<一筋>

pressココロ上




 電機メーカーのシャープの危機が今月半ばから一気に報じられた感が僕にはあります。しかも、その危機の報道のされ方が僕には前に見た光景と重なって見えました。それは、同じく電機メーカー・三洋電機が危機に陥ったときの光景です。さらに、似ている点があります。中国企業の出資が絡んでいることです。
 冒頭で唐突ですが、話がそれます。
 「前に見た光景」と書きましたが、実は最初は「既視感」と書きました。ですが、僕が思っている意味合いと「既視感」の本当の意味が違うような気がしましたので、調べてみました。
 するとどうでしょう。やはり、僕の想像したとおりで、「既視感」とは「現実には見ていないのに、見たような錯覚」を指すのでした。「デジャブ」ともいうそうですが、「現実には見ていない」というところが大きな違いでした。…ちょっと気になったもので調べたのですが、皆さんの雑学になれば幸いです。
 では、話を戻します。
 僕の記憶では、三洋電機の危機が報道されたときも中国の海爾集団公司(ハイアール)という企業との提携か出資かは定かではありませんが、関係がとりざたされていたように思います。今回のシャープも台湾の鴻海(ホンハイ)という企業の出資の金額が焦点になっています。偶然とは思いながら必然の感じがしないでもなく、日本の電機メーカーの凋落と中国企業の躍進の対比を見せつけられる思いです。
 シャープと聞いて、僕が一番印象に残っているのは「目のつけどころが、シャープでしょ」というCMです。どこかとぼけた雰囲気が持ち味の橋爪功さんが出演していたCMですが、このキャッチコピーは、当時のシャープの好調さを物語っているようにも思えます。他社とは一味も二味も違う商品を開発していた自負が感じられます。
 シャープの創業者は早川徳次氏と言いますが、僕が経営者の伝記物を読むようになった最初の頃の人物でした。当時は財界人のこともほとんど知りませんでしたから、自ずと有名な立志伝中の人物の伝記物ばかりを読んでいた記憶があります。因みに、三洋電機の創業者である井植歳男氏の本も同じ頃に読みました。
 シャープの報道に僕が敏感なのは、前社長の町田勝彦氏の言葉を体験談テキストで引用しているからです。
「商売は10年やったら3年は損する。5年はトントンで、儲かるのは2年。事業なんてそんなもんや」
 当時、ラーメン店を営んでいた僕にはとても心に響く名言でした。僕はこの言葉によって町田氏に心酔したのですが、いろいろ調べていきますと、氏はこの言葉のほかにもたくさんの名言を残していました。町田氏は言葉の魔術師ともいえる経営者です。例えていえば、経営界のイビチャ・オシム氏といったところでしょうか。
 このように経営の厳しさを熟知していた町田氏ですので、社長を退き会長になっていたとはいえ、この危機を傍観していたはずがありません。それだけに、今回のシャープの危機には驚いています。
 先に、シャープの自負を感じさせるCMを紹介しましたが、ほかにも印象に残っているCMがあります。吉永小百合さんが亀山工場について語っていたCMですが、最新鋭の液晶テレビの一貫生産工場として注目を集めていました。「亀山工場で生産している」ことがウリのひとつにさえなっていました。昔のことではありません。わずか4~5年前までは経営危機など微塵も感じさせず「液晶テレビといえばシャープ」といわれるほど業界の先頭を走っていました。それが、今は亀山工場が重荷にさえなっているような状況です。時代の変遷を思わずにはいられません。
 どんなに好調に見える企業でも、あることがきっかけだったり、ある時期を迎えたりして簡単に危機に陥るのが経営です。それほど一寸先は闇な経営の世界ですが、その世界で好調を維持し続けている企業が先週の日経ビジネスで紹介されていました。サイゼリヤです。
 僕は自分が飲食業を営んでいましたので、イタリアンレストランチェーン・サイゼリヤにはいつも関心を持っていました。少しでも報道されると必ずチェックをしますし、このコラムでもなん度が取り上げています。
 僕がサイゼリヤに興味を持ったのは、今から十年以上前ですが、新進企業を紹介するテレビ番組を見たことがきっかけでした。まず、創業者の正垣氏の学歴が東京理科大卒というのがいい意味で違和感がありましたし、しかも在学中に起業していたのも驚かされました。その番組では、正垣氏が撤退するほかのチェーン店を次々に買い取っていき、自社用に店舗を変えていく様子を放映していました。それほど、店舗展開に勢いがあったことを物語っています。それからずっと成長し続けているのですから、賞賛以外の言葉が見つかりません。
 このときの正垣氏の言葉で特に印象に残っているのは、「システムを作る重要性」です。普通の経営者は、特に飲食業では従業員に根性と努力を求めますが、正垣氏は単にそうしたことは求めません。利益を出すには効率的に作業することが大切ですが、そのためのシステムを改善することをいつも考えているようでした。
 その姿勢は先のインタビューでも変わっておらず、今でも改善は常に行われているようで、例えば清掃のやり方などちょっとした工夫で作業効率を上げた例を紹介していました。同じ理由で、自社で野菜なども生産していますが、農家の方に対しても単に納品価格の低下を求めるのではなく、一緒になって効率を高めることでお互いが利益を出すシステムを考えているようで、とてもいい印象を持ちました。…少し褒めすぎでしょうか。
 飲食業界には正垣氏のほかにも成功している起業家がいますが、そうした人に比べても僕の中では好きな尊敬する経営者の上位にランクしています。一番の理由は、サイゼリヤ一筋だからです。正確にはほかの業態も展開はしていますが、それも全く異業種というわけではなく、今までの経験を活かせる可能性のある業態です。もちろん、飲食業である点は変わりありません。
 それに対して、飲食業で成功した経営者の中には、ほかの業界に進出する人もいます。ある経営者は学校経営に乗り出したり、果ては政治家にまでなろうとしていました。しかし、東証1部に上場し、大企業の仲間になれたとはいえ、飲食業の経営に終わりはないはずです。経営に完遂はあり得ません。倒産するとは思えなかった大企業が倒産する時代です。経営に完遂があるなら大企業が倒産するはずはありません。そんな中で未経験の業種へ進出することは「安易な発想」と誹りを受けても仕方ありません。
 企業の多角化は経営者が魅力を感じるもののようです。自分の経営方法がどの業界でも通用することを証明したくなる誘惑の駆られるのが経営者の宿命です。
 過去の例を上げますと、旭化成・宮崎輝氏のダボハゼ経営やカネボウ・伊藤淳二氏が確立したペンタゴン経営などが有名です。ですが、これらはどれも最終的には失敗に終わっています。企業全体からみて重荷になっていたのが実態でした。今でも唯一残っているのは日本航空を再建したことで名を馳せた稲盛和夫氏のアメーバ経営でしょうか。しかし、今の状態も長い歴史から見れば単なる一時期の業績に過ぎない可能性もあります。結果はまだ出ていない、というのが本当のところのように思います。
 こうした過去の例をみますと、やはりひとつの業種に一生懸命励むのが経営者の本来の姿だと思わずにはいられません。その点において正垣氏はまさに経営者の王道を歩んでいる、と僕には思えるのです。甘みな誘惑を抑えるのも経営能力のひとつではないでしょうか。
 ところで…。
 先の日経ビジネスには森元首相のインタビューが載っていました。先月、森氏は引退を表明しましたが、引き際の潔さは好印象です。また、森氏は議員の世襲制にも苦言を呈していましたが、これはちょっと意外でした。
 インタビューの中で僕が一番印象に残っているのは、小沢氏に対する森氏の評価でした。一言でいうなら、「嫌い」です。その理由をまた一言でいうなら、「保身」でした。森氏は小沢氏を「自らの保身のために政治をやっている」と感じているようでした。こうした評価は、実は、僕が小沢氏に対して持っていたイメージとほぼ同じでした。僕、少しうれしかったです。
 森氏といえば、やはり「神の国発言」のように失言が多い印象で、それも首相を辞任しなければならなくなった理由のひとつだと思います。森氏はインタビューで、「そうした印象を持たれたのは、すべからくマスコミの責任」と話していました。確かに、講演などでの話の一部を大きく取り上げて、本来の意図とは違うイメージをマスコミが作った感はあります。その点において、森氏はマスコミを批判しているのですが、僕はちょっと違う感じを持っています。
 マスコミの影響力で、政治家のイメージが作られることは確かにあるでしょう。ですが、僕は小泉首相を思い出します。小泉首相で一番傑作だったのは、国会で当時の民主党岡田代表に「非戦闘地域を質問されて」、
「私に今、どこが戦闘地域でどこが非戦闘地域か聞かれても、分かるはずがない」
「自衛隊が活動している地域が非戦闘地域だ」
 開き直りともとれる発言ですが、このような発言をしてもマスコミが森氏に対するような対応をとらなかった事実は、とても重いものがあります。その差がわずか1年で退任せざるを得なくなった森氏と、結局、1,980日という歴代3位の在任期間を得た小泉氏との違いだと思います。本物は一筋です。
 じゃ、また。




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