<立場>

pressココロ上




 僕は数ある経済誌の中でも日経ビジネスと週刊ダイヤモンドを好んで読んでいます。理由は、日経ビジネスには、今はなくなってしまいましたが、「敗軍の将」が面白かったからであり、「有訓無訓」に得心していたからです。そして、週刊ダイヤモンドには山崎元氏の経済コラムが勉強になり、「ベストセラー通りすがり」の林操氏の書評が参考になっていたからです。
 その週刊ダイヤモンドにおいて、僕の好きなこの2つの記事が先々週で終了してしまいました。どちらも10年くらい連載が続いていたそうですから、両氏とも感慨深い思いがあるでしょうし、僕にしましても残念でなりません。
 諸行無常とはいいますが、いつの世も変化をするのが常です。
 それから数日経ち、新聞の朝刊に週刊ダイヤモンドの創刊100周年の広告が載りました。その広告を見て僕の好きな記事が終了した理由がわかりました。100周年を機に内容を一新する目的があったようです。
 僕が週刊ダイヤモンドを読むようになったのは、はっきりとは記憶はしていませんが、今から10数年前でしょうか。ラーメン店のフランチャイズに関する記事を目にしたのがきっかけでした。
 当時は、まだフランチャイズチェーンのシステムがあまり知られていない時代でした。ですから、フランチャイズチェーンに関する記事が載ることはあまりありませんでした。そうした時期に、フランチャイズチェーンの問題点を指摘していた記事が印象に残り、それ以来読むようになりました。
 山崎氏のコラムに興味を持ったのも同じような経緯でした。僕自身が保険分野の商品から金融商品に関する知識が増えつつあった時期で、その問題点も少しずつ理解しはじめていたときです。ダイヤモンド誌上で、金融商品に対して批判的な記事を書いていた山崎氏のコラムが目に止まりました。
 実は、僕は、最初は山崎氏に対して好意的な印象は持っていませんでした。理由は、山崎氏がマスコミに対してウリにしていた特徴が「転職回数の多さ」だったからです。その当時の時点で既に転職回数が7回になっていて、その経歴から若い人に転職について啓蒙していたように思います。
 ですが、僕からしますと、山崎氏の東大卒という経歴では、「転職回数が多いことが若い人の参考にはならない」と思っていました。普通の人が転職をするのは並大抵のことではありません。東大卒で超一流の企業を転々としている山崎氏と普通の人では条件が違いすぎます。間違っても、普通の人が山崎氏と同じような転職はできません。
 転職業界の企業は、転職する人が多いほうが売上げ増につながりますので勧める傾向があります。ときには煽ることさえあります。光の部分だけを強調し、影の部分はあまり触れない傾向が転職業界にはあります。
 しかし、収入の面だけに限りますと、転職をして収入が増えた人の割合は減った人よりも少ないのが実態です。収入が増えた人は、いわゆる転職における勝ち組になりますが、その勝ち組はほとんどが高学歴のケースに集中しています。
 つまり、高学歴の人でないなら、長い目で見たときは転職はしないほうがよい結果になっています。しかし、転職は収入だけが理由でするのではありません。ほかの理由があることも多々あります。人間関係もあるでしょうし、やりがいの有無も理由になります。そうしたいろいろな要因が混ぜ合わさって転職は決断されます。転職を安易な気持ちで、実行に移している人はほとんどいません。
 実際問題として、普通の人が頻繁に転職を繰り返す行為はマイナスのスパイラルに陥る確率が高くなります。
 それほど簡単ではない転職を7回も繰り返している山崎氏はやはり特別な才覚の持ち主ということになります。ですから、それだけの才覚のある人が、若い人に転職を勧めることに違和感を持っていました。しかも、あたかも凡人であるかのような鎧を纏って、転職について語っている姿勢にあまりいい印象を持っていませんでした。
 しかし、書いてある経済記事はわかりやすく、なんといっても消費者の立場に立っての金融商品の注意する点や問題点の記事を読むうちに、少しずつ信頼感を持つようになりました。そして、いつしか好感を持つようになった次第です。
 その山崎氏の記事が終了してしまうのはとても残念です。
 僕が今、読んでいる本は「敗れざるサラリーマンたち」という本です。この本には7人のサラリーマンの転職の事情が書いてあります。サラリーマンが転職に至る背景や理由はまさに一様ではありません。それぞれの境遇があり人生観があるようでした。
 その中で、僕が特に興味を持ったのは転職先としてユニクロを選んだ人の体験記でした。しかし、僕が目を引いたのは転職をした当人ではなく、その人を面接した玉塚氏についてでした。
 ブログに限るなら、僕のサイトを訪問する人のキーワードの上位に入ってくるのは、「玉塚氏」です。玉塚氏と聞いてピンとくる方はビジネス関係の本に明るい人です。元ユニクロの社長で、数年後に創業者の柳井氏に解任され、投資ファンドを設立したのちに、今はコンビニチェーンのローソンの副社長を務めています。
 その本の中では、玉塚氏は社長として登場しています。社長という役職で、ユニクロに途中入社してきた社員に個人面接をしています。
 玉塚氏は、店長を目指している社員に質問します。
「君は、将来なにがやりたいのか?」
 そこには部下の将来と企業の成長を同時進行させるための、上司としての暖かい眼差しがありました。しかし、その1年後に、玉塚氏自身が転職する側になっていました。人生は摩訶不思議です。その時点で、いったい誰が社長を解任されると思っていたでしょう。
 人間の立場はなにかをきっかけに簡単に変わります。ついこの前まで社長だった人が、なにかの不祥事で数日後には自己破産していることもあります。
 そのようなとき、社長であったときの発言と、自己破産したあとの発言では、同じ発言だったとしても、不思議と発言の重みが変わって聞こえます。
 日本維新の会の共同代表である橋下氏が、従軍慰安婦の歴史認識において物議を醸す発言を繰り返しています。橋下氏の発言に対して、韓国や中国ばかりか米国からも反発が出ています。僕は、橋下氏の主張には賛成ですが、橋下氏の社会的立場からしますと適当ではない、と思っています。
 例えば、サラリーマンが仕事帰りに居酒屋で、会社の方針や上司の悪口を愚痴としてしゃべるのはなんの問題もありません。どんな内容であろうとも不問に付すのが大人の社会人として相応しい対応です。
 ですが、同じ内容の話を、仕事の席上で話すのは適当ではありません。常識を欠いています。人は、仕事上の自分とプライベート上の自分を使い分けています。意識するとしないとに関わらず、誰でも使い分けています。そうやって、人は社会を生きています。そうした生き方は、考え方の違ういろいろな人が摩擦を起こさないように生きる術です。摩擦を起こさない術は、社会が平和であるために必要な作法です。
 その点において、橋下氏の公人としての発言は適当ではありません。大切なのは、今の立場のときに、そのことに気づくことです。人の立場は簡単に変わります。
 …と僕は思います。
 じゃ、また。




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