<自爆>

pressココロ上




 ニュースを見ていましたら、自爆の特集が放映されていました。自爆といっても爆弾が破裂する自爆テロではありません。自分で売上げを作る「アレ」です。営業関連の仕事している方は経験または周りでやっているのを見聞きしたことが誰しもあるはずです。
 ご存知のない方のために簡単に説明いたしますと、自分で契約をするなり商品を買ったりすることを自爆といいます。自分で契約したり商品を買うことは自分にとっては損なことですが、なぜそんな損なことをするかといえば、自爆をしないと自分の仕事上の立場が悪くなるからです。ときには、上司や会社から強制的に自爆させられることもありますし、自爆を押しつける空気が職場に立ち込めていることもあります。当然のことながら、喜んで自爆する人はいません。そんな理不尽なことがまかり通るのが「大人の世界」です。
 テレビで放映していた例は、生命保険の営業マンの世界でしたが、僕の最初の就職先であるスーパーでも似たようなことが行われていました。
 社会人になって数ヶ月が過ぎた頃のことです。その日は月末で、僕は遅番で最後まで売り場に残っていました。すると、日用雑貨部門の主任が自部門の商品をたくさん抱えてレジに並んでいました。主任は早番でしたので、仕事を終えたあとの行動でした。いつもならとっくに家路についてはるはずですが、その日は自部門の商品をたくさん抱えてレジに並んでいました。僕はずっと主任を見ていました。
 主任は順番が来ると、一般のお客さんと同じようにお金を支払い帰って行きました。僕は主任のうしろ姿を見ながら不思議な気分になっていました。どう考えても、主任が必要な雑貨類とは思えない商品がありましたし、また数量も多すぎるように感じました。主任は40才過ぎでしたが、独身でしたので一人暮らしです。どう考えても、不釣合いな買い物でした。
 主任が帰ったあと、僕はレジが空いていたときを見計らってレジ係りのパートさんに尋ねました。
「あの主任、どうしてあんなに必要そうでもないものをたくさん買ったんですか?」
 パートさんは僕の質問に、目元に笑みを浮かべながら言いました。
「きっと、今月の売上げが悪いからよ」
 パートさんの話によりますと、各売り場の主任が月末に自部門の商品を買い込む姿はよく見かける光景だそうです。理由は単純で、会社から課せられた売上げ目標を達成するためです。自分の目標を達成するために、自分で商品を購入していたのでした。僕が初めて見た仕事現場の責任者という立場の厳しさでした。悲しいかな、それが仕事現場の実態でした。これも自爆のひとつの例です。
 しかし、一般に自爆といえば、やはり生保業界が最も有名です。生保業界の代名詞といっても過言ではありません。
 僕の前の職場の同僚は元外資系生保の営業職でした。僕はそれを知ってから、生保に関する話を振りましたが、正直な感想をいうなら、保険に関する知識はそれほどないように感じました。保険を販売している営業マンが保険の知識を持ち合わせていないことを驚く人もいますが、実は、結構います。これは、決していいことではありませんし、最近は減ってきていますが、商品知識よりも違う面で契約をとっている営業マンは多数存在します。同僚はそういう営業マンだったようでした。
 その同僚の娘さんが病気を患い10日ほど入院したそうです。同僚は周りにそれを話すと、話のついでに保険金をたくさんもらえたことを吹聴していました。
「保険に入っていたから、保険金が60万円くらいでたよ」
 それを聞いたほかの同僚たちは口々に羨ましそうに驚いていましたが、僕は正反対で「自爆」という文字が浮かびました。
 本人は保険金がたくさんもらえたことを自慢げに話していましたが、わずか「10日の入院で60万円ももらえた」のは過った保険のかけかたをしていた証明にしかなりません。元保険営業マンだった人が保険金を多くもらった、と聞いて自爆を連想する営業マンはかなりいるのではないでしょうか。
 「10日で60万円」は裏を返せば無駄な保険に加入していたことです。決して自慢できる保険のかけ方ではありません。もし、入院することがなかったなら、ただただ無駄な保険料を支払う羽目になっていたはずです。単に、運がよかったにすぎません。人間は将来を予測することは誰も不可能です。ですから、保険はシンプルであればあるほどいい保険のかけ方です。まぁ、あまり断定的にいうのもナンですから、敢えて前提条件をつけるなら「僕のようにお金に余裕のない人たちは」です。
 僕のようにお金に余裕のない人たちは、保険はあまりかけずにシンプルシンプルにかけるのがベストです
 ラーメン屋時代のことです。
 ある日の午後、ひとりで仕込みをしていますと、40代半ばの男性が店に入ってきました。入っては来ましたがが、椅子に座るでもなくお客という感じでもありませんでした。僕が「なにか…」と言いますと、急に「お願いします」と頭を下げました。その方は新聞の勧誘員でした。
 最終的には、僕は契約をしたのですが、それは中々帰ってくれそうもなかったからです。男性の話によりますと、契約件数により歩合率が変わるそうでした。もちろん、契約数が多くなればなるほど率が高くなるのですが、その男性は「あと1件とると率が上がるので、1ヶ月だけでも契約してほしい」と懇願してきました。しかも、「購読料も自分が持つ」とお金をテーブルの上に置きました。
 僕としましても、そこまで言われては断りにくくなりましたし、また面倒になったのもありました。購読料もあちら持ちでしたので、僕は了承した次第です。しかし、自爆をしようとも、そのほうが実質の見入りがいいのなら自爆も悪くはありません。しかし、見入りも悪くなるのにも関わらず、そして単に上司の評価を気にしただけの自爆は絶対にしてはいけない行為です。もし、自爆を強制されるような雰囲気の職場ならできるだけ早く退職するのがベストです。そのような会社で働いていいことはほとんどないと肝に銘じましょう。
 テレビ番組では、自爆をさせる企業を批判していましたが、僕は「なにを今さら」という気分になりました。批判をする前に、テレビ局自らが身を正す必要があります。
 皆さんご存知のように、テレビ番組はテレビ局が制作しているケースは稀です。ほとんどが制作会社に丸投げされています。数年前ですが、テレビ局が制作会社に対して下請けイジメをしていることがマスコミを賑わせたことがあります。
 例を上げますと、制作費をギリギリの限度まで低くし、そしてさらにひどいケースではその制作費さえ支払う段階では減額していた例が報じられていました。これなどは自爆よりも惨いやり方です。このような理不尽なことをするテレビ局で働いているキャスターの人はなんの後ろめたさも感じないのでしょうか。僕はそれが不満です。
 競争は必要です。競争こそが技術を進歩させ、経済を発展させる、と僕は思っています。しかし、正々堂々と正しい競争が大前提です。もし、働いている人たちが全員、正々堂々と競争することを実行するなら、間違いなく活力のある社会になるでしょう。
 あなたの会社は大丈夫ですか?
 もちろん、競争に参加しない生き方も認めなくてはいけません。競争することでなく、自分のペースで黙々とコツコツと生きる人もいられるのが、みんなが生きていてよかったと思える社会です。
 ところで…。
 我が家は、晩御飯のときに、その日の面白い出来事を話すのが慣わしですが、先日の娘の話は久しぶりにヒットでした。会社の60代半ばのおじさんのお話です。
 そのおじさん曰く、「60才を越えているのに手をつないでいる夫婦は、旦那がよほどの変わり者か、もしくは旦那に後ろめたいことがあるからだ」
 と話していたと娘が言いました。それを聞いて僕は「なるほど。一理あるな」と感心しました。後日、そのおじさんがまた面白い理論を披露したそうです。
「60才を越えた夫婦は、夫婦ではなく親戚関係になっている」
 その理由がショッています。
「親と子供の関係は血がつながっているから肉親と呼べるけど、夫婦は血がつながっているわけじゃないから、肉親じゃないんだよね。でも、その子供の親だから、だから親戚なんだ」
 確かに、理論的には間違っていませんね…。親戚だと思うと、喧嘩もしなくなるような気がするから不思議です。
 じゃ、また。




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