<セール>

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 先月、「へぇ~」と最も驚いたのは「テレビ朝日が4冠王達成」のニュースです。4月限定ではありますが、僕のような50代半ばの世代からしますと、「テレビ朝日が視聴率でトップを取る」ことなど想像もできないことです。
 僕は、今でこそテレビ嫌いになっていますが、子供の頃はテレビっ子でした。夏休みは朝から猿飛佐助の漫画に釘付けになり、最低でも午前中2時間はテレビを見ていました。小学生当時、夏休みに合わせて朝から漫画を放送していたのはテレビ朝日だけだったような記憶があります。
 このように書きながら、実は「テレビ朝日」という呼び方が今ひとつピンときていません。僕にとってはやはり「10チャンネル」のほうがシックリときます。理由なんかありませんが、「10チャンネル」という呼び方のほうが「10チャンネル」に相応しいような感じがするのは僕だけではありますまい。
 では、「“10チャンネル”がかもし出す雰囲気はなにか」といえば、それは「暗い」です。僕には、「10チャンネル=暗い」というイメージが刻み込まれています。そもそも局のスタート時は教育番組専門局だったそうですから、僕に刻み込まれていたイメージもあながち的外れではないように思います。
 ついでということでにいいますと、そのほかに「暗い」といってすぐに思い浮かぶのがミュージックフェアでの「塩野義製薬」のCMです。俳優・仲代達矢氏が諭すように語りかけるナレーションは、CMを一段と暗くしていました。気持ちを落ち込ませたCMはあとにも先にもあのCMだけでした。
 10チャンネルの番組で真っ先に思い浮かぶのは、なんと言っても「徹子の部屋」です。今のように、10チャンネルがある程度世間から認知される前から、唯一世間に認知されていた10チャンネルの番組といってもいいでしょう。
 徹子の部屋で僕が思い出すのは、生でやっていた宅急便のCMです。これも暗かった…。ちょうど、ヤマト運輸が宅急便を始めたばかりの頃で、確か、「玄関から玄関」がキャッチコピーだったように思います。その頃、僕は大学生になったばかりで、青春を謳歌していたときです。そんなときに、この暗~いCMはとても印象的でした。
 資本主義の世界では、CMは企業の業績や商品の売上げに大きな影響を与えます。CMを広く言いますと広告ですが、その広告の中でとりわけ重要な役割を果たすのはキャッチコピーです。言いすぎを覚悟でいうなら、キャッチコピーの優劣がそのまま商品の価値を決めるともいえます。そのコピーが注目されだしたのは僕が学生時代です。
 少し前、これまでで一番インパクトのあるキャッチコピーのランキングが発表されていました。その1位に輝いたのが、現在は月刊イトイ新聞を主宰している糸井重里氏が創った「おいしい生活」というコピーです。
 ご存知の方も多いと思いますが、糸井氏はコピーライターの草分け的存在でした。コピーライターという職業が生まれたのもこの時代です。今は、ベストセラー作家として活躍している林真理子氏は糸井氏の弟子といえる方です。
 「おいしい生活」は西武百貨店のコピーでしたが、そうしたコピーを受け入れた経営者である堤清二氏の慧眼も賞賛されるべきです。コピーライターがどんなに素晴らしいコピーを書こうが、それを企業が採用しなければなんの意味もありません。
 この頃の堤氏には勢いがありました。僕は、ずっと以前、このコラムで堤氏を評価する内容のブログを書いたことがあります。僕が堤氏に感動したのは、経営者としての後始末の責任の取り方が潔かったからです。第一線を退いていたにも関わらず、西武百貨店が債務超過に陥った際、創業者の責任として私財を拠出しました。いくら大金持ちとはいえ、億を越える金額を支払うのは簡単にできるものではないはずです。同じ百貨店の経営者であり、そして同じように晩年業績が落ち込んだある大手の経営者は、堤氏とは正反対に自分の個人資産を家族名義に変更するという卑怯な対応をとりました。大金持ちでもこうしたせこい経営者がいるのを考えますと、堤氏の潔さが際立つというものです。
 話は少し逸れます。
 先月、最近ではほとんど利用しなくなったスーパーに久しぶりに行きました。そこで、飲食業の厳しさを痛感しました。
 そのスーパーの入り口には大手チェーンのたこ焼き屋さんがあったのですが、そのお店が閉店していました。このチェーンは一時は頻繁にマスコミに取り上げられ、ブームとなった感さえありました。それほどのチェーン店が、立地環境的にもそれほど悪くない場所でありながら閉店に追い込まれるのですから、たこ焼き屋さんの難しさがわかろうというものです。
 しかし、自宅から車で10分ほどかかるスーパーでは、今年の初めに同じチェーン店が開業しました。間違いなく、ブームになっていた頃のパワーはなくなっています。率直な感想を言うなら、僕には、そのようなチェーンが新たに出店していることが不思議でした。開店時もそれほど混みあっている感じはありませんでした。開店から3ヶ月以上経ちますが、最近ではさらにお客様が減っているように感じます。僕の予想では、新しく開店したお店も将来的には厳しいと思っています。ブームが去ったあとほど大きな虚しさを感じる店舗はありません。ブームといわれるようになったときは、既にピークは越えている、と思って間違いありません。
 話を戻します。
 先ほど、業績が落ち込んだ百貨店のお話を書きましたが、その百貨店に関する最近のニュースに興味深いものがありました。三越伊勢丹など一部の企業が「夏物セール」の開始時期を「後ろ倒しにする」という内容でした。
 このニュースの概要を紹介します。
 一般に「セール」といいますと、通常価格より割引して販売することをいいます。そして、「割引」は本来、通常価格で販売する期間が過ぎてから行うものです。理由は簡単で、通常価格で販売する期間がなければ利益を確保できないからです。もちろん、理想の形は通常価格で完売することです。しかし、完売できないのが普通ですから、残りをセールで割引販売します。ですから、通常価格で販売する期間が長ければ長いほど企業にとっては理想的な形です。
 このように、できるだけセールの開始時期をあとにずらすのが理想ですが、世の中は簡単ではありません。ライバル企業との競争などがありますから、セールを開始するタイミングはとても重要です。タイミングを逸すると売れ残りが発生することもあり得ます。
 企業は、そうした事態を避けるために徐々にセール開始するタイミングを早め早めにするようになっていました。こうした事態が常態化し、いつの間にか7月初旬から夏物セールを開始するようになっていました。つまり夏が始まってすぐにセールを開始することを意味します。
 こうした状況は百貨店業界に限らず、ファストファッション業界やスーパー業界などほかの小売業流通業にも及んでいました。先ほども書きましたように、こうした状況の一番のデメリットは利益が確保できないことです。自分で自分の首を絞めていることになります。こうした状況を改善すべく動いたのが今回の三越伊勢丹など一部の企業の英断でした。
 しかし、実は、僕はこうした動きに懐疑的です。確かに、セールの開始時期を後ろ倒しにするのはメーカーや小売業にとって理想の形ですが、この英断は裏を返せば、「販売する側が購入する側をコントロールしよう」とするものです。ですが、過去に「販売する側の都合で決定した販売策」が成功したためしはありません。
 テレビ朝日が「4冠」を達成できたのも、一重に視聴者の気持ちを汲んだからにほかなりません。どんな業界でも、消費者・需要者に選ばれた企業だけが勝ち残ります。
 ところで…。
 サッカーW杯予選の試合を見ていますと、日本のサッカーが昔と比べて間違いなくレベルアップしているのを実感します。それに比べて、男子バレーボールチームの「今ひとつ感」は拭いきれません。
 僕は、バレーの試合を見ていて思います。日本チームがサーブを思いっきり打つのは、それなりに理解できます。やはり、試合を決めるのはサーブにかかっていると言っても過言ではないからです。ですから、「イチかバチか」のつもりで打っているのかもしれません。ですが、あの成功率からしますと、僕には「イチかバチか」というよりは「バチかバチか」のように思えて仕方ありません。
 じゃ、また。




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