<ファン>

pressココロ上




 メジャーリーグ・ロッキーズの松井稼頭央選手がワールドシリーズ決勝に出場しています。しかもレギュラーで…。その松井選手がインタビューを受けている模様を見ました。話の中で興味を引いたのがメッツ時代のブーイングの嵐について語っている内容でした。
 インタビューでは言葉を選んでいましたが、やはり心中ではファンに対する反発心がかなりあったようです。次のように語っていました。
「よく『期待を込めたブーイング』と言われますけど、僕に対するブーイングはそのような雰囲気のブーイングではなかった。そして僕に『サインをくれ』と言う。それはちょっと違うだろ!」
 どん底まで落ちた松井選手がロッキーズで復活している姿は野球ファンの一人としてとてもうれしいものであり尊敬できるものです。松井選手はさらに続けました。
「あのどん底の状態のときに心の支えになったのは子どもたちだった」
「親の都合で、全く環境の異なるアメリカで必死に頑張っている子どもたちに比べ自分の環境はまだ恵まれている」
 子どもたちは一時、登校拒否にまでなったそうです。日本人学校でなくアメリカの学校に通ったので言葉が全く通じず、トイレに行くのにも難儀をし水を飲むことさえ容易でなく、ときには苦しさのあまり嘔吐さえすることがあったそうです。そのような環境の中で過ごしている子どもたちに比べたら、通訳がつき球団に配慮された環境で好きな野球ができる自分が頑張らなければ申し訳ない、と話していました。
 子どもたちに比べたら楽な環境とはいえ多くのファンからのブーイングを浴び相当なプレッシャーを受ける状態もとても苦しかったはずです。それに耐えメッツでゼロから這い上がってきた松井選手も賞賛されて当然です。
 
 それにしても「ファン」…。
 ひと口に「ファン」と言いましてもその程度というかレベルは様々です。「○○命」とまで思い込んでいるファンもいれば「まぁまぁ好き」といったレベルのファンもいます。仮に名づけるなら「固定ファン」と「大衆ファン」とでも言いましょうか。
 固定ファンは余程のことがない限り離れることがありません。それに比べ大衆ファンはとても移ろいやすくちょっとした不祥事でもあろうものならすぐに離れていきます。ファンを持つことを宿命とする職業の人たちは、例えばアイドルなどはいかにして大衆ファンを獲得するかが生き残る鍵となります。いわゆるブームとはこの大衆ファンをより多く集めた現象です。ブームが去ったあともアイドルとしてまたは芸能人として生き残っていけるかどうかは、大衆ファンから固定ファンへどれだけ多くの人を移行させることができるかにかかっています。固定ファンをより多く持つことが生き残る術と言えます。
 芸能界やテレビ界を見渡しますと、ベテランと言われる方々はそれぞれ個性があります。ベテランとして長期に生き残っているわけですから移ろいやすい大衆ファンだけの支持だけではないはずです。そのようなベテランの方々を見ていますと外見や才能だけでなく、その生き方が支持されているのが要因ではないかと思えてきます。
 「ファンのブーイング」と聞いて僕がすぐに思い浮かぶのは吉田拓郎さんです。拓郎さんは「フォークの神様」とまで言われている人ですが、人気絶頂の頃に女性ファンとのトラブルで逮捕された経験があります。そして逮捕されたあとのフォーク歌手が集まるコンサートで「帰れ!」コールという激しいブーイングを浴びたのでした。
 僕がそのことを聞いたのは「拓郎とかぐや姫」の「嬬恋コンサート」を大成功させたあとのラジオ番組ででした。番組は嬬恋コンサートを振り返りながら拓郎さんたちの感想を聞く、という内容でしたが、その話の中で「帰れ!」コールの昔話が出てきました。あのときの「帰れ!」コールの凄まじさと嬬恋での暖かいファンの声援を対比して話していました。
 ある不祥事があってもその人の生きかたに共感するものがあればファンは支持し続けてくれる証明となっています。
 …と、今週は「ファン」について書いてきましたが、実は亀田家について書きたかったからです。
 先週、亀田興毅さんが記者会見をしていました。たぶん大方の人が同じ感想を持ったと思うのですが、実に立派でした。若干二十歳の若者が大人の記者が集まっている会見場でいじの悪い質問に応対したのですから僕は「立派」以外の言葉が見つかりません。
 人間は「攻め」のときは誰でもある程度「きちんとした応対」をできますが、「守り」のときはほとんどの人が醜態を晒します。最近の例で言いますと、北海道ミートコープ社の社長会見です。興毅さんの3倍以上生きてきた社長の会見にがっかりした人は多いのではないでしょうか。それに比べ今回の興毅さんの会見は「守り」の中でも一番苦しい謝罪会見です。その会見を正面から受け止めたのですから「立派」以外にありません。
 多くの人が言っていますように、今回の亀田家の騒動の原因はマスコミにもあります。常に刺激的なパフォーマンスを求めていたのはマスコミなど周りの大人たちです。その期待に沿うように行っていたにすぎない、と僕は思っています。
 父親に対する気持ちについて質問されたとき
「世間の人はオヤジを悪く思っているかもしれへんけど、僕にとっては一番のオヤジ」
 なんとすばらしい子どもでしょう。このような子どもに恵まれた史郎氏は幸せ者です。僕はこれからも亀田家の人たちを「好き」なままでいるつもりです。
 今週紹介しています「辰吉丈一郎の3620日」はボクサー辰吉氏の軌跡を綴った本ですが、とても「感動する本」です。内容を読みますと、辰吉氏もパフォーマンスが注目されたボクサーですが、パフォーマンスの裏側には冷静な心を持っていたことがわかります。興毅さんと辰吉氏が知り合いであるかどうか知りませんが、現在の興毅さんを最も慰め励ましてあげられるのは辰吉氏ではないかぁ、などと思ってしまいました。
 ロッキーズの松井選手は苦しいとき、子どもたちを支えにして頑張ってきましたが、それとともに奥さんの支えも心強いものだったそうです。どんなに苦しいときでも奥さんは松井選手を応援していたそうです。つまり松井選手の一番の固定ファンは奥さんなのです。それを聞いて僕は「うらやましいなぁ…」と正直思いました。
 僕の妻は掃除や家計簿などは不得意なのですが得意なものもあります。例えば、料理とか裁縫はとても上手です。僕自身が完璧な人間ではありませんので妻に完璧を求めるのは不公平というもので妻に「得手不得手」があってもなんの問題もありません。完璧でなくともまだ離婚しているわけではありませんから、妻が僕の固定ファンであることは間違いありません。こんな心強いことはありません。ただ一つ問題がありまして…、妻の固定ファンとしての最も得意な技は
「ブーイング」なんですね。
 じゃ、また。

紙.gif4コマ漫画
ジャーック!




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