<製造業の存在意義>

pressココロ上




 僕は以前、このコラムで「PB商品の存在価値」という題名でコラムを書いていますが、僕は「PB商品」に言い意味でも悪い意味でも強く関心を持っています。「PB商品」は小売業、製造業の両方にその存在意義を投げかけているように思います。
 僕はかつてラーメン屋を営んでいましたが、ラーメン屋に限らず飲食業で提供される料理は究極のPB商品と言えます。その店独自の味を提供するのですからPB商品にほかなりません。しかも、飲食業は料理を「販売する」という面では小売業ですし、「調理をする」という面では製造業でもあるわけです。僕は飲食業の経験がありますので、小売業、製造業の両方の気持ちがわかる、といっても差し支えないでしょう。
 小売業と製造業の関係を大まかに言いますと、元々は製造業が上で小売業は下の関係でした。昔は、小売業は製造業の下請けのような存在でしたので、その弱い立場から脱するべく地位の向上を考えていました。そのために規模の拡大を目指しスーパーマーケットなどが誕生したわけです。そして少しずつ小売業が力をつけ製造業と肩を並べる、もしかしたら最近では小売業の方が力を持っているかもしれません。そうした流れの中での「PB商品」であったわけです。
 このような流れ、状況の中で、僕は最近「製造業の存在意義」について考えるようになりました。実際、PB商品がこれだけ売れている現況をみていますと、製造業は消費者に直接販売する場所を持っていないわけですから「製造業など必要ないのではないか」とさえ思えてきます。いくら商品を作ろうが消費者に渡す場所が確保できないなら製造する意味がありません。製造業が、単に小売業に言われるままに商品を作るだけの存在であるならば世の中に製造業などいらなくなってしまいます。
 そんな疑問を感じていた中で、先週の日経ビジネスで「山崎製パン」の特集を読みました。そこには製造業の本来あるべき姿が書かれていたように思います。
 簡単に言ってしまうなら、製造業のあるべき姿は「小売業から『商品を扱わせてください』とお願いされる」だけの実力を持つことです。
 現在、食料品や雑貨などいわゆる生活品を製造する企業(以下メーカー)が商品を販売しようと思うなら、コンビニの売り場に商品を並べることは必須です。そのためにどの企業もコンビニに足しげく通い営業をしています。これだけ強い立場になっているコンビニですから、当然メーカーに対して無理難題を押しつけることもままあります。
 これまでにも、小売業が独占禁止法ギリギリ、もしくは独占禁止法を犯してまでメーカーに対して様々な協賛を強要した事件は幾つも報道されています。そうした中で、山崎製パンも大手コンビニから無理難題を押しつけられたそうです。そのとき、山崎製パンの社長は、その無理難題を断ったそうです。もちろん、それ以降山崎製パンはそのコンビニの棚から消えることになりました。しかし、それでも毅然として拒否した姿勢にメーカーとしての気骨を感じます。
 僕は、小売業とメーカーの両方の気持ちがわかります。
 前に、オーケーというスーパーについて書いたことがあります。そのときはオーケーという企業について好意的に書いたように思います。実際、その企業としての姿勢が消費者に対して誠実な感じがしていたからです。そのオーケーは現在、大手ビールメーカーの商品の販売を制限しています。オーケーのモットーは「誠実」ですから、売り場にはそのメーカーの商品が棚に並んでいない理由まで表示されています。その文章を読み僕は、「そのビールメーカーがオーケーの要望を受け入れないから」と理解しました。
 「行きすぎ」です。僕にはそう思えました。
 僕は小売業とメーカーの両方の気持ちがわかります。
 オーケーの社長は、セコムという警備会社から発展し今は病院や介護まで展開している企業の創業者・飯田亮氏のお兄さんです。その亮氏はベンチャー起業家の走りと言われる人ですが、その亮氏は「安く売るのは誰でもできる。高く売ってこそ仕事だ」と格言を語っています。ビジネスマンにとってはまさに至言です。
 その亮氏の兄であるオーケーの社長はお客様に「できるだけ安く売る」ことを企業の使命と考えているようです。売り場には「他店より高いものは値下げします」というポップまで掲示されています。オーケーは、メーカーではなく消費者の立場に寄り添った企業であろう、としているようです。でも、「行きすぎ」です。
 僕は、小売業とメーカーの両方の気持ちがわかります。
 かつてダイエーと松下電器が対立したとき、価格決定権の争いがありました。その根底にあるのは松下幸之助氏の水道哲学です。
「企業は適正な利潤を乗せて全国に満遍なく製品を提供する」
 当時の時代状況を考えるとき、この考えは真っ当だと思いますが、やはり問題は「適正な利潤」です。「適正」とは誰が決めるのでしょう。僕の考えでは、それは規制のない市場しかありません。いろいろな企業が繰り広げる競争の中で、落ち着くところが「適正」です。もし、行政やら団体やら、なにかしらの恣意が働くなら、そこには必ず不公平が表れます。競争は公平な同条件の元で行われることが大前提です。それなくして発展はありえません。
 僕はたびたび保険業界ならびに金融界を批判していますが、理由はこの適正利潤がかなえられていないように思えるからです。暴利とまでは言いませんが、「適正」とは言えない利潤を上乗せしているように見えます。それは護送船団方式とまで言われた業界の悪弊が残っているからです。規制緩和によりいくらかは是正されましたが、業界による横並び意識はまだ解消されていません。金融界が発展するにはさらなら競争が行われる必要があると思っています。
 さて、適正利潤を上乗せした小売価格を実現させるために小売業はメーカーに無理難題を押しつけることもあるでしょう。しかし、無理難題がメーカーの存続を脅かすほどであったなら山崎製パンのように拒否するのも1つの選択です。そのためには拒否するだけの実力を培っていなければなりません。その実力とは消費者に支持される商品力です。小売業が容易に真似できないだけの商品力です。作詞家の亜久悠氏は言っています。
「消費者が気がついていない、でも世に出てきたら喜ぶものを作り出すのがプロだ」
 山崎製パンはまさにそれを成し遂げていたからこそ、コンビニの無理難題を拒否することができました。小売業と同程度の商品力しか持ち合わせていないメーカーは製造業の存在意義も持ち合わせていない、と言ってもよいのかもしれません。山崎製パンの飯島延浩社長は日経ビジネス誌上でこう語っています。
「真剣に品質向上に努めているところが、やはり価値を生み出す場にいるべきです」
 山崎製パンは一時期、大手コンビニの棚から消えましたが、数年後コンビニ側からの要望で取引を再開しています。つまり、山崎製パンの勝利です。これでこそメーカーの真骨頂と言えるでしょう。
 ところで…。
 僕は最近「情報」についても考えています。果たして「情報」は有料であるべきか。
 例えば、僕が学生の頃は住宅に関する情報や映画などの情報は有料の雑誌から得ていました。求人情報でさえ有料の雑誌があったほどです。しかし、数年前からフリーペーパーが登場し、そうした情報は無料で提供されるのが当たり前になっています。そうした時代ですから、有料で販売されていた情報雑誌が廃刊に追い込まれても不思議ではありません。
 この事実は、情報を提供するのに要するコストを誰が負担するのか、といった問題です。これまでは「提供する側」とともに「知りたい側」も負担していましたが、これからは「知りたい側」の負担はなくなるのでしょう。
 以前、「生命保険のカラクリ」という本が出版される前にネットで無料公開された話を紹介しました。この手法はアメリカで「フリー」という本を販売する際に取られた方法ですが、ネットで無料公開されても本も売れているようです。「生命保険…」という本の著者は新興ネット生命保険会社の社長ですので、ある意味本の出版が宣伝を兼ねているともいえます。ですから、本に書いてある情報は無料でもかまわないわけです。
 本というメディアは情報が書かれているだけではありません。本には知識が書かれていることもあります。その場合、知識も無料で提供されるべきものでしょうか。
 本文で、「メーカーの存在意義」を述べましたが、「知識を伝えること」はメーカーと同じ立場になることです。知識は「主張」や「考え」とも共通しますが、それらを伝える(出版する)ことはメーカーと同じく「作る行為」です。その点が情報との違いのように思います。
 では、「知識は有料で伝えるもの」として、知識はいくらで提供されるべきでしょう。先ほど、「知識を伝えること」と「出版すること」を同義語としましたが、出版するには当然コストがかかります。その前に著者が知識を蓄積したり整理したりするのにもコストがかかっているはずです。しかし、このコストはあまりに曖昧で価格に反映させるのに適していません。ですから考慮に入れないほうがよいでしょう。
 知識を「ネットで伝える方法」と「本というメディアで伝える方法」では本のほうが圧倒的にコストがかかります。僕が体験記を無料で公開できるのもコストが全くかからないからです。つまり、出版する際の価格は出版社の経営力に委ねられています。
 実は僕は、本の再販制度に反対ですし、本は高いと思っています。まだまだ工夫次第でいくらかでも安くできるはずです。先ほど紹介しました「生命保険…」という本はネットで無料で公開されていましたが、その内容を「プリンターで印刷する」となると本を買うよりも高くつくそうです。本の価格はそのくらいが基準でよろしいのではないでしょうか。
 じゃ、また。




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