<ブランドとプライド>

pressココロ上




 先週、東京でも雪が降りまして、その日は店の前の人通りも少なく、というよりもほとんどなく、そんな風景をひとり眺めていますといつもとは違った心持ちになります。雪国でこのコラムを読んでいらっしゃる方は、雪など珍しくもなくごく普通の風景で、どちらかというと鬱陶しささえ覚えるのかもしれませんが、雪があまり降ることがない東京で上から雪が降りてくる光景、そしてその雪の粒が大きなものですと、不思議と僕の気持ちを厳かにします。
 しばらく雪の降るのを眺めていましたら、向かいにある自販機(自動販売機)の前に中年男性が立ちました。男性は財布を出し自販機にお金を入れているようでした。そしてそのあと僕の店に向かって歩いてきました。僕が、人通りの少ない日にやってきたお客様に喜びの笑顔で迎えますと、男性はこう言いました。
「販売機でコーヒー買おうと思ったけどお釣りがでないから50円玉と10円玉にして」
 右手の指先には100円玉がありました。
 男性がこの台詞を言うのに、枕詞は一切ありません。例えば「すみませんが」とか「悪いんですけど」といった「相手を気遣う」言葉は全くなく、唐突に自分の要望だけを言ったのです。この男性は、どのような人生を歩んで中年にまでなったのでしょう…。
 さて、その自販機。ほとんどの自販機の価格は同一です。どの会社の自販機であっても価格は同じです。東京ですと120円が一般的です。同じような商品がコンビニなどでもっと低価格で売っていますので決して安い値段ではありません。最近では、ごくたまに100円均一で販売している自販機も見かけますが、100円均一自販機が広がる気配はありません。これは大手が値下げに踏み切らないことが理由のように思います。このことは、つまり大手は値下げをしなくとも一定の売上げが確保されている証拠でもあります。では、なぜ大手は値下げをしなくとも一定の売上げを確保できるのでしょう。
 それは立地です。たぶん自販機が登場して以来、大手のシェアは順位の変動がないように思います。きちんと調べたわけではありませんが、そのように思う理由は今から10年以上前に読んだ経済誌の記事です。
 その記事には、自販機のトップシェアをとっている企業について書いてありました。その企業がトップである理由は立地にありました。その企業は日本で初めて自販機を設置した企業ですが、そのときは当然のごとくライバル社がいません。ですので主要な好立地条件の場所をほとんど全て抑えていたことがトップであった理由でした。先行する会社が有利であるのは当然ですので現在でもトップであると僕が想像して所以です。
 もちろん時代の移り変わりにより好立地という条件は変化しますが、立地環境の重要性を熟知している企業が手をこまねいて時代の流れを過ごすはずはありません。間違いなく今もトップの座を死守しているはずです。
 因みに、新しく店舗を構えますと、余程の悪条件の立地でない限り、必ず自販機会社が訪問してきます。そのときは焦らず好条件を提示する会社と契約をしましょう。
 自販機のように値下げをしなくとも売上げを確保できる商品は企業にとって理想的な販売方法です。同じように値下げをしなくとも売上げを確保できていた商品にいわゆる高級ブランド品があります。高級ブランド品にはファッション用品から靴、バッグまでいろいろとありますが、最近これらに変異が見られるようです。「変化」では「変異」とまで言ってもよいと思いますが、値下げを断行していることです。
 高級ブランド品は品質はもちろんですが、その高価格も魅力の一つになっています。それはステイタスシンボルになっていることです。高級ブランド品を持っているだけで一回り大きな人間になった錯覚を起こさせる雰囲気があります。多くの人はその魅力に惹かれていることも事実です。その魅力を手放そうとしているのですから生半可な決断ではありません。
 企業は、商品を高く販売することが優良企業の条件の一つです。ある著名な経営者は「安く売ることは誰でもできる。高く売ることができてこそ仕事人として一人前」とまで言い切っているほどです。その一人前の仕事を手放そうとしています。
 僕は、これまでにもこのコラムで幾度か、商品の価格をテーマに取り上げたことがありますが、価格はどのように決められるのが本来あるべき姿なのか悩んでいます。
 前にも紹介したことがありますが、600円の価格で売上げが低迷していた靴下を名前を変え1,000円で販売したところ売上げが伸びたという経験を売り場の担当者として経験しています。消費者はいったいなにを考えているのでしょう。
 先週の日経ビジネスをご覧になった方はご存知でしょうが、米国の高級百貨店で高級ブランド品が値下げされている記事が掲載されていました。高級ブランド品を半額で買ったお客様が「2度と定価では買わないわ」とコメントしていましたが、このお客様は、これまでなんの疑問も持たなかったのでしょうか。
 僕は、ブランドとは商品に対する企業の保証だと思っています。企業が商品に対して持っている自信を示すものです。言い方を変えるなら、企業が商品に対して持つ誇りと言ってもよいかと思います。誇り、つまりプライドです。ブランドは企業のプライドを表していると思います。
 企業が商品に対してプライドを持つことはよいことですが、では、さて「いくらで売るか?」となると答えは簡単ではありません。高い価格を設定することは企業にとって利益になることですが、一歩間違うと詐欺と同じになってしまいます。
 先週、健康食品で「効果がない」にも関わらず「あるように」みせかけて販売していた企業が摘発されました。高級ブランド品も一歩間違うと同じような結果となる可能性があります。
 僕は、今回の不況はとても困ったことだとは思いますが、商品の価格という面においてはよい機会であるとも思っています。特に高価格の象徴である高級ブランド品においてよい機会です。高級ブランド品の本来あるべき価格があぶりだされると思うからです。けれど、果たして「本来あるべき価格とは?」
 GMをはじめフォードなど、また販売世界一になったトヨタでさえ売上げが低迷しています。いったい誰が、これほどの自動車産業の衰退を予想できたでしょう。時代の移り変わりとともに優良産業が退潮していくのは仕方のないことです。昔、「鉄は国家なり」とまで言っていた鉄鋼業が衰退した歴史を見るだけでも「盛者必滅」の道理を知ることができます。
 価格の決まり方も同様のことがいえるはずです。著名経営者が話していた「高く売れてこそ一人前」という考えも時代に合わなくなっていくかもしれません。高価格が売りものの高級ブランド品も適正な儲けを上乗せし、もしくは適正以下の儲けでも企業が成り立つことがブランドのプライドになる時代に向かっているように思えてなりません。
 ところで…。
 妻は毎週、NHKの韓国ドラマを見ています。僕が最後に韓国ドラマを見たのはあの「冬のソナタ」ですが、妻はそれ以降もずっと見続けています。
 妻が見ていた韓国ドラマをたまたま僕も見る機会がありました。そのときに僕が思ったのは、韓国の人の顔って日本人に似ている、ということです。今、放映している「ファン・ジニ」というドラマの出演者は特に似ているように思います。
 主人公の女性はタレントの井森美幸さんに似ていますし、ほかには女優の故・塩沢ときさん、元モーニング娘のミキティさん、渋い男優の小林 稔侍さん、などに似ている韓国俳優の方が出演していました。ほかにもたくさん日本人に似ている方がいたのですが、やはり同じアジアの国ですので自然と似た顔の人が俳優になるのでしょうか。
 その中でも僕が一番似ていると思ったのは主人公の相手役の男優です。その人の顔は僕が中学のとき同級生だった足立君にそっくりなんですけど、みなさんにはわからないですよねぇ…。
 じゃ、また。




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