<適正な儲け>

pressココロ上




 このコラムに幾度か書いていますが、僕はチョコレートが大好物です。しかもただのチョコレートではなくチョコレートの中にアーモンドかピーナッツが入っているチョコです。一番好きなのはアーモンド入りですが、アーモンド入りは高いので普段はピーナッツ入りチョコで我慢しています。アーモンド入りチョコレートが食べられるのは誕生日とかバレンタインデーといった特別な日に限られています。
 しかし、特別な日なら必ず食べられるか、というとそうでもありません。条件があります。それは妻のご機嫌がいいときです。ご機嫌が斜めのときはやはり食べられません。ですので僕がアーモンドチョコレートを食べられるのは1年に1度あるかないかという回数でしかありません。
 と、いうわけで普段はピーナッツチョコレートを食べているのですが、その中でも食べる回数が多いのは森永のチョコボールです。価格が安いので妻のお許しが出る確率が高いのです。先日、そのチョコボールに関して気になる新聞記事がありました。なんと「値上げをする」そうなのです。記事によりますと17年ぶりだそうなので「仕方ないのかなぁ」とは思いましたが、それでもやはりチョコボールファンとしては痛い…。
 チョコボールはほかのピーナッツチョコに比べて価格が安いのですが、やはりお店により価格は違っていました。僕の生活圏内で一番安かったお店はスーパーOでした。スーパーOは我が家に一番近いスーパーKに比べ10円安く売っていました。ですので僕はチョコボールはいつもスーパーOで買うことに決めていました。
 値上げ発表の後、、スーパーOに行きチョコボールの棚の前に立ちますといつもよりチョコボールの数量が少なく感じました。よく見ますと貼り紙がありました。
「こちらの商品はメーカーの値上げ要請があり交渉した結果、調整がつかずしばらく販売を見合わせます」
 大まかに言いますと、このような内容の文章が書かれていました。僕なりに理解しますと、
「メーカーが値上げを通告してきたが、納得できる値上げではなかったのでしばらく売らない」
 という感じでしょうか…。
 さて、この状況を皆さんはどのように感じるでしょうか。メーカーと小売業のどちらに納得性、説得力があると判断するでしょうか…。
 このような事例に接しますと、僕は約40年前に勃発した松下電器とダイエーの対立を思い出します。ちょうどスーパーマーケットが力をつけてきた時代です。価格決定権はメーカーと小売業のどちらが持っているのか、という対立でした。結局、この対立は30年間も続き和解をしたのは1994年です。それまでダイエーでは松下電器の製品は販売されていなかったのです。本当に根深い対立でした。
 100円ショップに勢いがあった頃。その商品の多様さには驚かされました。100円ショップが登場する以前は980円で販売されていた商品が100円で売られていたのですから衝撃を受けて当然です。
「一体、それまでの980円という価格はなんだったのか!」
 と思ったものです。100円の価格をつけられる商品に980円の価格をつけていたのには消費者としてはやはり納得できません。メーカー、問屋、小売店のどこかがボロ儲けをしていたことになります。人間の心理として、他人が「適正に儲ける」のは納得できますが、「ボロ儲けする」のは反発心が出てきます。
 僕は当時、多くの生活用品は100円で売られて当然ではないか、と思い始めていました。反対に言うと、100円を越える価格をつけている商品はボロ儲けの類いに入る、と思っていたのです。しかし、ある日のドキュメント番組を見て考えを改めさせられました。
 番組では100円ショップで扱われている商品を作る側(つまりメーカー)の様子を紹介していました。メーカー側は100円ショップで扱ってもらうために必死の努力をしていました。少しの儲けを得るために経営者、従業員が無理をしながら働いていました。そうした状況を見てしまいますと100円で売られていることに疑問を持つようになりました。もしかすると価格には「適正な価格」というものが存在するのかもしれません。
 大雑把に紹介しますと、松下幸之助氏は「価格は原価に適切な儲けを上乗せして決めるべき」と言い、中内功氏は「価格は消費者が決めるべき」と言いました。どちらにも納得性、説得力があるように感じます。でも対立してしまいます。
 さて、僕の結論…。
 価格は市場が決めるべきものです。もちろん規制のない自由な市場です。そこではボロ儲けは存在できません。規制のある市場では存在しえる「ボロ儲け」が自由な市場では存在することができません。例えば規制に守られてきたかつての通信業界、金融業界などのようなボロ儲けができません。ボロ儲けをする価格を設定していたならすぐに安い価格で挑戦してくる企業が現れてくるからです。
 反対に少なすぎる儲けも存在できません。補助金もなければ交付金もないのですから存続することができないからです。
 自由な市場で自然に決まる価格が「適正な価格」です。
 自由な市場で自然に決まるのが「適正な価格」ですが、それには前提があります。それは相手を信じることです。素材業界、メーカー、問屋業、小売り業それぞれの階層が相手の言い分を信じることが大切です。当然、自分の言い分に嘘偽りがあってはいけません。そこに嘘偽りがあっては儲けることはできません。読んで字のごとく「信」じる「者」が「儲」けられるのです。昔の人はいいこと言いました。
 冒頭に書きましたスーパーOがチョコボールの値上げを受け入れなかったのも値上げの理由が、または値上げ幅が今ひとつ信じられなかったのが原因ではないか、と想像しています。貼り紙にも書いてありましたが、話し合いを続けお互いが信じられるように調整ができたなら販売再開されると思います。そうでないと僕困りますから…。
 素材業界、メーカー、問屋業、小売業それぞれの階層が適正な儲けを得られる経済社会が理想な世界になるはずです。しかし、実はあと1つ重要な階層があります。そしてその階層が経済社会に大きな影響を与えています。しかもその階層はボロ儲けをすることが可能なのです。そのうえ競争がありませんので市場から退場させられることさえありません。ですのでその階層には自分のことだけを考えて行動するのではなく、社会全体のことを考えて行動するように願うしかないのです。その階層とは…、
「消費者」です。
 じゃ、また。

紙.gif4コマ漫画
ジャーック!




シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする