<純>

pressココロ上




 最近、僕に4~5才の女の子の友だちができました。きっかけは店頭での僕の叫び声です。僕の店は閉店時間を過ぎますと半額セールを行っています。そのときに通行人の人々にアピールするために大声を出しているのですが、その女の子は決まった時間にお母さんが漕ぐ自転車の後ろに乗ってお店の前を通るようになっていました。
 最初の頃は大声を出す僕を珍しそうに見ているだけでしたが、そのうち僕の声を聞くのを楽しみにするようになったようです。店の前に来るとお母さんに向かって「いたー、いたー」と大きな声で言うようになりました。そしていつも笑顔を僕に見せるようになりました。子どもの純な笑顔ほど人の心を和ませるものはありません。もちろん僕も微笑み返すようになりました。ただ50才を過ぎたオジさんの笑顔が素敵かどうかはわかりません。それでも僕の笑顔にうれしそうに喜んでいますので好印象は与えているのでしょう。
 先日の夕方時、お腹が空いたのでレジの奥に隠れてお客様に見えないようにお菓子を食べていました。すると店先から妻に話しかける女の子の声がしました。
「ねぇ、おじちゃんいないのぉ?」
「うしろにいるよぉ」
 妻が発する子供向けの声と同時にレジの前に出ますとあの女の子が店先に立っていました。僕を見るとうれしそうな笑顔で話しかけてきました。少しの間お話をしたあと女の子はお母さんに促され立ち去って行きました。
 あの人懐っこい笑顔は素晴らしいです。持って生まれた天分もあるのでしょうが、親御さんがたくさんの愛情を注いでいるのもその理由の一つではないでしょうか。実はこの母子は当店で買い物をしたことは一度もありません。ただ通り過ぎるだけなのです。ですので僕と女の子の関係は「売る側とお客」といった損得関係は全くありません。純な関係なのです。お母さんが僕と女の子が話す間、少し離れたところに立ち「申し訳なさそうに」している雰囲気も僕にとっては好感です。損得の絡まない純な関係は気持ちを晴れ晴れとしたものにします。
 この前は店から少し離れた場所を女の子が歩いているのがわかりました。僕が女の子に気がつくと女の子も「僕が気がついた」のがわかったようで思いっきりの笑顔で大きく手を振ってきました。屈託のない笑顔、利害の絡まない笑顔、裏表のない笑顔、総じて言いますと「純な笑顔」とでも言いましょうか、子供の笑顔には純が溢れています。
 笑顔に限らず小さな子どもには純なところがたくさんあります。それは計算された跡が感じられないからです。それに比べて防衛商社山田洋行・元専務宮崎氏の元防衛省守屋事務次官への接待は計算の跡が感じられます。宮崎氏は守屋氏との関係を「20年来の友人」との理由づけでゴルフ接待を正当化しようとしていますが、普通の感覚で考えてそこには純な関係は見受けられません。もし本当に純な友人であるなら公務員倫理規定があることも知っているはずですから付き合い方を改めるのが本当の友人関係です。
 僕は社会に出て働くようになってから約30年経ちますが、その間接待とは無縁の世界で過ごしてきました。しかし会社に勤めていたなら接待に関わる職種につかざるを得ない場合もあるでしょう。日本のビジネス社会ではある程度の接待は避けて通れないからです。
 会社に入り会社から給料を貰うのですから「接待」の業務命令が出たなら従わざるを得ません。そのとき取引先が公務員であったなら収賄の臭いがすることもあると思います。そういうときでも業務命令を拒否することができないのが会社員の宿命です。拒否するならそれは退職さえも覚悟する必要があります。しかし普通の人は生活がかかっているのですからそれさえも簡単に許されるものではありません。それでも、社会倫理に照らして「不正」を感じたならやはり覚悟はする必要があります。
 先週、船場吉兆の元パート従業員の方々が記者会見を行いました。ご存知のように船場吉兆は賞味期限の偽装で強制捜査を受けました。
 記者会見は上司が「パートに責任を押し付けようとしていること」に対して反論するためのものでした。報道によりますと、上司はわざわざ「偽装の全責任はパートにある」と書かれた書類に署名まで求めたということですからなにをいわんやです。このパートの方々はそれまでは普通にパートに出て働いていただけですが、今回の事件でプライベートの生活にもマイナスの影響を受けたのは間違いありません。やはりパートであろうとも仕事上で社会倫理に照らして「不正」を感じたならすぐに退職するのが賢明なようです。ましてや正社員であるなら尚更です。そのように決断することがその後に起こる大きな問題に巻き込まれずにすみます。
 現在、多くの飲食業・小売業の店はパートさんアルバイトさんといった非正社員だけで運営されています。このことは非正社員の責任が重くなっていることを示しています。賃金はそのままで責任だけが重くなっているのですから働く側にとっては不利な条件になっていることになります。そのような労働環境の中、働く側の人たちはより慎重に職場を選択する必要があります。今回の船場吉兆の例を見ていますと、まかり間違うと犯罪者にされることもあるからです。今後はパートさんとして働くとき「責任を負わされる範囲」をきちんと確認することが最重要事項になるかもしれません。
 取引き先相手が公務員であるなら収賄容疑に発展する可能性もありますので接待はより注意を払う必要があります。しかし、民間同士の取引きでも接待が重要な仕事であることには変わりはありません。
 僕の大学時代の友人は大手デパートの外商部に勤めていましたが、大口のお客様への接待はやはり大変だったそうです。友人は休日も大口のお客様のお宅まで伺いお客様のペットであるお犬様の散歩までやったことがあるそうです。
 また、高校の先輩は大手食品メーカーに勤めていましたが、取引先であるコンビニのバイヤーにはとても神経を使ったそうです。先輩曰く「どれだけバイヤーと気心の知れた関係になれるか」が勝負の分かれ目、と話していました。しかしこの「気心の知れた関係」に純がないことは言うまでもありません。
 社会に出てからも友人ができることはあります。しかしあなたが友人と思っている相手がたまたま取引き先相手であり、そしてあなたが接待を受ける側であった場合は友人であるかどうかは疑問です。相手は「取引先である」から仕方なく友人関係を持っているに過ぎない可能性が高いからです。しかし中には純な気持ちであなたと友人関係を持っていることもあるかもしれません。
 もし相手の本当の気持ちを知りたいなら方法があります。それはあなたが仕事を退職し歩道を歩いていたときに偶然道路を挟んだ反対側の歩道を歩く友人を見つけたとします。そのときに「おーい」と声をかけながら大きく手を振ってみるのです。
 じゃ、また。

紙.gif4コマ漫画
ジャーック!




シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする