,ペルー政府高官,日本企業駐在員など 72人が残された。

事件は長期化し,予備的対話も決裂。ついにフジモリ大統領は4月 22日,特殊部隊 140人による公邸突入を決行し,左翼ゲリラの14人全員が射殺され,人質1人と特殊部隊員2人が死亡した。

在ペルー日本大使公邸占拠事件の人質救出シーン。

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結局、この事件は解決までに4ヵ月以上かかったのですが、突入するまでに地下にトンネルを掘ったり盗聴器を仕掛けたりと映画さながらの展開が世界の注目を集めました。しかし、日本人の間で物議をかもしたのは、人質から救出された直後の日本大使の振る舞いでした。

その大使は長期間人質として拘束されていた状態から救出されましたので、外見からもその大変さが伝わってきました。そうした状態のままマスコミに囲まれたのですが、そのときの第一声は

「煙草を吸わせて…」。

記憶が定かではありませんが、そのような言葉がゆったりとした口調で出てきたのです。激しい銃撃戦の中をかいくぐりようやく救出されたときに、余裕のタバコ一服でした。

映画の中のヒーローが口にしそうな言葉でした。

大使はタバコをくゆらせながらインタビューに答えていたのですが、大使が見せたかったのは、どれほど大変な場面においても泰然自若な自らの姿でした。違う言い方をするなら「大物ぶりさ」です。

しかし、本人の思いとは裏腹に日本ではバッシングが起きました。「ふてぶてしさ」といったようなマイナスな印象を与えたからです。なにかの記事で本人が「サムライスピリッツを世界に示したかった」と弁明していましたが、多くの日本人には悪いイメージしか与えなかったようです。

本人は「サムライスピリッツ」を示したかったのかもしれませんが、日本人の多くには「大物ぶりを示したかった」ようにしか映りませんでした。そして、そうした発想は官僚の人に多いように思います。やはり学業の世界で常に勝ち続けてきた自負がありますので、勉強以外の面でも大物である必要性を感じているからです。

ここで安倍首相のリビングで犬を抱きながら寛ぐ投稿につながります。あの映像を思いついた官僚は、世の中が大変な状況のときは「余裕のあるポーズを示す」のが一国のトップの姿だと考えたのです。官僚の考えるヒーロー伝説です。

もちろん大きな勘違いです。今現在、一国のトップが示すべきは余裕のある姿をアピールすることではなく、トップが先頭に立って困難に立ち向かう強い意志と覚悟です。多くの国民が苦境に陥っている中で、トップが余裕を見せていて国民が納得するはずがありません。国民に外出や営業の自粛を強いるのですから、トップは国民に寄り添う姿勢を見せるのが最も求められます。

「リビングで寛ぐ姿」は全く正反対のアピールとなっています。外出自粛や営業自粛で営業が落ち込んでいるどころか、存続さえ危ぶまれている人たちからしますと、余裕のあるふうの映像は憤りしか湧いてこないはずです。

医療現場を見ていますとわかりますが、本当のヒーローは、余裕など見せられず汗水たらして必死に働いています。

じゃ、また。




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