<責任の有効期限>

pressココロ上




 先週はコラムの最後に、タバコの自動販売機のお話をしましたが、今週はタバコ自販機のお話から…。
 現在、自販機でタバコを買う場合、タスポという年齢認証カードが必要です。この制度ができたのは確か昨年の10月からだったと思いますが、僕は持っています。制度が始まる数ヶ月前からいろいろな媒体で告知をしていましたが、僕としてはそれほど必要とは思っていませんでした。多くの人がそうであったように「コンビニで買えばいいや」と思っていたからです。そうは言いましても、一応申込書は手にしていました。
 申込書の内容を見ますと、住所を書いたり免許証のコピーや写真などを用意しなければならず面倒そうでした。なので僕は申込書の郵送はしないでいました。
 そうした状況のままでいましたが、制度がはじまる1週間くらい前の仕事がお休みの日のことです。僕はたまたまタバコを買いに家の近くに設置されている自販機に行くつもりで、妻に「タバコ買ってくる」と言いました。すると、妻は「ついでにスーパーでの買い物」を言いつけました。
「言いつけました」。うん、この言葉使いはピッタリですね。この表現ほど僕と妻の夫婦関係を如実に表している言葉はありません。ハイ!
 それはともかく、いつもなら近くの自販機で買うのですが、妻の言いつけにより僕はスーパーでタバコを買うことにしました。
 スーパーで妻の言いつけを済ませ、僕はタバコ自販機に向かいました。自販機のほうを見ますとユニフォームらしきジャンパーを羽織った男女のペアが立っていました。僕は、よくスーパーなどで見かけるビールなどのキャンペーンだろうと思いその男女の前を通り過ぎ自販機の前に立ちました。そして自販機にお金を入れタバコを取り出すとうしろから声がしました。
「タスポの申し込みは、もうお済ですか?」
 ジャンパーを着た男女はタスポの申し込みを奨励する係の方でした。結局、僕はその場で申込書を作成し、年齢証明の確認も終え、写真撮影まで済ませてしまいました。しかも郵送も係の方が請け負ってくれたのでした。全て無料です。
 このようにして僕はタスポを手に入れたのですが、もしあのとき妻が僕にスーパーへの言いつけをしなかったなら、たぶん今でもタスポを持っていないでしょう。僕は、いつもは妻に感謝することなどありませんが、タスポに関してだけは妻に感謝しています。ハイ!
 
 ある日、妻とスーパーに買い物に行き、妻がレジに並んでいるのを待っていたときです。僕が立っていた近くにタバコの自販機がありました。なにげなく自販機のほうを見ますと自販機に置いてある「タスポ申込書」を読んでいる男性がいました。たぶん、その男性はまだタスポを持っておらず申込みをするつもりなのでしょう。しかし、手続きの面倒くささからするとその男性が申込みをするかどうかはわかりません。僕の予想では申込みをやめる確率のほうが高いはずです。そう思うと、僕は尚一層「僕って、運がいいなぁ」などと思ったりしました。
 そのような優越感に浸りながら男性を見ていましたら、男性の身体の先にある自販機に貼ってある大きな文字が目に入りました。シールに貼られた文字はこう書かれていました。
「タスポで24時間タバコが買えます」
 そうか! 僕はそのとき初めて気がつきました。僕はこのときまで自販機は以前のように午後11時までしか買えないと思っていたのです。よく考えてみますと、タバコ自販機の販売時間の制限があったのは、未成年者対策でした。しかし、タスポ導入によりその意味はなくなったのです。僕は、うかつにもそれに気がついていませんでした。読者の中にも僕と同じように勘違いをしている人がいるのではないでしょうか。
 このようにタスポはとても便利ですが、それでもタスポの普及率は低いのではないかと思っています。その理由はコンビニでのタバコの売上げが上がっている、という報道からです。
 昨年来、どの業種の小売業でも売上げが昨年対比マイナスな中、コンビニだけは昨年対比プラスになっていました。その理由はタバコの売上げです。この現象は、小売業に携わっていない人からすると「へぇ」で終わってしまいますが、僕としては「粗利が高い商品が売れるようになって羨ましい」という感想です。言い方は悪いですが、「なんの努力もせずに」利益が増えるのですからやっかみたくもなります。すみません。心が狭い人間なので…。
 コンビニはタスポ効果で売上げを上げていますが、この効果を除くとやはり昨年対比マイナスになるようです。以前、このコラムで書きましたが、コンビニの閉店が至る所で見受けられます。みなさんの周りでも同じでしょう。
 僕は、閉店したコンビニ加盟店主の方々のことを思いますと気の毒でなりません。閉店した中には、店主自身に問題がある場合もあるでしょうが、ほとんどが店主の力の及ばない理由が原因のはずです。例えば、本部の経営方針が誤っていたり立地環境の変化があったりなど店主の裁量では如何ともしがたい理由です。こうした理由では店主は対応のしようがありません。店主の方々の心痛はいかがばかりでしょう。
 しかし、店主として自営業者の道を選んだのですから、それなりに覚悟を決めていたと思います。そして、閉店という結果を潔く受け入れたことになります。その行動は責任を全うした証でもあります。それに比べ財政赤字は…。
 先週、政府は景気対策を発表しましたが、その財源が心配です。その大半が赤字国債だからです。今でさえ赤字国債の総額は800兆円を越えています。いくら景気対策とはいえこれ以上増やして大丈夫なのでしょうか。
 僕が社会人になり社会や経済のことを少しずつ考えるようになってから約30年が過ぎています。その間ずっと財政で不足する分を赤字国債で補ってきました。最初のうちこそ、借金をしてでも景気を上向かせ、景気がよくなったらそれを返済するといった談話も聞こえてきました。けれど、今まで返済をできずにいます。景気がよくなったらなったで、その税収をほかのことに使っていたからです。そうした歴史を見ていますので、今回も景気をよくするためといっても容易に信用できるものではありません。いったい、赤字国債という借金はどこまで増え続けるのでしょう。
 テレビでは消費者金融の企業がコマーシャルをしていますが、その最後に必ず「収支のバランスを考えて」というキャッピコピーを流します。政府の方々には、是非ともこのコマーシャルをよく見てほしいものです。
 ところで…。
 オバマ大統領が経済運営について、ブッシュ大統領時代に増えた財政赤字を半分に減らす方策を発表した、とニュースで報じていました。番組では棒グラフを示しながらブッシュ時代に赤字が増えたことを説明していましたが、僕はそれは見て思いました。
 結局、オバマさんがブッシュさんの失敗の尻拭いをすることになるわけですが、借金を増やした当事者であるブッシュさんはなんの責任もとらないのでしょうか。この点が僕としてはスッキリしません。
 同じように、日本においても歴代の財政に関わった人たちは現在の800兆円という借金に対してなんの責任もとらないでいいのでしょうか。それがスッキリしません。退任したあとは「なんの責任もとらなくてよい」構造が赤字国債という借金を増やしてきた源のように思います。
 民間企業であるなら、社長を引退したあとでも任期中に行った行為に対してその責任を追及されることがあります。経営者にとっては辛いことですが、そうした「責任を負うこと」が仕事に対する真剣さにつながるように思います。
 今回の景気対策の財源も赤字国債です。もし退任したあとも在任時の政策決定に対して責任を負うことが義務付けられるとしても政治家の方々は赤字国債を発行してまで景気対策を行うのでしょうか。僕は、政府の要職に就く方々に責任認証カードが導入されればいいと思っています。
 じゃ、また。




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