<自分の正義>

pressココロ上




 楽天がTBSの株を取得したと報じられてから三木谷社長が各テレビ局に頻繁に出演していました。番組では評論家や識者が三木谷氏に真意を問いただす場面が多かったのですが、質問に答える三木谷氏は
「自分の正義に照らして判断する」
という言葉を使っていました。この言葉に対して私は違和感を持ったのですが、その理由は「受け売り」と感じたからです。過去に名経営者や成功した起業家はたくさんいますが、その方たちの本を読みますとその中に「正義」という言葉やそれに近いニュアンスの言葉が使われていることが多かったからです。当然、三木谷氏もそうした本を読んでいるでしょうし、それにもまして三木谷氏は現役の大企業の経営者と懇意にしていますので直接話を聞いていることも多いはずです。そうした体験から三木谷氏は「自分の正義」という言葉を使ったのではないかと想像しました。
 先日、元テニスプロプレーヤーの松岡修造さんがトーク番組に出演していました。テニスを極めたいがために慶応高校からテニスの強豪である柳川高校に転校したり、また周囲の反対を押し切ってアメリカに渡りプロを目指したという話を感心しながら聞きました。松岡さんが努力と根性でテニス人生を乗り越えてきたのは誰もが認めるところでしょう。
 柳川高校ではスポーツ強豪校によく見られる上下関係の厳しさがあったそうです。監督は神様と同じのようです。私などからすると理不尽と思えるような先輩や監督の命令に従っていた話などを面白おかしく話す松岡さんには好感を持ちます。そうしたことができたのも松岡さんに並外れた根性があるからにほかなりません。
 松岡さんは子供たちにテニスの指導もしていますが、その指導法についても話していました。松岡さんは自分のテニス人生での体験から子供たちに「自分の殻を破ってほしい」と願いながら指導しているそうです。例えば子供を指導するとき「ニヤニヤしたような優しく接することはなく強い口調で厳しく言うそうです。厳しく言うことによって子供たちは外から刺激を受け自分の殻を打ち破ることができるようになる」と話していました。本で読んだ単なる知識でなく自分の体験に基づいた指導法には説得力がありました。私は体育会系の考えを持っている人間ですので説得力を感じましたが、スポーツでの根性論に納得できない方たちからは批判もあるでしょう。そうした方々は松岡さんの厳しい口調を「子供を傷つけている」と感じることでしょう。しかし松岡さんの指導法は松岡さんが「正しいと思う考え」から行われています。そこには松岡さんの「自分の正義」があるのです。
 さて、ここまでお読みになった読者の方は私が「自分の正義」を肯定するとお思いでしょうか、それとも否定するとお思いでしょうか…。
 それでは…。
 「自分の正義」とは「自分が考える正義」のことです。世の中にはいろいろな考えの人がいるわけですからそれぞれの正義があるわけです。世界の紛争について考えてみてもアラブの正義とイスラエルの正義は対立していますし、アメリカの正義とイスラム原理の正義も同様です。先頃選挙の争点となりました郵政民営化についても小泉首相と反対議員のそれぞれの正義は対立していました。つまりそれぞれが考える正義とはあくまで「自分の正義」でしかありません。松岡さんの指導法について賛成する人も反対する人もやはりそれぞれの正義で賛成し反対していることになります。
 このように異なる正義があるとき大切なことはそれぞれの正義が両立することです。決して相手の正義を破壊することがあってはならないのです。また、自分の正義を押し付けることも行ってはいけません。
 そう! 私の主張は「自分の正義を相手に押し付けることを否定すること」なのです。
 ところで…。
 三木谷氏はTBS買収を「自分の正義で判断する」と話していました。この発言は相次いで出演していたテレビでのものですが、このテレビ出演というマスコミ露出は世論を味方につけようとした行動だと思われます。そこで私は想像します。三木谷氏は言葉を間違えたのではないか、と。たぶんテレビ出演するにあたり三木谷氏は事前に質問に対する答えを予行練習していたはずです。そして予行演習では次のように話していたはずです。
「社会の正義に照らして判断する」
 じゃ、また。




シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする