<加齢臭>

pressココロ上




 先日、妻が僕の髭を電気カミソリでゴリゴリやっていたときです。妻は機嫌がいいと、たまに電気カミソリで僕の髭を剃ってくれます。この行為は単に僕に優しくしているのではなく、電気カミソリで髭を剃るときに感じる感触を妻自身が楽しんでいるからでもあります。しかし、僕にとっても快感であるのは同じで、顔を上に向けボーっとしているときに電気カミソリが肌に当たるはとても気持ちよく、眠りに誘われるほどです。
 そんな仲のよい夫婦をやっているとき、妻がのたまいました。
「ちょっとぉ、オメェ、オヤジの臭いがする」
「うん、まぁ、オヤジだから…」
 僕がうつらうつらしながら返事をしますと、妻が続けました。
「加齢臭…。そうだ。これ加齢臭の臭いだ」
 この発言にはやはり僕としましてもちょっとショックでして、とうとう僕も加齢臭を発する体質になってしまったようです。若い頃、電車などで中年オヤジの臭いをあまり好きでなかった僕ですので、その臭いの源に自分自身がなったのはやはり落ち込みます。
 僕の店に買いに来てくれるお客様は高齢者の方が多いです。スーパーなどでは、パックになっていることが多いですが、僕の店は1個から買うことができますのでそれが高齢者のお客様が多い大きな理由だと思います。それと同じくらい大きな理由としてあと1つ僕が感じていることがあります。それは慈愛とでも言いましょうか、お客様が持つ優しい心遣いが僕の店で買わせている、と僕は思っています。それは、次のような、買うときにお客様が発する言葉からわかります。
「あんまり来れなくてごめんね」とか「少しの量でごめんね」などと言ってくれます。
 悪い表現で言うなら「同情心」かもしれませんが、僕には「応援する」気持ちが篭っているように感じます。しかも、こうした言葉を発するときの雰囲気に、あてつけがましい感じは少しもありません。本当に自然にさりげなく言います。こういった人たちからは加齢臭は決して漂ってきません。
 先日、週に2度くらいの頻度で来店する高齢のお客様がいらっしゃいました。足が悪いようでいつも杖をついたりカートを押したりしています。カートは杖の代わりにするものです。
 その日はカートを押してきました。お買い上げ金額は400円ちょっとでしたが、お会計を済ませ商品をカートにしまいますと、中でゴソゴソとしていました。そして中からイチゴが入ったパックを僕に差しだしたのでした。そのときに笑顔とともにこう言いました。
「買いすぎちゃったから」
 きれいなパックに入った大きな粒のイチゴです。少なめに見積もっても僕の店で使った金額より高いのは間違いありません。もちろん、この方からも加齢臭は漂ってこないでしょう。
 新聞の人生相談を読むのが好きです。以前載った高齢者の相談内容が忘れられません。内容は、「老人会の人間関係で、グループ間の対立」に関してでした。高齢者の方たちの集まりでもグループの軋轢があることが悲しいです。年齢を重ねた人もそれぞれで加齢臭が強い人とそうでない人がいます。この老人会には加齢臭の強い人たちがたまたま集まってしまったのでしょう。こうした人が集まった団体で気持ちよく過ごせるはずはありません。
 加齢臭で一番嫌な臭いは「教えたがる」ことです。特に大企業などである程度の地位まで上りつめた人は組織を離れてもその癖が抜けない人が多いようです。若い人を捉まえては、かつての自分の栄光を話したがります。「自分を大きく見せよう」とすることは人間の業ですが、その業が強すぎると弊害のほうが大きくなります。
 上司が部下に、または年長者が若い人に「自分の成功話」をするのはよく見かける光景です。そういうとき、少なからず人間の業が滲み出てしまうのは仕方ありません。それを避けるために、上司が部下に、年長者が若い人に話すべきは「自分の失敗話」です。しかもできるだけ「みじめに」「みっともなく」「情けなく」話したほうが聞く人に役に立つというものです。そのようなとき加齢臭はしないでしょう。
 昨今はセミナー流行りですが、セミナーは「教える」ことで儲けを得るシステムです。ある雑誌によりますと、最近は「脱サラ」「起業」のセミナーの受講生が増えているそうですが、セミナーに参加したりまたはセミナーに関連した商品を購入する費用が高いものはあまり信用できません。モノではなく情報という商品の対価が数万円もするのはいかがわしさを感じてしまいます。加齢臭に限らず、臭いがあまりに強いものは疑ってみたほうが賢明です。
 加齢臭を強く発している人たちはどこの世界にもいますが、特に強いのは政界ではないでしょうか。ある意味、年功序列がはっきりしている世界ですから、当選回数が多い人が加齢臭を発しやすい構造になっています。
 現在、民主党の小沢さんや自民党の二階さんが検察から睨まれているようですが、政治家としてある程度の実績がある人たちは多かれ少なかれ皆さん脛に傷を持っているのではないでしょうか。現在の選挙システムでは、そのようにしなければ当選回数を増やせないのは国民に広く知られた実態です。このような政界をクリーンな政界にするには加齢臭を発しているベテランの方々から若い政治家に世代交代をすることです。そのために重要なのは選挙民がクリーンな政治家に一票を投じることであることは言うまでもありません。
 投票するときは加齢臭に敏感になりましょう。
 ところで…。
 僕は、妻に加齢臭を指摘されたときこう言いました。
「僕から加齢臭がするのは、僕がカレーライスが好きだからなぁ」
 すると妻が言いました。
「ねぇ、そういうつまんないオヤジギャグが加齢臭の根源なんじゃない」
 じゃ、また。




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