<新人>

pressココロ上




 野田首相がようやっとTPP(環太平洋連携協定)の決断を表明しました。発表を一日伸ばしにしたのは当初からの決まりごとだったような印象は否めませんが、参加大反対だった山田元農水相の対応も同様の印象です。「参加」ではなく「協議に入る」という表現を用いたことに「我々の抗議が受け入れられた」と自画自賛した会見は政治家らしさが表れていました。ここまでの展開を眺めてデキレースと感じた人は多いのではないでしょうか。
 僕が不思議なのは、「昔から」と言っても僕が社会人になった頃からのことですが、自由化が問題になるときに、いつも「大反対の合唱」がマスコミを賑わすことです。1988年のオレンジや牛肉の自由化のときもそうでした。マスコミは心の底から「自由化反対」と思っているのか、疑問です。
 今回のTPP問題において、雑誌などメディアを見渡しますと、多くがやはり「参加のデメリット」を強調する内容で、僕が見た限りでは「日経ビジネス」だけが「メリット」を強調していたように思います。
 実は僕は「賛成派」なのですが、その理由は「参加国とより公平に協議ができる」と思っているからです。そもそも僕の理解では、日本政府がTPP参加を言い出したのはアメリカや他国から誘われたからではなく日本自身の選択だったはずです。理由は、参加したほうが日本の貿易にとって得だと判断したからです。その理由も合理的でした。
 例えば、現在貿易においては二国間協定(FTA)が主流ですが、二国間では話し合いがスムーズに進まないことも多々あります。やはり、お互いが「自分たちに有利な条件を締結しよう」と考えますので当然です。そのときに、両国の力関係が影響するのは考えるまでもありません。どうしても強い国家のほうの条件が有利になりがちです。しかし、TPPのような多国間での協定となりますと、強い国家の主張がまかり通るとは限りません。弱小国家同士が力を合わせて強大国に立ち向かうことも可能です。TPPはそれを可能にする協定です。力のないものが力のあるものに立ち向かうには味方となってくれる仲間の数に頼るのもひとつの方法です。
 では、力のないものが力のあるものに立ち向かう際に「見方となってくれる仲間」がいないときに、どうすれば自分の考えや主張を実現させることができるか?
 答えは、記者会見を開くことです。
 それにしても、清武英利氏の記者会見は唐突でした。一般的には、巨人軍を自分の好きなように動かしている読売新聞の渡辺恒夫会長を快く思っていない人のほうが多いと思います。ですから、清武氏の記者会見の内容を聞いて、ある意味溜飲を下げた人も多いでしょう。渡辺氏を批判的に見ていた人たちが抱いていたイメージを肯定した会見内容だったのですから…。「ほら、やっぱりね」。
 僕は清武氏について、以前このコラムで紹介したことがあります。清武氏は元は読売新聞の記者ですが、まだ新聞社の部長時代に書いた本を偶然読んだことがきっかけでした。その本を読んだ感想を一言で言うなら「この人、正義感の強い人だなぁ」でした。そして、その人が巨人の球団代表になっていたことが印象に残っていたからです。
 僕がそのように思っている清武氏が渡辺氏を批判する記者会見を開いたのですから、僕が「さもありなん」と思ったのは当然です。しかし、そのあとの展開を見ていますと、清武氏の立場は分が悪くなっている感じがします。
 清武氏の味方になると思われた桃井オーナーが清武氏を批判する記者会見を開きました。そして、渡辺氏の反論が公開されますと、清武氏の会見の信憑性がぐらついてきた印象があります。なぜなら、渡辺氏の反論に説得力があったからです。また、清武氏が記者会見を開いた時期にも問題がありました。日本シリーズの前日だったからです。プロ野球全体に悪影響を与えたという批判から逃れることはできません。
 このように、清武氏の内部批判を全体的に俯瞰してみますと、やはり、清武氏がおされ気味です。たぶん、この渡辺氏に対する「巨人私物化批判」はこのまま収束するように思います。僕には、この問題がこれ以上大きくなる要素を見つけることはできません。
 このような出来事を見ますと、僕はいつも元ソ連大統領のゴルバチョフ氏を思い出します。ゴルバチョフ氏は政治家の最高位である書記長に就任するや、それまでのソ連を真っ向から否定する政策を次々に実行しました。そのゴルバチョフ氏を見ていて僕が一番に思ったのは「よくそれまで辛抱していたな」です。もし、ゴルバチョフ氏が清武氏のように最高位に就く前に自分の考えを主張していたなら、書記長になる前に失脚していたでしょう。歴史に「もし」「たら」は禁句ですが、もしゴルバチョフ氏が書記長になっていなかったなら、世界の歴史も現在とは変わっていたのは間違いありません。
 経済誌・日経ビジネスでは先々週まで、伊藤忠商事社長の岡藤 正広氏の経営塾を連載していました。その連載は若いビジネスマンが岡藤氏に質問する形式でしたが、そのひとつに「上司の考えに賛同できない。どうすればいいか?」というものがありました。その答えは、まさにゴルバチョフ氏のとった行動でした。「自分の思い通りになる役職になるまで我慢する」です。
 僕はこれまでにいろいろな仕事を経験してきましたが、それらはどちらかというと「年齢が高い人が応募してくる職場」を選ぶ傾向がありました。例えば、商売を廃業した方や定年を迎えた方や年齢が理由でリストラされた方などが応募する職場です。
 僕は、応募してくる方々にある特徴があることに気づきました。それは、「人から教えられること」に慣れていないことです。もっと具体的に言いますと、上司や先輩に「注意されたり」「間違いを指摘される」ことに反発してしまうことです。僕にはその方々の気持ちがわかります。それまで、「教えたり」「間違いを指摘する」立場にいたので、つい反発してしまうのです。
 もちろん、年齢を重ねた方々ですので、頭ではわかっています。「自分は新人なのだから、一から始めるのだ」と。しかし、悲しいことに、頭ではわかっていても「身体」と「こころ」ではわかっていないのです。人間の習性とは中々直らないのが実際です。ですが、本気でその職場で働く気持ちがあるなら次のことを心の中に刻まなければなりません。
 言い訳はするな。反論はするな。自分の意見は言うな。
 仕事ができない新人が、仮にこの3つ「言い訳」「反論」「自分の意見を言う」を行ったとしても、誰も聞く耳を持ないのは、皆さん、わかりますよねぇ。
 ところで…。
 アップルのスティーブ・ジョブズ氏が亡くなって早1ヶ月以上過ぎましたが、ジョブズ氏の人柄に対しては様々な意見があるようですが、その残した業績を認めない人はいないはずです。しかし、そのジョブズ氏も社内での権力闘争に負け、一度はアップルを追われています。もし、ジョブズ氏がアップルに復帰することがなかったなら、経営者として現在ほどの評価を得ることはなかったでしょう。
 仕事で社会から認められたいなら、それに相応しい地位や立場にいることはとても重要な要因のようです。それにしても、ジョブズ氏が「仕事」で賞賛されるのは生まれたときから決まっていたように思います。だって、なにしろ、名前が「仕事」なんですから。しかも、複数…。
 じゃ、また。




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