<鈍するな。>

pressココロ上




 イケメン俳優さんが二股愛をしていた、とかでワイドショーを騒がせていました。涙ながらに謝罪している映像を見ましたが、両方に求婚までしていたのでは非難されても仕方ありません。二股愛をかけられていた女性の方々の怒りも尤もです。
 若い男女ですと、複数の異性を好きになることもあります。「一目惚れ」とという言葉もあるほどですから、誰でもある程度複数の人を好きになることはあるように思います。まぁ、「一目惚れ」はまだ愛の一歩手前の段階といえますし、敢えていうなら恋の範疇に入ります。ですから、複数の人に恋感情を持つのは許されるかもしれません。いえ、許されるでしょう。いえいえ、許されるに決まっています。なにしろ、僕なんか、学生時代は毎日一目惚れしていました。電車に乗っていたとき、道を歩いていたとき、僕の一目惚れの神様はいつでも降臨してきました。自慢にもなりませんが…。
 「一目惚れ」は許されています(たぶん)から、あのイケメン俳優さんも二股恋ならここまでバッシングされることもなかったでしょう。やはり、一番いけないのはプロポーズまでしていたことです。ここまでやっては愛の詐欺師です。もし、日本が一夫多妻制の国であったなら問題はありませんが、日本は一夫一妻です。
 この騒ぎを見ていて僕が不思議なのは、なぜ「両方にプロポーズ」などというすぐにばれることをしたか、です。なにしろ、芸能人ですから結婚したらマスコミで報道されます。そうしますと、当然、結婚しなかった相手も知るところとなりますから、二股愛だったことがすぐにばれます。こんなことは29才の大人であれば誰でもわかろうというものです。
 きっと、このイケメン俳優さんは恋に鈍感になっていたのです。あれだけのイケメンですから、いくらでも恋の相手はいたでしょう。僕が学生時代に毎日「一目惚れ」していたのと逆バージョンです。きっと、多くの若い女性たちが彼に「一目惚れ」していたことは容易に想像がつきます。そんな経験をたくさんしていますと、恋に鈍感になっても不思議ではありません。その鈍感さが恋だけに納まっていればよかったのですが、いつしか愛にまで伸張するようになってしまったのでしょう。どんなことに対しても鈍感になっていいことはなにもありません。
 一般に車の運転で、一番事故を起こしやすいのは免許を取ってから3ヵ月後といわれています。ちょうど運転に慣れてきた頃です。「慣れ」は「鈍感」になることです。「鈍感」は「隙」がたくさんあることです。「隙」だらけの運転で事故を起こさないはずはありません。
 先週の一番悲惨な事件といえば、ツアーバスの事故です。7人もの方が亡くなったことをみますと、いかに大きな事故であったかがわかります。運転者は逮捕されましたが、遺族の方々の気持ちは治まるはずがありません。大切な人を失った悲しみは運転者の逮捕では癒されません。このような自動車事故に接するとき、自動車はひとつ間違うと凶器になることを否が応にも思い知らされます。
 現段階では詳細な事故原因がわかりませんが、運転者が居眠りをしていたのは間違いないようです。居眠り運転と聞きますと、僕は自分のタクシー運転手時代の恐い体験をいつも思い出してしまいます。
 僕の会社は朝5時過ぎに出発して翌朝の4時頃に戻って来る勤務形態でした。つまり24時間勤務でしたが、それはつまり日中働いたあと、そのまま夜そして深夜も働くことを意味します。
 僕はこういう勤務形態は初めてでしたので、やはり夜になりますと眠くなります。あとから先輩たちに聞きますと、夕方頃に軽く寝たりなどして睡魔に負けないような工夫を各人でしていました。しかし、まだ素人でありまた余裕もなかった僕は休憩をとるという発想がなくぶっつづけで働いていました。
 そうしますと、いくら若いとはいえやはり眠くなります。絶対、かなり、眠くなります。それでも無理して運転していますと、なにが起きるか…。
 居眠り運転です。眠らまいとしても、目がウトウトしてきて上瞼が下瞼まで降りてきてしまうのでした。
 あれから30年経ちますが、今でもあのときの光景が思い出せます。
 僕にしては遠距離になるお客様を降ろしたあと東京まで戻る高速道路での運転中です。深夜午前2時頃です。眠気に襲われて仕方ありませんでした。僕は眠らないように自分に考えられるあらゆる方法を実践しました。ラジオの音量を大きくしたり、唄を歌ったり、窓を全開にしたり…。
 しかし、ふと目が覚めると寝ていたのです。運転しながら寝ていました。ほんの数秒だとは思いますが、ハッと気がついたとき、高速道路の壁が目の前に見えた恐怖…。それはそれは恐ろしい体験でした。あのときの目が覚め、一瞬寝ていたことがわかったときの恐ろしさは今でも忘れられません。今、思い返しますと、タクシーの仕事を始めたばかりの頃に事故を起こさずに済んだのは、本当に「運が良かった」としかいえません。
 僕が眠気に襲われながらも事故を起こさなかったのは、「運が良かった」に過ぎませんが、それでも敢えてひとつほかの理由を上げるなら、初心者だったことによる緊張感があったからです。もし、それこそ3ヶ月ほど経ちある程度余裕があるときだったなら、タクシー運転手として鈍感になっており、眠気に負け事故を起こしていた可能性は高かったでしょう。
 今回のバス事故の運転者は初心者というわけではなさそうです。だとしたなら、やはり、どこか慣れからくる鈍感さがあったのではないでしょうか。緊張感があったなら、なにかしらの対策をとっていたように思います。今回の事故を契機にツアーバスの運転者に注目が集まっていますが、そのことが各運転者の緊張感につながることを願っています。
 また、今回の事故はツアーバス運転手の労働環境の劣悪さにも注目が集まっています。その原因を遡るなら、それはツアー価格の低料金にまでたどり着きます。低価格を実現したしわ寄せが運転者の労働環境の悪化につながったといっても過言ではありません。
 こうした状況を考えるとき、私たち消費者も商品やサービスを低価格で利用することに鈍感になっているのかもしれません。そうした消費者の感覚が今回の惨劇の背景にあるように思います。くり返しになりますが、どんなことに対しても鈍感になっていいことはなにもありません。
 皆さん、鈍感に敏感になりましょう。
 ところで…。
 先日、高校時代の友だちから久しぶりに電話があり、友だちが離婚したことを知りました。いわゆる熟年離婚です。巷で熟年離婚は聞きますが、実際に知り合いが離婚したと聞きますとやはり驚きます。
 結婚して30年も経ったのに、離婚するのですから余程なにか深刻な理由があるに違いありません。以前、新聞の人生相談コーナーで熟年離婚に関する相談が載っていました。
 相談者は女性の方でしたが、その文面から、この女性が感情に流されるのではなく夫婦関係を冷静に分析しているのがわかりました。相手を非難するばかりでなく、ご自分の非についても書いていたからです。
 一言でいうならば、この女性は「しっかり者」ですが、僕は同時に「鋭い感性」の持ち主のようにも感じました。僕にはそれが離婚を考える一番の理由のように思えたのですね。もし、僕や妻のようであったなら離婚など考えないように思います。
 敏感すぎるのも、また問題ですね。…人生は一筋縄ではいきません。
 じゃ、また。




シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする