<煽る>

pressココロ上




 僕は保険代理店を営んでいたこともありますが、そのときに一番思ったことは「お客様に危機感や恐怖心を感じさせることが、保険の売上げにつながる」ということでした。実際問題として、保険は将来の不確かなリスクに備える商品ですので、そのような販売方法にならざるを得ない部分があります。しかし、僕はそこに違和感を持っていました。
 保険の売上げを伸ばすには「顧客数を増やす」か「顧客単価を上げるか」しか、方法はありません。これはどんな業種にも当てはまることで、飲食店にしても同様です。飲食店の場合は食べ物とかお店の内装とか雰囲気とか、誰でもがわかりやすい要素でこの2つが決まります。しかし、保険の場合は違います。
 将来のリスクというのはまだ目で見える状況でも状態でもなく、もしかしたら起きないこともありえます。しかし、それでは保険の売上げを上げることはできません。ですから、保険会社としてはできるだけリスクを煽ることが必要です。つまり、危機感や恐怖心を高めることが保険を販売する必須要因となります。
 インターネットが普及してからいろいろな情報に接することができるようになりました。これは大きなメリットのひとつので、その中に保険関連も入っています。
 僕の記憶では、ネットが普及する前まで入院に要する費用を保険会社は約1万5千円と見積もって紹介していました。この数字の根拠は生命保険会社が集まって創設した団体が発表したものです。ですから中立的な立場の第三者が調べた結果ではなく、身内の団体が調べた結果ですので真実性にかけている部分があります。しかし、最近のパンフレットをみますと、1万円としているところが多いようです。
 その理由は保険会社の立場でない組織や団体からいろいろな情報が発信されるようになったからです。その情報のひとつに高額医療制度があります。最近ではかなり知られていますのでご存知の方も多いでしょうが、これは健康保険に加入していますと、病院への支払に上限が設けられている制度です。
 所得にもよりますが、平均的な世帯収入の場合は1ヶ月に約8万円です。それ以上は支払う必要はありません。ですから、手術などで入院日数が長期間になっても1ヶ月の支払額は約8万円までです。ですから、それ以上の保険金を受け取るような保険に加入することは無駄な出費ということになります。
 しかし、保険の対象にならないことがあるのも事実です。例えば、食事代や差額ベッド代です。健康保険では6人部屋を標準にしていますので、4人部屋や2人部屋や個室などの場合は6人部屋との差額を自己負担しなければいけません。これが差額ベッド代です。これらについては医療保険は確かに有効です。しかし、その金額は保険会社が指摘するほど高くないと僕は思っています。
 僕の個人的な経験からいいますと、僕は昨年心臓の手術をしていますが、入院日数は検査と合わせて16日間くらいでしょうか。僕が加入していた医療保険は共済が2つで、もちろん最も低い保険金です。それでも、かかった費用は高額療養費の約8万円と食事代とその他諸々だけでしたので、トータルで計算しますと黒字になりました。
 ただし、このときはうれしい誤算がありまして、僕が知らないうちに共済の1つが保険料はそのままで保険金だけが増えていたのです。それを差し引いても黒字になっていました。ですから、保険会社がいうほど、入院に際する治療費はかからないというのが僕の実感です。こうした情報が広まったことが、保険会社が入院に際して必要な治療費を1万5千円から1万円に引き下げて紹介するようになった背景にあります。
 このように、保険会社は保険料を高くするためにできるだけ悪い状況を連想させるような事例を指し示します。その理由は、言うまでもありませんが、お客様を不安にさせることが保険販売に効果があるからです。
 先週、阿部首相が記者会見で集団的自衛権について自らの考えを発表しました。ひとつひとつの事例を示されますと、確かに阿部首相の主張にはうなづける点があります。しかし、同時に保険の販売方法が頭をよぎったのも事実です。
 危機を煽って自衛隊の活動範囲を広げようという発想に、僕は危機感を感じます。誰でも、自分が攻撃をされたなら反撃しようと考えるのは当然です。ですが、反撃する前に「反撃することは、まかり間違えるなら殺人を犯すこと」という考えも想像する必要があります。そうです。反撃するということは人を殺すことになりえます。果たして、それほど重要なことを「憲法の解釈」だけで決めていいのか。それが疑問です。
 確かに、最近の中国やロシアなど日本近隣の動きには不安要素が高まっていることは事実です。しかしだからといって、安易に武力に傾くのにはやはり抵抗感があります。
 人を動かすときに、相手の判断力を麻痺させるような方法をとるやり方に正しい主義主張はないと、僕は考えます。本当に正しい主義主張であると自らが考えているなら、相手が冷静にじっくりと考えることができる環境を与えることができるはずです。僕はそう思っています。
 例えば、かつてオウム真理教は信者を信心させるために精神的肉体的に追い込んだ環境または状況にして信者にしていました。人間から正常な判断力を奪うことでマインドコントロールをしていたのです。
 危機感を煽るという方法はそれと似ています。今回与党である公明党の存在価値というか役割がクローズアップされています。ある意味、公明党が安倍首相の暴走の歯止めになっている部分がありますが、公明党は宗教団体が作った政党です。その意味でいいますと、なんとも奇妙で不思議な気持ちになっている僕です。
 じゃ、また。
 




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