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 吉田拓郎さんはデビュー曲「イメージの詩」の中で「古い船をいま動かせるのは古い水夫じゃないだろう」と歌いました。いつの時代も若い人はその時代を否定するのが常で、年長者は「今の若いもんは~」と年齢の少なさを批判的に指摘します。しかし、この批判の中には若さに対する嫉妬心も含まれているるように感じます。
 若者はいつの時代も世の中に不満を感じています。その理由を考えるなら、その時代を作ったのは年長者たちだからです。つまり、その時代は年長者に適した時代です。ですから、若者がその時代に不満を感じるのは当然ということになります。
 若いときは若いですから、若いことに気がつきません。僕が今までで一番印象に残っている言葉は「人間は、自分が経験した範囲内のことでしか、ものごとを理解できない」という言葉です。誰が初めにいったのかはわかりませんが、僕が知ったのは幻冬社という出版社・社長の見城徹の本の中でした。幾度かコラムで紹介していますが、いわれてみますと確かに経験していないことをいくら説明されてもそれを理解するのは自分の経験値の中でしかありえません。
 僕が若い頃に疑問に感じていたことは「理解すること」の意味でした。いろいろな本を読む中でよく出てきた例え話が赤ちゃんに熱さを教える話です。
 熱いものに触った経験がない赤ちゃんに「沸騰したやかんに触ると熱いからやけどをするよ」といくら注意をしたところで、「熱さ」を実感したことがないのですから理解のしようがありません。
 同じことは赤ちゃんに限らず、大人にも当てはまります。ある程度年を重ねた大人であっても、ものごとを本当の意味で理解するのはかなり難しいものがあります。僕の経験に則していいますと、ラーメン店を開業することについていくら説明や解説をしたところで、本当に理解できるのは、自分で実際にやってみることしかありません。
 特に、年齢的に中途半端な30代40代の社会人は僕の説明や解説を自分の経験に照らしてわかったように思ってしまうので、本当に理解している人は限られています。ビジネスマンとして社会で働いている経験があるだけにその経験が本当の意味での理解を妨げているからです。やはり、人間は経験した範囲内のことでしか、ものごとを理解できないようです。
 そうしたことを踏まえて、果たして「理想の経営者の年齢は何才か」という疑問が湧いてきます。吉田さんは「古い船を動かせるのは古い水夫じゃない」と歌いましたが、新しい水夫よりも古い水夫のほうが経験があるのは確かです。30才の水夫と60才の水夫では誰がどう考えても60才の水夫のほうが船の操縦は熟練していそうです。
 だからといって、60才のほうがすべての面において実力が上であるかといいますと、そうとも言い切れません。やはり、60才の体力と30才の体力では誰がどう考えても30才のほうに軍配が上がります。
 一番わかりやすいのがイチロー選手です。20代後半のイチロー選手ともうすぐ40才になるイチロー選手では肉体的な差はいかんともしがたいものがあります。人間の肉体は年齢を重ねるにつれて衰えるようになっています。イチロー選手に限らず、また野球に限らずスポーツ選手は全員が肉体的な衰えを感じて引退を決意します。
 では、スポーツ選手ほど肉体を使わない職業の場合ではどうでしょう。いわゆる職人といわれる業界では60代の職人と30代の職人ではどちらが上でしょう。この場合は、全員が全員というわけではないでしょうが、やはり60代に軍配が上がりそうです。スポーツ選手ほど肉体を使う職業ではなく、ある程度肉体を使い、そして精緻な技術が求められるのが職人の世界です。ですから、職人の世界ではある程度の年数を経たなければ一人前にはなれないことになっています。
 職人の世界のように職業に占める体力の割合が半分くらいの場合は、まだ60代のほうが実力が上になります。ガテン系の職業では親方が60代で弟子が30代という光景は珍しいことではありません。
 では、次に体力をあまり使わない職業の場合について考えてみます。
 いわゆるホワイトカラーの職業の世界では体力よりも知力のほうが重要になってきます。ですから、誰がどう考えても30代よりは60代のほうが実力が上になります。しかし、企業の中では定年がありますので、現実的には50代といったほうが正確でしょうか。60代になってしまいますと、邪魔者扱いされることのほうが多いのが実状です。しかし、50代60代のビジネスマンが邪魔者扱いされるのは役職が下の場合です。役職が上の場合、つまり幹部になりますと反対に50代60代のほうが圧倒的に多くなります。幹部で40代以下ですと「抜擢」という言葉を使うほど珍しいことになっています。
 幹部の頂点は社長もしくは今の時代はCEOなどといっていますが、組織のトップは何才が理想でしょうか。やはり、若くては経験が少なくて頼りがいがないですし、年齢を重ねすぎていては吉田拓郎さんに注意されることになってしまいます。
 やっぱりぃ、60代かなぁ…。
 その意味でいいますと、今回の都知事の候補者はほとんどの方が理想的な方々ということになります。そうしますと、あとは人間性というか人柄ということになるのかなぁ。
 そんなことを考えた都知事選でした。
 じゃ、また。




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