<~してみせた>

pressココロ上




 ニュース番組で民主党議員が国交省の関東地方整備局を訪れ「無駄遣い」の調査している様子が放映されました。その映像の中で、ある議員は「タクシー領収書を提示」しない職員に対して怒りを露わにしていました。その怒り方が凄まじい…。命令口調でいかにも自分は正義の使者であるかのように振舞っていました。もしテレビ撮影がなくてもあの議員はあのように大きな怒鳴り声を出して怒ったのでしょうか…。
 
 僕が30才代のことですが、僕は住宅ローンの申し込みに不動産業者の方と一緒に銀行を訪れました。不動産業者の方は50才過ぎの課長と40代半ばの営業担当者Mさんの2名です。申し込みは事前にMさんが手はずを整えてくれていましたので当日は説明を受けて印鑑を押すだけの予定でした。ですので訪問する時間も決まっており僕が銀行に着くとすぐに手続きが始められるはずでした。
 しかし、僕たち一行が銀行に着き予定の時間になっても銀行のローン係の方が一向に来ません。Mさんは
「おかしいですねぇ。連絡を入れてあるんですけど…」と恐縮していました。
 しばらく待っていましたが、約束時間を15分ほど経った頃Mさんは窓口に行き女性行員の方に催促をしてきました。それから15分、まだローン係の方は来ません。Mさんは少し苛立ちが見えはじめ少し早めの足取りで再度窓口に向かいました。それからまた15分、やはりローン係の方は来ません。それまで時間を持たせるために僕と世間話をしていた課長が言いました。
「それにしても遅いですよね。いつもならすぐに手続きに入れるんですけど…。もう少し待ってください」
 それを横で聞いていたMさんはやおら立ち上がると窓口にゆっくり向かいカウンターの前に立ちました。そして銀行内中に響き渡るくらいの大声で叫びました。
「いつまで待たせるんだー!」
 一瞬、銀行内が静まり返ったのは言うまでもありません。銀行内にいる全員の目がMさんに集中しました。すぐに男性行員がMさんの対応に出てきました。僕たちは少し離れたところに座っていましたので話の内容まではわかりません。しかし低姿勢に終始している銀行員の方に対してMさんも丁寧にお辞儀をしポケットから自分の名刺を渡していました。その後すぐにローン係の方が来て問題なくスムーズに手続きを終えることができました。
 その日は手続きを終えるとすぐに別れたのですが、数日後Mさんに会う機会があり銀行での出来事について尋ねました。Mさんは照れ笑いを浮かべながら言いました。
「いやぁ、お恥ずかしい…。でもああいうふうにしないと銀行の人が動いてくれそうもなかったんでね」
 当時はまだ銀行が護送船団方式をとっていた時代です。今のような本当の意味での競争がなく銀行は殿様商売をしていました。Mさんが言いますには「銀行はお客さんを甘くみてるところがあるんですよ。しかもみんなエリートなのでちょっとした強面の対応に弱いんですね…」
 Mさんは手続きをスムーズに進めるために怒って「みせた」のでした。
 僕が子供の頃好きだった「巨人の星」(原作:梶原一騎)より。
 今の若い人はご存知ないと思いますが、僕が子供の頃は巨人は「とても強いもの」の象徴でした。いわゆる「巨人、大鵬、玉子焼き」と言われていた時代です。当時、巨人はV9を成し遂げている最中で王、長島の全盛時代でした。
 そんな強い巨人を作り上げたのは川上哲治という名監督です。「巨人の星」はその川上監督が「どのようして強い巨人を作り上げたか」をエピソードとともに描いていました。
 もちろんV9時代、長島選手は名選手としてチーム内、球界で確固たる名声を得ていました。その長島選手を川上監督はミーティングでことあるごとに叱責していたそうです。新人を叱責するならわかりますが、名選手として確固たる地位を得ていた長島選手を叱責していました。理由は、川上監督は長島選手を叱ることによりチームを引き締めたかったからです。何年間も勝ち続けていたのでチームに油断が生じないようにする意味合いでした。因みに王選手はその対象にはならなかったのですが、その理由は長島選手の性格が「怒られてもしょげ返らない」からだったそうです。怒るときは相手の性格を知ることが大切だそうです。
 川上監督はチーム引き締めのために「怒ってみせた」のでした。
 
 冒頭に書きました民主党議員の国土交通省職員への対応について福田首相は
「僕はああいうパフォーマンスは流儀ではない」
 と会見で話していました。僕もパフォーマンスは好きではありません。パフォーマンスには「上辺だけ」「表面だけ」といったマイナスの意味がありますが、あの怒り方には「テレビ向け」「選挙民向け」といった印象を持ちました。あの民主党議員の行動がパフォーマンスなのかどうかは今後の政治活動を見るしかありませんが、あの映像がテレビを見ていた視聴者に一定の効果を与えたような気はします。個人により感じ方はさまざまでしょうが、パフォーマンスが視聴者になんらかの影響を与えるのは間違いないところでしょう。
 しかし、私たち視聴者はパフォーマンスに惑わされてしまっては正しい判断をすることはできません。私たちはマスコミ・メディアを通じて発せられる言葉や行為、行動などが心の底から発せられたものかどうかを見分ける眼を養う必要があります。
 それにしても、僕からすると今の世の中はなんと多いパフォーマンスでしょう。芸能界、産業界、政界いろいろなところで「~してみせる」行為が氾濫しています。テレビカメラの前で「泣いてみせる」「怒ってみせる」「おどけてみせる」芸能人、経営者、政治家がたくさんいます。最近、僕はそんな彼らにとてもいらついています。
 …へへへへ。僕、いらついてみせました。
 じゃ、また。

紙.gif4コマ漫画
ジャーック!




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