<PB商品の存在価値>

pressココロ上




 今年の春ごろにこのコラムでPB(プライベートブランド)商品について書いたことがあります。そのときは大手スーパーが大々的にPB商品を展開していることに違和感を感じたことを書きました。店内の最も目立つところ全てにPB商品を陳列していたからです。直接消費者に接する小売業がPB商品に偏ることに疑問を感じたからです。これではメーカーの商品が売れなくなるのは当然です。もし、小売業の使命がいろいろな種類の商品を紹介することであるならその使命を放棄することにつながります。そしてこのことは消費者の持つ「選択の自由」を損ねることになります。
 PB商品の歴史は古く、僕がスーパーに勤めていた約30年前からありました。PB商品の最大のメリットは価格が安いことです。当時はダイエーが日の出の勢いで成長していた時期でダイエーがPB商品を発売したことを受けて僕が勤務していたスーパーも追従しました。
 売り場で商品を販売していた僕からしますと、当時のPB商品はメーカー商品に比べて品質が見劣りしていました。僕は肌着担当だったのですが、PB商品の肌着は一度洗濯をすると型崩れしてしまい品質の面ではメーカー商品と比べものになりませんでした。理由は、PB商品を作るに際してほとんど商社に丸投げしていたことがあげられます。つまり商社が東南アジアなどの工場に作らせることによって低価格を可能にしていたからです。しかし品質の面から消費者に支持されることはなく、いつの間にか売り場から消えていた、というのが実状です。
 その当時から現在まで小売業は「PB商品の販売」に注力することをまるで周期があるかのように定期的に行ってきましたが、そのたびに「いつの間にか」消えていました。つまり定着することがありませんでした。それは一重に品質の悪さに集約されると思います。
 数週間前、テレビでPB商品の特集を放映していました。現在、またPB商品が注目されていることが番組で取り上げた理由だと思いますが、今回は今までのPB商品の展開とは違うような印象を持ちました。特に今回の「PB商品の販売」は昨今の原材料の値上げ、それに伴う食糧品価格の上昇が背景にあるようで、マスコミ報道ではどこのスーパーもPB商品の売上げが好調のようです。
 僕のコラムを読んでくださるのは、たぶん女性より男性のほうが多いと思いますが、数ヶ月前からカップ麺などが値上がりしているのをご存知でしょうか。そしてPB商品のカップ麺および即席麺が品薄になっていたのをごぞんじでしょうか。メーカー商品とPB商品では価格の差は明らかで40円~50円の差があります。単価100円~150円程度の商品でこれだけの差がありますから当然PB商品が選ばれて当然です。在庫が品薄になるほど売れているのですから消費者からの支持度合いがわかろうというものです。
 昔のPB商品は東南アジアなど人件費が安い地域で作ることで低価格を実現していましたので現在のPB商品の製造も「同じやり方であろう」と僕は想像していました。しかし、番組では日本のメーカーがPB商品を作っていることを伝えていました。僕が驚いたのは、自社ブランドを持っているメーカーがPB商品の製造を請け負っていたことです。これでは自分たちの商品の競争相手を自分で作っていることになってしまいます。自分で自分の首を締めていることになります。しかし、そのメーカーにしてみますと工場の稼働率を上げるという面で意味があるようでした。
 この事実は「PB商品の価格で作ってもメーカーは利益がでる」ことを示しています。番組では1つの商品の価格を構成している要素を紹介していました。その中には原材料費があり販売管理費があり広告宣伝費などがありました。これらの中で割合大きな要因となっていたのが広告宣伝費です。もし、世の中の商品から広告宣伝費をなくしたなら現在の価格はもっと安くなることを想像させました。「化粧品の価格の多くを占めているのは広告宣伝費である」とはしばしば言われますが、商品価格における広告宣伝費は多大なものになっています。
 また、メーカーがPB商品の価格でも請け負うことができる理由に「小売店による全商品の買取」があります。メーカーにしてみますと、作ったものが必ず売れるのですからリスクを負わなくてよいことになります。ですので自社ブランドを作るよりもリスクを負わない分安く作ることができるのも理解できます。この意味でPB商品は大手の小売業しか作れません。
 「商品の買取」で連想するのはデパートの衣料部門です。僕は学生時代に大手デパートでアルバイトをしていましたが、そのときに社員の方に教わりました。当時、今もあまり変わらないようですが、デパートで売られている商品の多くが委託販売でした。つまり一定期間売れなければ返品ができるのです。これでは商品販売に緊張感が出るわけはありません。僕は当時思ったものです。
「デパートってただの貸し会場と同じじゃない」
 リスクを負わない仕事に成長・発展が望めるはずはありません。近年のデパートの凋落ぶりはそれなりの理由があるように思います。
 僕は基本的に「強い立場の者が弱い立場の者になにかを強要すること」に反発心があります。大手小売業でも問屋さんやメーカーに協賛金を強要するなどの行為には反発しています。豆腐のメーカーである(株)篠崎屋という会社をご存知でしょうか? 以前その会社の社長の本を紹介したことがありますが、この会社はスーパーに卸していたときあまりの仕入れ値の低価格の強制や協賛金などの強要に憤慨してスーパーに卸すことをやめてしまいました。このような事例をみていましたので僕は大手小売業に対してよい印象を持っていませんでした。
 同じように、大手小売業がメーカーに対してその強い立場で低価格商品を作らせることにも違和感を持っていました。それが冒頭に書きました「店頭の目立つところにPB商品を展開すること」に違和感を持ったことにつながります。
 しかし、ここ数ヶ月の食糧品の値上げをみていまして少し考えが変わってきています。価格は競争により落ち着くべきところに落ち着きますが、その競争とはあくまでメーカー間の競争でしかありません。つまり、その競争とは同じ発想の同じ論理の範囲内に限られています。そうした状態の中で、消費者はその落ち着くべきところに落ち着いた価格が妥当だと思ってしまいます。このことは消費者がその価格が適正かどうかが判断できないことを意味しています。仮に、メーカー間の競争において不正が行われていても消費者はわかりません。
 このような状況で、メーカーでなく小売業が決める価格が提示されることは大きな意義があります。メーカー間の競争で決定された価格の高騰を防ぐ効果があります。今の時代、もしPB商品が展開されなかったなら価格はもっと高くなっていたかもしれません。PB商品の果たす役割は単純に低価格を提供するだけでなく、市場において適正な価格を形成する一翼を担っています。
 それでも大手小売業が強い立場でメーカーに接するのにはやはり抵抗感があります。どんなに強い立場にいようが相手に対する謙虚な気持ちは失ってはほしくないものです。
 ところで…。
 民主党にドタバタ劇が起きています。野田氏の党首立候補取りやめは仕方ないにしても新党立ち上げへの離党劇は国民へ不信感を与えます。特に、姫井由美子議員の行動は軽率の誹りを免れません。離党するかしないかは本人の信念で決めればよいことですが、最後の最後になって考えを変えることはあまりにも無責任すぎます。どちらが正しかったのかは後年になってからしかわかりませんが、選択に迷ったときは「倫理に照らして考えるべきだ」と大学生の頃、倫理学の授業でワダ教授が言っていました。倫理とは
「人として守り行うべき道。善悪・正邪の判断において普遍的な規準となるもの」だそうです。倫理感のない人が本当の意味での不倫な人です。
 じゃ、また。




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