<プライベートブランド>

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 私たち夫婦は仕事を終えた帰りに買い物をします。普通の主婦が買い物をする時間は仕事をしていますので夜10時頃に買い物をすることになります。私がスーパーに勤めていた約30年前は閉店時間は夜7時頃でした。しかし今はそんなに早く閉店しているスーパーは皆無に近く、利用する側としてはとても便利な時代になりました。
 仕事帰りに立ち寄るスーパーはだいたい決まっています。その中の1つに大手スーパーがあります。
 2ヶ月ほど前のことです。いつものようにスーパーに行きますと入ってすぐの催事場が自社のプライベートブランド(以下PB)で埋め尽くされていました。新たにPBを開発したようでその商品イベントを開いているのでした。そして各売り場に行ってもPBが一番目立つところに並んでいました。まるでPB商品以外は売らないかのように…。
 「PBの意義」と言えば、企業側からすると「粗利の確保」になりません。消費者側からするとメーカー品と同じような商品が低価格で買えることです。しかしこのスーパーのPBに限っては「低価格」ということはありませんでした。このスーパーの傾向は「低価格」というよりは「粗利の確保」をコンセプトにしているように感じます。
 例えば、同系列のコンビニで売っている菓子パンのPBはメーカー品と同程度の価格で売っています。しかも売上げは悪くないと想像できます。コンビニでは少しでも売上げが悪い商品はすぐに棚から撤去されるのが運命ですが、未だに棚に並んでいることからわかります。しかし、もしかすると自社のPBであるが故に撤去されていない可能性もありますが…。
 私がスーパーに勤務していた時代からすでにPBは存在していました。当時、私は衣料品担当でしたが、大手商社と提携して肌着のPBを販売していました。しかしその商品の評判はあまり芳しくなく、実際私が着てみた感想も同様でした。洗うとすぐに生地が伸びてしまい、また型崩れをしてしまうのでした。当時よく言われた「安かろう悪かろう」の典型のような商品でした。近年になってこそ、PBの品質も一定の水準を保っているようになりましたが、昔のPBのレベルは総じて低いものだったのです。
 私たち夫婦がいつも利用するスーパーではない大手スーパーでもPBを販売しています。こちらはほとんどがメーカー品より安い価格を設定しています。消費者にとってメリットのあるコンセプトで価格を設定しています。「粗利の確保」と「低価格」、一概に「どちらがよい」とは言えませんが、生き残ったほうが「よいコンセプト」と評価されるでしょう。
 基本的にPBは小売業がメーカーに「作らせる」ものです。そこにはメーカーのような「商品開発をする」といった概念はなく、既存品を真似て作るだけです。ですから低価格を実現できます。既存品を真似るだけですから人件費の安い国で作るなどして低価格を実現しています。しかし、メーカー品と変わらない価格を設定しているPBは消費者に一番近い立場から消費者の意見をフィードバックした商品を作っている、という自負があるようです。
 今まで話してきましたPBは最終消費者に対するPBですが、それ以外にもPBはあります。その最たるものがフランチャイズチェーン(以下FC)のPBです。こちらは加盟店に本部のPBを卸すのが主目的です。つまり本部から供給される原材料を加盟店に使わせるために作られたPBです。
 本来ですと、本部のPBは加盟店が有利になるようにメーカー品の商品より価格が低く設定されるべきものです。仕入れ値が低いとそれだけ加盟店の粗利が高くなるからです。それこそがFCに加盟するメリットと言ってもよいかもしれません。
 ところが、実際はそうでもないこともあります。悪質な本部ですと、PBを作るための商品開発はおろか、少しでもメーカー品より「安くしよう」という工夫さえしていません。つまりメーカーが定番で作っている商品にラベルだけ、または名前だけ付け替えてPBと称して供給している本部もあります。このようなケースはメーカー品より高い仕入れ値となっています。私がラーメン店時代に加盟したFCはまさしくそのようなFCでした。これではFCに加盟していることはデメリットでありこそすえメリットはなに1つありません。本部が倒産する例はたまにありますが、そのような悪条件から開放されるのですから喜んでいる加盟店も多いのではないでしょうか。
 実は、仕事帰りに立ち寄ったスーパーでPBが山積みされ、そして各売り場に所狭しと並んでいるPBを見て私は反発心にも似た違和感を持ちました。小売業の本来の姿から逸脱していると思ったからです。
 では、小売業の本来の姿とはどういったものでしょう?
 小売業は、素人である消費者に代わって商品を「検査する」役目があります。例えば「あそこで買った品物だから安心」といった安心感を与えるものです。次に、たくさんある種類の中から「選択する自由」を与える役目です。自社PBで売り場を占拠することはこの役目を放棄することに思えました。私はそこに違和感を持ったのでした。PBは企業側にとっては「粗利を確保する」よい方法です。しかしそれが行き過ぎるならそれは小売業の本来の役目を放棄することになるのではないでしょうか。
 また、小売業はメーカーに対する役目もあります。それはメーカーを育成する役目です。真面目に努力しているメーカーの商品を適切な価格で仕入れメーカーを育てる役目です。このことは消費者に商品を紹介する役目につながります。
 このように考えますと、大規模なPB展開は小売業のあり方を変えるものにつながっていくように思います。私の中ではそれはちょっと違うのではないか、と思っているんですが、いかがでしょう。
 私たち夫婦が休みの日に利用する中堅の食品チェーンがあります。この企業を私はとても尊敬しています。実は、この企業については新聞に好意的な投稿が載ったことがありました。企業名は書いてありませんでしたが、すぐにわかりました。それは自社の「株式」をお店で売っていたからです。とてもユニークです。この企業はセコムの創業者である飯田氏のご兄弟が社長なのですが、小売業の「本来の姿」で企業を成長させているように思えます。このお店の売り場を見るとそれが感じられます。
 衣料業界に「しまむら」というチェーン企業があります。売上げも高く有名な企業なのでご存知の方も多いでしょう。この会社は従業員が働きやすい環境を作っていることにも好感を持ちますが、それよりこの企業も小売業の本来の姿のまま発展しているように思え、好きな企業です。私自身はシマムラを利用したことは一度もないのですが、このような企業がこれから先も発展していけばいいな、と思っています。
 
 ところで…。
 いつものようにスーパーで買い物を済ませレジに並んだ妻。僕はレジの後ろのサッカー台のところで待っていました。その日はいつもより買った量が多く大きな手提げ袋が2つになってしまいました。
 もちろん僕は「重そうな」ほうを持ちます。もし「軽そうな」ほうを持ったならあとでなにを言われるかわかりません。
 僕が重いほうを持ち妻は軽いほうを持って歩き始めました。少し歩くと妻がカバンの中から大きなバッグを取り出しました。僕と妻が持っている手提げ袋が2つともスッポリ入りそうなほど大きなバッグです。
 妻は歩きながら自分の手提げ袋をバッグに入れました。そして僕が手にした手提げ袋もバッグに入れるように促しました。僕が持っている重い手提げ袋までバッグの中に入れてくれるのですから僕が感激しないはずはありません。僕は思いました。
「おっ、優しいとこもあるじゃん」
 僕は喜んでバッグの中に手提げ袋を入れました。その間、妻は僕が入れやすいようにバッグの入り口を広げていてくれました。夫婦が一緒に一つの作業をする姿、久しぶりの共同作業です。ああ、なんと美しい姿でしょう。
 僕が感激しながら手提げ袋を入れ終わると妻はバッグを抱えるようにしてチャックをしました。そして両手で持ち僕に言ったのです。
「はい」
 その声とともに妻は僕にバッグを差し出したのでした…。
 僕がその声に逆らえるはずもありません。なぜなら、妻は僕のPB(プライベートボス)なのですから。
 じゃ、、また。

紙.gif4コマ漫画
ジャーック!




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