<収益モデル>

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 僕は自転車通勤ですが、通勤途中に自転車屋さんがあります。個人営業のお店ですが、それほど小さくもなくお店全体の雰囲気も小奇麗で展示してある自転車の数も「見栄えの悪い」という数量ではありません。個人の自転車屋さんの中には、薄暗く汚らしく展示してある自転車が「時代おくれ」というお店もありますが、そのお店は規模は小さいですが、近代化されたチェーン店にひけをとらない雰囲気です。
 「時代おくれ」と言えば河島英五さんのヒット曲ですが、歌詞で歌われている時代おくれの男性は「時代に流されることなくいつまでも自分を見失わない」ことを信条にして生きている信頼できる人間像です。
 この歌詞を書いたのは今は亡き阿久悠さんですが、先週は阿久悠さんのドラマが放映されていました。阿久悠さんは演歌からポップスまで5,000曲以上の作詞を手がけた大御所でした。その阿久さんがあるインタビューで「ヒットの秘訣は?」と聞かれときの答えは「みんなが具体的には気づいていないけれど、でもみんなが思っていること」を見つけること、と話していました。同じような話を経営者の方が話しているのを読んだことがありますが、ヒットの秘訣はどの業界でも通じるようです。
 さて、小奇麗な自転車屋さんの前を通りがかるとき店の前にある機械装置が置いてあるのに気がつきました。ペダルを漕ぐスピードを緩め装置に書いてある文字を読みますと「空気入れ」であることがわかりました。そして1回50円と書いてあります。その機械は自転車の空気入れの装置で一回利用するのに50円かかるようでした。
 僕は仕事帰りに毎週必ず1回は大手スーパーに買い物に行きます。これは妻がそのスーパーを気に入っているからですが、その理由は広いからです。妻は店の中を歩き回るのが好きなのです。大げさに言うなら「生きがい」なのです。広い店内をあっちへ行きこっちに行きという行動がストレス解消になるのでしょう。これが狭い店舗ですと動き回るほどのスペースがありませんから同じ空間を何度も周回することになりストレス解消とはなりません。狭い店舗をグルグル歩き回っている様はまるで籠に入れられたハムスターが回転する遊び道具の中で走り続けている姿を思い出させます。
 大手スーパーは店舗に負けない駐輪場を備えています。より多くのお客様を呼び込もうとしているのですから当然と言えば当然です。スーパーはお客様に何度も来店していただくのが使命ですから、そのためにいろいろな工夫をします。その工夫の一環としていろいろな無料サービスを提供します。お客様というのは無料サービスを喜びますからこれも当然です。
 そのスーパーではその無料サービスの一環として自転車の空気入れ装置を設置しています。そうです。先ほど自転車屋さんの前に置いてある、とお話した空気入れ装置と同じものです。こちらは無料サービスの一環ですので無料です。片や自転車屋さんでは50円です。これでは誰が見ても勝負は明らかです。
 自転車屋さんの収益の源は「販売」「修理」「アフターサービス」です。自転車屋さんにとっては「空気を入れる」というサービスも収益の一部になっています。
しかしスーパーでは違います。収益の一部ではなくお客様を呼び込む宣伝の一部でしかありません。昔のプロ野球と同じ発想です。昔のプロ野球は親会社の宣伝広告としての意味合いでしたので収益など度外視していました。
 プロ野球という産業はほかにはありませんでしたので、収益を度外視しようがプロ野球という産業がほかの企業や産業に影響を与えることはありません。しかし空気入れ装置は違います。スーパーで「空気入れ」の無料サービスを提供することは自転車業界に大きな影響を与えます。収益の機会を奪うという影響です。
 スーパーが無料でサービスを提供できるのは、スーパーの本来の目的が店舗の売上げを上げることだからです。売上げさえ上がるなら「空気入れ」を無料にしても問題となりません。
 仮にAとBという異なった産業があったとします。このときAという産業が売上げを上げるためにBという産業の商品を無料で提供したとします。そのときAは経費が増えはしますがそのことで売上げが下がることはありません。うまくいくと売上げが上がり利益が増えることもあります。しかしBにとっては売上げが減る可能性があります。それどころか、Aの行為はBという産業の存在そのもとを脅かす行為です。
 現在、私の店はコロッケや唐揚げなど揚げ物を販売していますが、もしユニクロがTシャツを買った人にサービスとして無料でコロッケを提供したなら私の店の売上げは激減するでしょう。倒産も免れません。
 経済誌を読んでいましたら、新聞業界の苦境が報じられていました。米国や日本の事例が報じられていましたが、両国に限らずどこの国でも新聞業界は過渡期を迎えているようです。それはインターネットの影響です。今の若い人は情報をネットからだけで得る人が多いようで新聞を読まなくなっているそうです。確かにネットでも新聞とほぼ変わらない情報を見られますし速報性では優れています。しかも1社の情報ではなく複数社の情報を知ることができます。しかも、しかもそれらが全て無料です。これは当店で販売しているコロッケをユニクロが無料でサービスしているのと同じ状況です。新聞業界の苦境がわかろうというものです。
 そこで…、僕は思います。ネットの情報は無料ですが、その源は新聞です。その新聞が成り立たなくなった場合、情報の取材はどこが担うようになるのでしょう。
 新聞の収入は購読料と広告ですが、新聞を読む人が減りそれに伴い広告も減っているのが最近の新聞業界の状況です。そしてそれはネットが無料で情報を提供していることが主な理由です。新聞業界は新たな収益モデルを見つけられるか、それが問題です。
 このように今までの収益モデルが機能しなくなり新たな収益モデルを模索する必要に迫られる企業・業界はこれからますます増えるでしょう。冒頭に紹介しましたプロ野球も現在では親会社の宣伝という位置づけではなく球団自体で利益を出すことを求められています。先週の経済誌ではプロ野球とJリーグの業績が掲載されていましたが、球場名やグッズを販売したりなど工夫次第では球団として利益を出すことは可能なようです。どんな企業にしろ業界にしろ新しい収益モデルを確立することは企業が生き残っていくために最低限に必要なことです。
 ところで…。
 文中で、「もしユニクロが無料サービスとしてコロッケを提供したなら当店は倒産する」と書きましたが、それに対抗する方法が1つあります。それは
「コロッケを買ってくれたお客様に無料サービスとしてTシャツを提供することです」
 じゃ、また。




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