<ボる>

pressココロ上




 このコラムでたまに書いていますが、僕は毎月歯医者に通っています。そうです。テキストの<あとがき>に書いていますあの歯医者さんです。「通っています」と書きましたが現在の状況は「いました」と過去形になってしまいました。先月仕事が忙しく予約をキャンセルしそれ以来行っていないからです。キャンセル後に幾度か「予約をしよう」と電話はしたのですが、僕が希望する日時が満杯で予約ができずそのままズルズルと2ヶ月が過ぎようとしています。
 たかが歯医者なのですが、やはり気になります。なにが気になるかと言えば、間隔が開くことです。自分の都合でキャンセルしましたので、あまりに間隔が開きすぎると「行きづらく」感じてしまうのです。早く予約を入れなければ、と思いつつ実行できそうもありません。
 予約を入れることが容易でない理由は、この歯医者さんが人気があるからです。先生の「人柄がよい」のが人気の秘密ですが、それ故この歯医者さんはとても繁盛しているようです。しかし、マスコミなどによりますと現在の歯科医院業界の現状はとても厳しいようで廃業する歯科医院も多いそうです。歯科医院の数が多く競争が激しいのが理由です。やはり「感じのいい」「技術のしっかりした」「適正価格の治療」を受けたいと思うのは患者の自然な気持ちです。
 治療に関して素人である患者は「感じのいい」「技術のしっかりした」という要素は判断することができます。しかし最後の「適正価格の治療」に関しては容易に判断することができません。仮に「ボられて」いてもわかりません。理想を言うならば治療を受けている医院のほかにもう1つ医院に通って適正価格かどうかをチェックしてもらえばよいのですが現実的ではありません。
 このコラムを読み続けている方はご存知と思いますが、僕は最近店舗工事を業者にお願いしました。その業者は知り合いに紹介してもらったのですが、タウンページやネットで探すよりは安心だと思ったからです。
 店舗工事はいろいろな工程を組み合わせて行いますので価格が業者によりかなりの差があります。中には「ボる」業者がいても不思議ではありませんし、そして工事依頼者はそれを判断することができません。そうしたことを考慮した結果、知り合いに紹介してもらうのが一番よい方法と思った次第です。ところが…。
 結論を言いますと、今回お願いした業者は失敗でした。一言で言うなら、店舗工事に関して素人でした。僕は店舗工事に関しては「ある程度知識がある」と自負していますが、それでもやはり専門業者は「僕以上に知識がある」と思っていました。ですので最初からいろいろな細かい注意点を言うのを遠慮していました。できるだけ気持ちよく仕事をしてほしいと思ったからです。
 しかし工事が進むにつれ段々と「プロでない」ことがわかってきました。店舗を作っていくうえで重要な箇所の工事が拙劣に行われていたからです。また、工事代金も最初の「見積り」より少しずつ増えていきました。僕の中では「工事の拙劣さ」は店舗工事に慣れていないので「仕方がない」と諦めましたが、工事代金が最初の「見積り」より少しずつ増えていったのは大きな不満でした。
 消費者はモノやサービスを購入するとき最も気になるのは価格です。もし店頭表示より高い価格を支払わされることになったなら誰しも納得しないはずです。「見積り価格」とは店頭表示されている価格のことです。工事が進むにつれて工事代金が「見積り価格」より少しずつ上がることは消費者が「ボられている」と感じても仕方ない状況です。
 結局、僕は業者が工事終了後に提示した工事価格を支払いました。なんの苦情も言わずに支払いました。店舗完成後は「笑顔で終わりたい」という気持ちもありましたが、「知り合いの紹介」という事情も影響しています。でも本音を言いますと文句の1つも言いたかったのですが…。
 消費者が商品を購入したとき、お金を支払う段になって店頭価格や見積り価格より多く請求されたなら誰でもその欺瞞性に気がつきます。しかし、店頭価格や見積り価格の段階で既に商品の価値より高い価格がつけられていたならどうでしょう。
 僕は今、値付けについて悩んでいます。いったいいくらで売ればよいのか…。
 僕の場合は商品の性質上悩む金額が10円20円の世界ですが、それでも考え込んでしまいます。自分が「ボられる」のに神経質ですので自分が「ボる」側に回りたくない、という強い気持ちがあります。そうは言いましてもやはり粗利益は多いに越したことはありません。
 経営書などには「値ごろ感」という言葉が出てきます。横文字で言いますと「リーズナブル」と言っているようですが、つまりは消費者が納得できる価格です。しかしここにも問題があります。
 消費者がその商品に対して知識がない場合、「納得できる」価格があいまいであることです。先日も悪徳業者に高額な商品を購入させられた年配者の事件が報道されていました。悪徳業者の販売方法はいろいろな方法を駆使して商品価値に見合わない高額な価格を年配者に「納得させる」ことです。言うまでもなく悪徳業者に非があるわけですが、購入を決める段階では少なくとも年配者の方は「納得できる」と思ってしまっています。「納得できる」価格が商品価値に見合っているとは限りません。
 「納得できる」を正しく感じる方法は「比較する」ことです。商品について素人である消費者は「比較する」ことが一番よい方法です。同じような商品がほかの企業ではいくらで販売されているかを調べるならその価格が「ボられた」価格かどうかがわかります。悪徳業者の販売方法の究極的本質は「比較する能力」を麻痺させることです。
 比較するには同業者が多くいることが重要です。数が多ければ多いほど消費者は比較することが容易になります。つまり需要より供給が多い状況が消費者にとって利益になります。
 小泉さんが首相時代、いろいろな分野で民営化が推進されたりまたは閉鎖的な業界への新たな参入が容易になるように進められました。しかし、最近になりその揺れ戻しが起こっているように感じます。そうした状況は過去に政府の規制によって守られていた業界に顕著なように思います。規制があることは「比較する」同業者が少ないことです。そしてそのことは業者が「ボる」ことを容易にすることを意味します。
 消費者が「ボられる」ことがない世の中になるように投票しましょう。
 妻と当店の値付けについてたった二人の会議をしました。当店の商品の性質上「ボる」ことは不可能ですし、もし「ボッた」ならお客様は誰も買いに来ないでしょう。自ずと価格は決まってきます。
 そんな会話から「ボる」ことについて話していましたら夫婦関係について話が進展しました。妻と僕、果たしてどちらが「ボられた」状況なのか…。妻曰く、
「絶対、私がボられた」。
 敢えて僕は反論しませんでしたが、家に帰り寝る前にふと考えました。
「妻は、誰と比較したんだろう…」
 じゃ、また。

紙.gif4コマ漫画
ジャーック!




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