<猛省>

pressココロ上




 介護報酬の不正請求を疑われているコムスンの親会社グッドウィルグループの折口会長が記者会見を行っていました。会見時間が2時間半にも及んだようですので相当な覚悟で会見に臨んだのではないでしょうか。会見の様子は一部分しか見ていませんが、表情からは今回の騒動を真摯に受け止めている雰囲気が感じられました。そうであるからこそ、なぜ自主廃業をして「処分逃れ」をするなどという行動をしたのか不思議です。私は以前折口会長の「プロ経営者の条件」という本を紹介していますが、折口会長自身が「プロ経営者」になり得なかったのでしょうか。
 報道によりますと、不正請求はコムスンに限ったことではないようです。そうした実態が不正請求の重大さを見誤らせたように思います。見方を変えるならコムスンが「一罰百戒」の対象になった感じもします。しかし不正を行ったのは事実ですから猛省してほしいものです。
 今回の騒動では厚生省は「猛省」を促す立場ですが、「猛省」をする立場でもあります。年金問題です。ニュースでは社会保険庁の村瀬長官自身が街頭に出てお詫びをしている映像が流れましたが、パフォーマンスだけでなく国民皆が納得できる対処をしてほしいものです。それにしても新たに一千万件以上の記録漏れがあると報道されましたが、本当に照合できるのか疑問です。
 私は今回の年金問題が報道された当初、「世論があまり盛り上がっていない」感じを持っていました。ほかの人たちはあまり関心がないのかなぁ、と思っていたのですが、先週あたりではニュース番組で必ず取り上げていますし特集なども組んでいましたので内心ホッとしています。本来なら内閣が倒れてもおかしくないくらいの重大なミスのはずです。
 社会保険庁の犯したミスは「重大」ですが、その原因はあまりにも「軽小」です。単純な「読み違い」や「見落とし」など真剣に仕事に取り組んでいたなら防げる内容のものばかりです。十年ほど前に年金記録を手書きからコンピューターに移行させる際に起きたようですが、現場で作業に従事していた人たちはともかくそれを監督していた職員の方々はなにも疑問を感じなかったのでしょうか。そうであるなら猛省をしてほしいものです。
 自己責任。保険料を納めたならそれを証明する義務は納めた側にある。
 このように言う人もいるでしょう。例えば、スーパーで商品を買ったあと店を出たところで警備員に呼び止められたなら、購入した証明としてレシートを見せて立証することができます。同様に「年金保険料も納めた側が証明するのが筋である」ように考えられます。
 私は年金問題が表面化したとき保険会社の「保険金不払い問題」が頭に浮かびました。このときの「不払いの定義」を、金融庁は「契約者からの請求の有無に関係なく支払っていない保険」としました。これは当然のことです。「お金だけとって商品を渡さない」ことと同じだからです。保険会社は基本的に「請求が必要」と考えていましたが、これは「買い物をしたお客さまが商品を持ち帰るのを忘れたのをわかっていながらわざと教えないこと」と同じです。金融庁はその倫理感を保険会社に問いかけた、と私は理解しています。
 年金は保険と違い義務です。保険は入りたくなければ入らないでも済みますが、年金は支払う義務があります。義務であるからこそ、金融庁と同じ姿勢で臨むなら「納めた証明がある・ない」に関わらず社会保険庁は納めた記録を保存している義務があるはずです。金融庁に批判された保険会社でさえ保険証券を契約者に渡して契約内容を通知しています。それに比べ社会保険庁は納付者にいったいどのようなサービスをしてきたのでしょう。
 昨年の今頃でしょうか。週刊ダイヤモンドという経済誌で社会保険庁を取り上げていました。このコラムでも少し触れたように記憶していますが、記事では社保庁の杜撰な仕事ぶりが書かれていました。そしてその根源が労働組合にあると指摘していました。
 先週のニュース番組で自民党の議員が触れていましたが、社会保険庁を効率的で健全な仕事環境にすることを労働組合が妨げているようです。同じ番組で野党が追及していましたが、追求の仕方が今ひとつ「理に適っていない」印象を持ちました。私的には、その理由は「労働組合が野党の票田であるから」と穿って考えてしまいます。
 そこで私は過去を思い出します。JRの前身である国鉄がサービスが悪く非効率的な組織になったのは「強くなりすぎた労働組合にある」と言われていました。それは郵便局しかり、日産自動車しかり、現在、危険信号が発せられている日本航空しかりで枚挙(まいきょ)に遑(いとま)がありません。労組が強くなりすぎると組織は内向きな発想になり自分たちの待遇にしか目が向かないからです。会社のトップはそれらを修正するのが重大な務めのはずです。しかし強い労組を管理するのは容易ではありません。
 労組問題で思い出すのは日産自動車です。かつて日産には「天皇」とまで言われた労組委員長がいました。会社は「労組に伺いを立てなければなにも決められない」ほど労組に支配されていました。日産が外部から社長を招いたのは労組とのしがらみを経つ意図もあったのでした。
 かつて日本航空はいろいろな経営者が健全な組織にしようと試みてきましたが、全て挫折しています。私の中では元鐘紡の伊藤淳二氏が日本航空の社長につきながら志半ばで社長を追いやられたことが最も記憶に残っています。それほど、労組が強いと改善策を施すのは難しいのです。
 労組は従業員を守るためには必要ですが、あまりに強くなりすぎると会社の弊害にしかなりません。現在の労組組織率が20%前後なのはこうしたことも影響しているのかもしれません。
 社会保険庁においても労組が強いようですので、簡単にことが進むとは思えません。自民党が社会保険庁の解体を目論んでいるのはまさに労組を意識した対処であろうと考えられます。労組を票田とする野党はそれを阻止しようとしているように見えます。さて、大手のテレビや新聞が労組のことまで踏み込んで報道できるかどうか…。
 それにしても、最近だけでも厚生労働省は年金問題で頭を下げ、農林水産省は緑資源問題で頭を下げ、国土交通省は官製談合で頭を下げています。今までに不祥事で頭を下げていない省庁は一つもないでしょう。そして昔からなにも変わっていません。先だって防衛庁が防衛省に格上げしましたが、この際新しく「省」を作ったほうがよいかもしれません。その名称は
「猛反省」
 じゃ、また。

紙.gif4コマ漫画
ジャーック!




シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする