<目利き>

pressココロ上




 4月に僕が救急車で病院に運ばれた顛末はこのコラムで紹介しましたが、まだ治療は終わっていません。まだ、病気の確定ができていませんので、薬の服用はもちろんですが、今月も検査をしています。時間とお金を使うことに、正直な気持ちとしては疎ましい気分になっています。
 疎ましく感じる根底にあるのは「信頼性」に疑問符がついているからです。今、ベストセラーを連発している著者に近藤誠氏という大学病院の医師がいます。僕のサイトの本コーナーでも幾度か紹介していますので覚えていらっしゃる方も多いでしょう。その方の本を読んでいますと、医師の説明をどこまで信頼してよいのか迷ってしまいます。
 僕の母は80才を越えていますが、身体のあちこちが痛いと言いながらも健康で元気に暮らしています。その母は今から5~6年前、近くの病院で乳がんの疑いを告げられました。そして、大きな病院を紹介され精密検査を受けました。残念ながら、その結果も乳がんと診断をされ、手術で摘出することを勧められました。しかも、乳房の全摘出が必要との宣告でした。
 いくら70才を越えているとはいえ、やはり乳房の全摘出は逡巡します。どうしたものかと悩んでいたところ、娘の知り合いに病院関係者がおり、その方から乳がんの専門病院を教えてもらいました。
 少し遠方ですが、母はすぐにその病院に行き、精密検査を受け診断を仰ぎました。結果的に、セカンドオピニオンを聞いたことになります。
 母は正直に、前の病院で乳がんと診断されたことや乳房の全摘出を勧められていることを話したそうです。そうした経緯を踏まえたうえで、その病院が下した診断は、乳房の全摘出ではなく、一部を切除するだけの手術でした。
 結局母は、その病院の処置で完治することができました。今でも数ヶ月に1度の割合で通院しているようですが、体調は安定しています。
 癌の症状にも初期のものと発達したものでは、医療側の対応も変わってきて当然です。ある程度以上発達した後期の癌であるなら、乳房の全摘出も必要だったでしょう。しかし、少なくとも、母の場合は全摘出する必要性はなかったことになります。つまり、2つめの病院の「乳房の全摘出」という判断は正しくなかったことになります。
 しかも、母からあとになって聞いた話では、専門病院の医師は検査結果を見ながら
「これ、癌かなぁ…」
とつぶやいていたそうです。母は最初の2つの病院が裏で通じていたことさえ疑っています。
 母のこうした体験を見聞きしていることも影響していますし、近藤先生の本なども読んでいますので、僕はどうしても「医師の診断が全て正しいとは思えない」気持ちになりがちです。
 先週も僕は検査を3つも受けました。結構、金額の張る検査で出費も悩ましい問題です。それはともかく、詳しくはわかりませんが、心臓の動きや調子を調べる検査のようです。まだ結果は出ていませんが、その結果をどのように捉え、どのように診断するかは医師に全て任せることになります。しかし、その診断や対処が正しいのかどうか僕には判断できません。僕は、そのことに歯がゆさを感じずにはいられません。来月、検査の結果を元に診察を受けるのですが、今から心配感がもたげています。
 実は、僕は10年くらい前、体調が悪くなりやはり今回の病院で診察を受けたことがあります。そのときはもちろん外来に行ったのですが、診察に行くたびに検査をするように求められました。結局、3つくらいの検査を受けましたが、その時点では僕自身が感じる体調はそれほど悪いものではありませんでした。しかし、次に診察に行ったときも、また検査を求められました。とうとう僕は我慢できずに言ってしまいました。、
「すみません、体調がいいようなので、診療をこのあたりでやめたいのですが…」
 僕の話を聞いていた医師は、ちょっと表情を固くし、カルテに目をやったまま、早めの口調で言いました。
「そうですか。じゃぁ、あとは個人責任ということで…」。
 なんとなくばつが悪い空気が漂ったのは言うまでもありません。
 専門家でない一般の人が専門家と相対するのは本当に難しいものがあります。
 経済の専門分野で先週は大きな変化がありました。東証株価が急落したことですが、たぶんほとんどの金融関係者は想定内だったのではないでしょうか。大騒ぎをするのはマスコミと一部の初心者だけのように思います。
 アベノミクスが持ち上げられているとき、一般の週刊誌はもちろん金融分野専門の経済誌までもが株の特集を組んでいました。あの時期に株の特集を組まないことは、売り上げ減に見舞われることを覚悟することですから、仕方のない面もあります。ですが、あの光景はこれまでにも幾度か見てきた光景です。
 株価が上がっていたとき、外国人投資家が買い越しをしていましたが、僕には、外国人投資家が売るタイミングをジーッと狙い済ましているように感じていました。それに踊らされている初心者…。僕にはそういう構図にしか見えませんでした。
 僕がこのように思う根拠は、僕が信頼している野口悠紀雄氏の経済コラムです。僕は経済の専門家ではありませんし、今から勉強する気力もありませんので、信頼できる人を探すのが一番の方法です。
 今回のアベノミクス経済がはじまる以前から、野口氏の指摘はいつも的を得ているように感じていました。しかも、元官僚でありながら大学教授になっている足跡が好感です。
 その野口氏はアベノミクス効果での株価の上昇に警告を鳴らし続けています。そして、その警告内容には僕のような素人にも納得できるような説得力がありました。だから、僕は今回の株価の急落も当然のように感じています。
 ですが、株価についてはまだまだなんともいえません。かつて政権の中枢にいた竹中平蔵氏は「株は短期的には間違えることもあるが、長期的には正しい方向にいく」と言っています。その呈でいいますと、この先も下がり続けると決まっているわけではありません。事実、株価は2日続けて乱高下していますし、休日明けの月曜日にどのように展開するかは神のみぞ知るです。
 しかし、今の株の動きが経済の実態を表していないのは隠しようもない事実です。野口氏の警笛にはいろいろありますが、僕が一番印象に残っている指摘は、自動車メーカーの販売数量です。金額ではなく数量です。特に輸出の数量が日本の景気の現実を示しています。
 企業の決算が好調なようすがマスコミで報じられていますが、販売額や利益額ではなく、数量でみるなら好調とはいえないのが実態です。その実態が一般紙では伝えられていません。今回の企業の好決算は円安という為替的理由が原因です。その結果だけに目が行き、その理由がおろそかにされていることに危惧を覚えます。
 そもそも、今回の円安はアベノミクスによる影響ではなく、米国の好景気が原因であるという指摘も経済誌に書いてありました。つまり、「円安になった」のではなく「ドルが強くなった」ことで相対的に円が安くなっただけに過ぎないという主張です。このほうが説得力があります。
 個人にとっても信頼する専門家の選別は大きな影響を与えますが、日本経済という観点からみますと、政府が選別する日銀総裁は個人とは比べ物にならないくらい大きな影響があります。なにしろ、日本経済の行方を決めることになるのですから、その専門家としての能力は重要です。果たして新しい日銀総裁の黒田氏を選んだ政府の目利きはどういう結果をもたらすのでしょう。
 ところで…。
 僕は自サイトで「生保に入る前に」というテキストを書いています。たまに読んでくださる方がいますが、その中で「ひとつの生保会社の中から選ぶより、幾つかの保険会社の中から選ぶこと」を勧めています。そして、最近流行りの「複数の保険会社の商品を取り扱っている保険ショップ」を紹介し、推薦しています。
 この考えは、僕の保険代理店時代の経験からきていますが、当時、代理店はどこかの保険会社と専属契約を結んでいることが一般的でした。しかし、誰が考えても「ひとつの保険会社の商品の中から選ぶよりも、複数の保険会社の商品の中から選ぶ」ほうが最適な保険を選べる確率が高くなります。
 一社専属の保険代理店は、その保険会社が販売したい保険を契約者に勧める傾向があります。大手になればなるほど、保険会社はキャンペーンなどと称して、「ある特定の保険」を販売することを代理店に奨励することがあります。そういうときの「ある特定の保険」の決め方は、保険会社にとって利益が大きい保険であることが通例です。
 そうしたとき、代理店は契約者の立場に立って保険を勧めるというよりも、代理店としての評価を上げるためにキャンペーンの対象になっている保険を販売することになりがちです。
 実際に、代理店を競争させるように契約獲得数を棒グラフにした紙を壁に貼ったりする営業所もあります。このようなやり方が契約者のためにならないのは当然です。
 それに対して、複数の保険会社の商品を販売している保険ショップは保険会社に煽られるような環境ではありません。ですから、自ずと保険会社の立場に立った保険を勧めるのではなく、契約者の立場に立って保険を勧めることができます。ですから、真の意味での保険販売店(ショップ)になれます。
 僕は、このような理由で一社専属の代理店よりも、複数の保険会社の保険を扱っている保険ショップを勧めていましたが、今年に入り、この保険ショップの問題点が報道されました。
 僕が保険ショップを勧めていたのは、究極的にいいますと「保険会社の視点ではなく、お客様の視点」で保険を販売できる環境にあるからです。しかし、実際は保険会社の視点で保険が勧められ、販売されていました。
 どういったことかといいますと、保険ショップが「代理店手数料の高い保険」を優先して勧めていた実態が報道されたのです。これでは、複数の保険会社の商品を扱っている意味がありません。
 こうなりますと、結局は良心的な保険ショップまたは保険ショップの良心的な担当者に出会うしか、よりよい保険に加入するチャンスは得られなくなってしまいます。
 保険という商品も一般の人にはわかりにくい商品です。そうであるだけに保険の専門家はモラルを失うことがないように仕事に取り組んでほしいものです。
 また、消費者は専門家の心のうちを見抜く目利き力が必要です。
 じゃ、また。




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