<チルドレン>

pressココロ上




 消費税増税案が衆議院を可決しましたが、それに伴い民主党内での小沢グループの動きが注目を集めています。一国民からしますと、与党と野党が合意に達していて与党内の一部グループが反対に回っている現在の構図はどう考えても不可解です。かつてマスコミは政権再編を「ガラガラポン」と表現していましたが、現在、まさに「ガラガラポン」が相応しい政界地図になっているように感じます。
 今回の動きで民主党内の各議員の動向が細かく報じられていますが、その中で僕の目を引いたのは福田衣里子氏でした。福田氏は薬害肝炎訴訟での原告になったのがきっかけで政治家になった方ですが、これまでの印象は小沢チルドレンのひとりといった感じでした。
 僕はこの「チルドレン」という表現が好きではありません。なんとなく「被支配者」というニュアンスが感じられるからです。もう少し柔らかい表現をするなら「取り巻き」でしょうか。いずれにしてもマイナスイメージであることには変わりありません。
 小泉首相が在任中も「小泉チルドレン」という言い方がされていましたが、「小沢チルドレン」ほどマイナスイメージはありませんでした。その理由は、小泉氏自身が「取り巻き」を作ることが嫌いで、一匹オオカミ的な存在だったことによるものと思います。なにしろ、派閥を率いずに、言い方を変えるなら派閥の領袖にならずに総理大臣にまでなったのですから政治家として稀有な存在です。
 僕には「小沢チルドレン」はマイナスイメージですが、この「チルドレン」という表現はマスコミが新人議員を揶揄する意図で使い始めたと記憶しています。つまり、マスコミもいい意味で使ったわけではないように思います。
 僕は福田氏を「小沢チルドレン」のひとりと思っていました。出馬するときに小沢氏が同席した記者会見が記憶に残っていたからです。しかし、今回の消費税に関する対応においては小沢氏と一線を画す動きをとりました。採決に際して態度を表明する記者会見に出席している映像を見ましたが、自立した女性の感じがして、僕的には福田氏の行動は好感でした。
 基本的に僕は群れる人があまり好きではありません。ましてや、誰かの配下の立ち位置にいることを喜んでいる人には嫌悪感さえあります。そこには自立が感じられないからです。子供ならまだしも大人でありながら、誰かに指図されたとおりに動くのは本来あるべき大人の姿ではありません。大人は誰からも指示されず自分の意志で行動すべきです。
 究極の「配下」を例にあげるなら、先頃最後の指名手配人が逮捕されたオウム真理教の信者たちです。人殺しさえも行ってしまうほどマインドコントロールされた人間ほど悲しい配下はいません。
 もちろん配下と会社員はイコールではありません。会社員であろうとも、自立している人はたくさんいます。会社員だからといって会社に魂まで売り渡す必要もありません。会社と従業員の関係は従属ではなく対等です。もし、従業員に従属を求める会社であるなら、そんな会社には勤めるべきではありません。そんな会社で幸せな会社員人生を送れるはずはありません。
 自立しているからと言って、誰とも組まないというのもいただけません。「組む」に相応しい人であるなら、コンビを組むのもいいですし、複数なら派閥を形成するのもよいでしょう。派閥というと胡散臭いイメージがありますから、チームと言い換えてもいいです。言い方はともかく、信頼できる人たちと皆で「組」を作るのも悪いことではありません。あっっと、「組」というと暴力団を連想させてしまいますか…。とにかく、ひとりでやるより複数でやったほうが大きな成果が得られるのは間違いありません。
 柔道の金メダリスト野村忠宏選手をご存知の方は多いでしょう。野村選手はオリンピックで3連覇の偉業を成し遂げていますが、僕が一番印象に残っているのはシドニーオリンピックのときです。
 このシドニーオリンピックでは、柔道100kg超級で篠原信一選手が銀メダルを獲得しています。今の若い人には男子柔道日本代表チームの監督といったほうがわかりやすかもしれません。それよりも、柔道大会で扇子を扇ぎながら大きな声を張り上げている顔の長い大柄な男性といったほうがわかりやすいかもしれません。そうです。ちょっと変わった監督です。
 シドニー大会で篠原選手は銀メダルを獲得しましたが、実は決勝戦の判定に対して日本では「誤審」の声が大きく上がりました。当然、篠原選手自身も不可思議な判定での銀メダルでしたので諸手を挙げて喜んでいたわけではありませんでした。そのような状況の中、テレビでのインタビューがありましたが、その途中で野村選手がインタビューに参加してきました。
 その席で野村選手はこう言ったのです。
「篠原組の野村で~す」
 ね、いいでしょ。このノリでこのコメント。
 たったのこの言葉だけで、野村選手の篠原選手に対する信頼感や愛着感が伝わってきます。もちろん、ふたりは同じ大学の先輩後輩の関係ですから親しいのは当たり前です。しかし、それを割り引いても野村選手の篠原氏に対する尊敬の気持ちが強く感じられます。尊敬の念がなければ、わざわざ「組員」などにはなりません。
 体育会系の世界では上下関係は一般の社会より厳しい規律があるのが普通です。ですから、その関係は「配下」に相応しい上下関係ともいえます。ですが、篠原選手と野村選手の関係には「配下」というよりも親密のほうが似合っています。僕には理想的な上下関係のように感じられました。
 自分が自立していて、そして信頼感のある人たちとなら派閥を作ろうがチームを組もうが問題ではありません。「問題」どころか理想の姿です。しかし、それは個人個人が自立していることが大前提です。それなくして派閥やチームはあり得ません。「チルドレン」には「自立」が不足しています。僕が「小沢チルドレン」にマイナスイメージを抱く大きな要因はここにあります。
 政界が揺れ動いていますが、チルドレンと言われる方々が、親分に従順するのではなく、自分自身の頭で考え、自分の足で動くことを期待したいと思います。
 ところで…。
 野村證券の増資インサイダー問題を発端に、証券会社内の増資に関する情報漏洩の実態が明るみになっています。幹部の処分が報じられていますが、僕には上辺だけの反省にしか映りません。
 中年以上の方は覚えているでしょうが、90年頃も証券会社は同じような不祥事で社会から糾弾されました。その不祥事を教訓にし、健全な証券会社を目指していたはずですが、実態はなにも変わっていなかったことになります。つまり、反省していなかったことの証です。
 こうしたことは証券会社に限りません。損保会社や生保会社も同様に保険金未払いなど不祥事を重ねています。残念なことに銀行も投資信託の販売などで批判されています。こうしてみますと、金融業界全てにおいて問題が起きていることになります。問題とは一口で言うなら、「モラルの欠如」です。
 識者であるなら、ここは「モラルの欠如」ではなく「コンプライアンスの欠如」と表現するとこでしょう。しかし、敢えて「モラル」としたいと思います。法律だけでは世の中から悪はなくならない、と思えるからです。倫理観のないビジネスが幸せな社会を作れるはずがありません。
 お金儲けは大切です。とても大切です。そのときに忘れてならないのはお金儲けの「方法」です。泥棒や強盗をしてお金を得ることは、誰でも「悪いこと」とわかります。本当はそれと同じで、インサイダー情報を得てお金を得ることも「悪いこと」です。しかし、「インサイダー情報を得ること」と「泥棒」が同じである、と考えるのは簡単ではありません。本当は「同じ」ですが、金融機関に勤めていますと、その感覚に鈍感になります。今回の証券会社の不祥事はこの感覚の欠如が根底にあるように思います。そして、残念なことに、それは長年受け継がれていたようです。
 倫理観に鈍感にならないためには、証券会社で働いている人たち各人が自立する以外に方法はありません。
 じゃ、また。




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