<カタカナ>

pressココロ上




 乾電池を買いにヤマダ電気に行ったときのできごとです。
 単三電池を探していたのですが、売り場に行くと単三電池にもマンガンとアルカリと2種類の電池があることがわかりました。「違いはなにかなぁ」と説明文を読んでいますと、僕の近くに60才過ぎのご夫婦が立ち止まりました。奥さんは恰幅がよくタオルで汗をぬぐっています。ご主人は奥さんよりは痩せていましたが、お腹の出具合は奥さんより立派な感じがしました。
 二人はなにかを探しているようで天井から吊るされている案内表示板を見上げていました。そのとき販売員の方が通りがかったので奥さんが声をかけました。
「お兄さん、『デー、ヴィ、デー』はどこにあるの?」
 販売員の方は「『ディーヴィーディ』ですね」と言うと二人を案内して行きました。
 それにしても『デー、ヴィ、デー』…。いい響きですですよねぇ。やはりあのくらいの年令の方は『ディーヴィーディ』より『デー、ヴィ、デー』が似合っています。
 
 乾電池を買いに行ったのはポータブルカセットデッキを使うためです。なぜ、デジタル全盛時代にカセットデッキなのか…。
 なん週間か前にこのコラムで佐々木幸男さんの「ほーぼー」を紹介しました。「ほーぼー」はカセットに録音していたのですが、そのとき思ったのです。このカセットをパソコンに録りいれられないのか、と。
 ネットで調べますと、ちゃんとあるんですよねぇ、今の時代。
 「超録」というソフトが無料で公開されていました。早速ダウンロードをしカセットからパソコンへとダビングをしました。しかし残念なのはカセットを再生する音楽機器が我が家にはなく、娘が昔使っていたポータブルカセットデッキしかなかったことです。
 それはともかく、カセットに入っている歌をパソコンにダビングできることに成功しますと、たまっている昔のカセットをもっとダビングしたくなります。僕はホコリの被ったカセットケースを棚から取り出しました。すると「ありますあります」昔よく聴いていたあの歌この歌が…。
 “ふきのとう” (今の時代のお勧めはこれ→2000 BEST
 ご存知の方はいらっしゃるでしょうか? 約30年前、オフコースとともにフォーク界の2大巨頭と言われていたデュオです。そうですねぇ、ミスチルに対するスピッツみたいな感じでしょうか…。
 オフコースに比べますと“ふきのとう”は地味な感じで音楽活動の足跡も大成功とは言えませんが、それでも僕は大好きだったのです。聴く人の心を緩やかに、そして和ませてくれるあの歌声…。…う~ん、たまりません。そして僕は学生時代を思い出しました。
 当時、僕は暇さえあればマージャンに明け暮れていました。強くはなかったのですがしょっちゅうやっていました。また、当時の僕は自分の気に入った歌があるとしょっちゅう同じ歌を口ずさんでいました。ですからマージャン中ももちろん口ずさんでいました。今から書くお話は“ふきのとう”の“春雷”を気に入っていた頃のできごとです。
 ある春の日の夕方。いつものようにアルバイトを終えいつものメンバーで雀卓を囲んでいました。
 ゲームが始まり配牌のあとに自分の持ち牌を見ますとなんとヤクマンでテンパイをしていたのです。あとイーピンがくれば上がりの状態です。僕、心臓がパクパク…。
 ほかの3人を見ますと牌を並べ替えるなど普通にしています。僕は3人に悟られないように自然に普通に振舞うことを自分に言い聞かせました。悟られてはいけません。ここで悟られてはほかの3人が捨て牌に慎重になってしまいます。
 僕は振る舞いは普通を装っていましたが、3人の捨て牌には神経を集中していました。見逃しては大変です。
 ここで席順を説明しましょう。僕の左側にカワハラ君、正面にイマイ君、右側にタカオ君がいました。まず、カワハラ君が無造作に牌を捨てました。ローソーでした。次にイマイ君が引いてきた牌を見るとすぐに「今回はだめだなぁ」と言いながらサンピンを捨てました。タカオ君は持ってきた牌を自分の配列に入れるとその隣の牌を捨てました。ウーワンでした。僕の心臓はフゥフゥしています。
 僕は誰にもわからないように心の中だけで気合を入れて牌を引きました。…残念、チーワンでした。…う、う、う、…。
 二巡目に入りカワハラ君が牌を引いたときです。イマイ君が言いました。
「あれ? マルちゃん、いつもみたいに春雷を歌ってないよね」
 僕はドキッとしました。それでも普通を装い答えました。
「そ、そんなことないよ。たまたまだよぉ」
 やはり答え方に不審な雰囲気があったのでしょう。イマイ君は言いました。
「おかしい! マルちゃんテンパイしてるでしょ」
 僕は無理に笑顔を作り言いました。
「ま、まさかぁ」
 そして僕は春雷を歌い始めたのです。“は~るのぉかみな~り~がー”
 するとタカオ君が笑いながら言いました。
「マルちゃん、いつもとキーが違うよ」
 すかさずイマイ君が言いました。
「間違いない。みんなマルちゃんに気をつけようね」
 僕は心の中で決めました。
「よし、こうなったら自分でイーピンを引いてこよう」
 マージャンは順番に牌を引いていくのですが、本来は自分より前の人が捨てるまで牌を引いていけないルールです。しかし慣れてくるとゲームを早く進行させるために前の人が捨てる前に牌を引いてくるようになります。そしてその場合でも前の人が捨てるまでは牌を見てはいけないのです。そこでどうするかというと、牌を見る代わりに親指の腹の感覚で牌の種類を当てるようにします。これを盲牌といいます。
 なん巡目かのイマイ君が引いたときタカオ君が盲牌をしました。そして僕もすぐに盲牌をしました。すると僕の親指がイーピンを感じたのです。
「やったー!」
 僕は心の中で叫びました。あとは自分の順番が来るのを待つだけです。そして心の中で言いました。
「イマイ、早く捨・て・ろ。捨・て・ろ」
 イマイ君が牌を捨てました。タカオ君の番です。やはり僕は願いました。
「タカオ、早く捨・て・ろ。捨・て・ろ」
 頭にくることにこんなときに限ってタカオ君が迷っています。うー、僕の興奮は限界にきていました。しばらくしてタカオ君が悩んだ末にやっと捨てる牌を決めたようです。僕はタカオ君が捨てるのを見届けて「ツモったー!」と言おうとした瞬間、その前にイマイ君が叫びました。
「ローン!」
「ええ!?…」
 なんとイマイ君はタカオ君の捨てた牌で上がったのでした。そのときの僕のショックさ……。僕はイマイ君が上がらなければ自分がツモっていたことを3人に話しました。それを聞いた3人は腹を抱えて笑っていました。ヒドイ…。
 笑い終わったあとイマイ君が聞いてきました。
「マルちゃん、なにを待ってたの?」
「うん、イーピン」
 するとイマイ君がまた大笑いしながら言いました。
「マルちゃん、イーピンなら僕がさっき捨てたよ」
「ええ!?」
 そうなのです。僕は自分が引いてきた牌がイーピンだったことに興奮してイマイ君が捨てた牌を見るのを忘れていたのでした。
 昔から僕はおっちょこちょいで…。
 先日、交差点で信号待ちをしていましたら後ろから自転車に乗った60代半ばのご夫婦がやってきました。奥さんがダンナさんに大きな声で話しています。
「アンタ、信号渡ったらスーパーにティッシュ買いに行くから」
 車の通行量も多くよく聞こえなかったのでしょう。ダンナさんは聞き返しました。
「えっ、なに?」
 すると奥さんはさらに大きな声で答えました。
「スコッテ、スコッテ」
 なんとよい響きでしょう。
 じゃ、また。

紙.gif4コマ漫画
ジャーック!




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