<建前と本音>

pressココロ上




 今年1回目のコラムです。本年もよろしくお願い申し上げます。
 さて、皆さんはどんなお正月をお過ごしになったのでしょう。僕はと言えば、いつもと変わり映えのしない正月で、お休み3日間のうち2日はのんびり家で過ごし、あと1日は家族でお出かけで、初詣に行き、それから親子対決ボーリング大会を開催したあとに食事をして、それから買い物をして、で終わってしまいました。毎年同じですが、その平凡な時間の過ごし方こそが幸せと感じている次第です。
 お正月は旧知の友人などの近況がわかる年賀状を読むのも楽しみの一つです。しかし、僕は友人知人が少ないですので、年賀状はあまりきません。20~30枚くらいでしょうか。親類を除きますと、さらに少なくなります。その少ない年賀状の中に元上司がいます。元上司と言ってもかなり前の元上司でして、約30年前、僕が社会人の第一歩目を刻んだときの上司です。つまり、生まれて初めて仕えた上司ということになります。
 僕のコラムを読み続けている方はおわかりだと思いますが、僕は偏屈なところがありますので好き嫌いがはっきりしています。計算高い人や相手によって態度を変えるような人は好きになれません。そういう人とは自然と付き合いが消滅してしまいます。そんな僕が今でも年賀状のやりとりだけとはいえ関係が続いているのは、この元上司に対して僕が好感を持っていたからです。僕が社会人一歩目のとき、係長だった人で年齢にして僕より9才年長の方です。
 会社に勤めている方なら誰でもが経験していると思いますが、ゴマ擦りだけの上司や責任逃ればかりを考えている上司などがいます。僕の数少ない会社員経験の中でさえそういう上司がいました。先ほど紹介しました上司はそんな嫌な上司とは正反対の上司ぶりの方でした。だからこそ、僕は今でも関係が続いているわけです。
 その方からの年賀状に、今年はこのように書いてありました。
「コンビニを始めて10年が過ぎました。あと10年は頑張りたいと思います」
 元上司の方は50才を過ぎてから早期退職し、コンビニの加盟店になっていました。つまりは典型的な脱サラ組のコンビニオーナーというわけです。実は、この方のほかにも年賀状のやりとりをしている人の中にコンビニオーナーの方がいます。こちらは僕の知人というよりは妻と親しい人ですが、ご主人と一緒にやはり十年以上続けています。僕はこの方々からの年賀状を毎年読み、コンビニ業界の現状や動向について想像していました。そんな中、時折疑問が浮かび上がることがありました。
 僕は脱サラのサイトを運営し、その中でコンビニ加盟店になる脱サラについても情報を発信しています。そして、僕はどちらかというとコンビニでの脱サラに賛成し兼ねる意見を展開しています。それは、かつてコンビニオーナーの方とメールのやり取りなどをして「加盟店に不利な契約を結ばせている本部」に対して憤りを感じていたからです。実際、経済誌などでもその実態を報じたりもしていました。現在もその状況は変わないようで、昨年の終わりにも、週刊ダイヤモンド誌上では覆面座談会を催して加盟店主の方々の悲惨な現状を報じていました。
 しかし、実は、僕はコンビニ経営の違う一面についても考えることがあります。それは、
「本部に対して反発する態度を取るでもなく、不平や不満を声高に叫ぶでもなく、本部の指示に従いながらコンビニを経営している平均的な加盟店はコンビニ業界について、または本部に対してどんな気持ちでいるのだろうか?」
 ここでの僕の重要な要因は「平均的な加盟店」の方々です。確かに、加盟店の不利な状況に対して不平や不満を訴え裁判まで起こしている店主の方々はいます。しかし、割合で言いますと、決して多くはありません。つまり、大多数の平均的な加盟店はその「不利な契約状況」であっても納得している可能性があることになります。「納得」が言いすぎであるなら、我慢の限度内とでも言いましょうか。どちらにしても裁判まで起こすほど「本部に対して反発心」を抱いてないように見えます。このような本部に従順な加盟店について、本部に反発している加盟店主の方々は、「報復を恐れているから」と断じています。しかし、僕にはそれだけではないような気がしてなりません。その根拠となっているのが、年賀状のやりとりをしている加盟店主の方々の近況添え書きでした。
 実は、妻と親しいコンビニオーナーの方は自分たちだけでなく息子さん夫婦までコンビニ加盟店になっています。つまり、親子二代で2店舗を経営していることになります。もし、本部に対して強い不満があったなら決して息子さん夫婦にまでコンビニ経営をやらせるわけはありません。やはり、コンビニ経営にはそれなりに魅力があるのかもしれません。
 ですがここで注意を払わなければならないことが一つあります。それは、この方が特殊なケースである可能性が高いことです。ご存知のようにコンビニ加盟店になるには幾つかのパターンがあります。大きく分けますと、普通のサラリーマンが脱サラで契約するパターンと土地や建物などを所有している資産家が契約するパターンです。そして、これらの契約内容には雲泥の差があります。一般的には、加盟店のうち最も多いパターンは前者で後者はそれほど多くはありません。もちろん後者の契約内容のほうが加盟店に有利であるのは言うまでもありません。親子二代で経営している方は後者である可能性が大きいのです。もし、そうであるなら、一般の方の参考にはなりません。
 しかし、僕の元上司の場合は「脱サラ組」の加盟店です。それにも関わらず「あと10年、頑張る」と賀状の添え書きに書いています。元上司が僕に対して見栄を張る必要は全くありませんから、この添え書きは本音と考えてもいいのではないでしょうか。僕にはそう思えます。そして、元上司の本音は多くの「脱サラ組」加盟店主の方々の本音と考えてもいいように思います。このことから想像できるのは、巷で批判されているほど本部は加盟店を虐げていないということです。
 昨年一昨年と、コンビニに関する報道で注目を集めたのは「弁当値引き問題」と「タスポの導入によるコンビニでのタバコ売上げ増大」です。「弁当値引き」の問題については公正取引委員会などの裁定もあり改善されたように思います。また、コンビニでタバコを購入する人が増えたことについて、マスコミなどでは「タスポ導入後1年経ち効果が薄れてきた」と報じています。しかし、1年経ったとしても導入前より売上げが上がったのは変わりありません。つまり収入が増えていることに違いはないのです。
 実は、この一連の報道で明らかになったのはコンビニ加盟店の収入です。正直な感想を述べるなら、平均的なサラリーマンに比べて決して悪い数字ではありません。例えば、タバコの売上げによる収入増は一般の人が考えている以上に多いのが実状です。弁当値引き問題での改善後の利益の増加も同様です。しかし、そのことを声高に話すコンビニ経営者はいません。儲かっていることを声高に話して得することはなにもありません。本音は隠すのが商人の習性です。
 このようにコンビニ加盟店は普通に思われているよりも収入は決して悪くはありませんが、「但し」と注意書きが必要です。それは「立地条件が良好な加盟店」という但し書きです。この前提をクリアできていない加盟店がマスコミを賑わす問題を提起しているのがコンビニ業界の現状であるように思います。
 うまくいっているコンビニオーナーは「儲かっているがゆえに」本音を言いませんし、うまくいっていないオーナーも「儲かっていないがゆえに」本音を言いません。コンビニ情報を得たいと考えている方々は建前と本音を見ぬく眼力が大切です。
 小売業に関心のある方ならご存知でしょうが、昨年はコンビニ加盟店の契約更新で大きな動きがありました。業界で中堅の位置にいる本部の加盟店が続々と大手3社に鞍替えをしたことです。たぶん、この流れは今後一層加速するでしょう。実際、商品やサービスの提供などを見ていますと、大手3社とそれ以外の本部の間には品質において段違いの差が開いているように見えます。コンビニ加盟店を考えている方々はそのあたりを丁寧に調べてから行動に移しましょう。
 ところで…。
 僕のサイトでは、いろいろな本を紹介していますが、それらの中で昨年後半に限っていうなら、最もクリック数が多かったのが「田舎暮らしで殺されない方法」という本です。この結果から、都会に住む人の中で「田舎暮らしを考えている人」がいかに多いかがわかります。ですが、本心から本当に「田舎暮らし」を求めているか、というとそこには疑問があります。つまり、雑誌などに出ている理由は建前のように思っています。「田舎…殺されない…」の著者である丸山氏が指摘しているように、田舎暮らしを考えている人の本音は今一つ違うところにあるように感じています。
 昨年、本のコーナーで「R25の作り方」という本を紹介しました。この本は「R25」というフリーペーパーの編集長が書いた本ですが、そこに面白いことが書いてありました。
 雑誌を創刊するに当たってはリサーチをするらしいのですが、そのときのアンケートの回答には「本音と建前が混在している」と指摘していました。これは、周りからの評価を気にすることによって起きるそうです。つまり、回答するときに「本音」を底上げして「建前」で回答してしまうのでした。
 その「底上げ」回答で、僕が一番印象に残っているのがテレビと新聞に関するアンケートの回答でした。
 20才代の男性は、実際はテレビを見ているにも関わらず「テレビをあまり見ない」と回答し、また実際はほとんど読んでいないにも関わらず「日本経済新聞を読んでいる」と回答していたそうです。なぜかと言えば、先ほどの理由にほかなりません。
 著者がその回答の齟齬に気がついたのは、1日の時間の過ごし方の統計結果を見たときでした。1日は24時間しかありませんから、アンケート結果をつなぎ合わせていきますと必ず辻褄が合わなくなり、自ずと真実が浮かび上がってきます。
 以前、名のある音楽家が話していました。
「楽器には名品と言われる本物があるが、本物の音は透き通っている」。
 本物の音。略して本音です。音は耳で聞くものなのに「透き通っている」という視覚での表現が格好いいですね。でも、この台詞、本音かな?
 じゃ、また。




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