<名経営者>

pressココロ上




 僕は子供たちが起こす事件に敏感なのですが、先週は女子高生が母親と祖母を殺害する事件がありました。報道では、「しつけが厳しくそうした環境を変えたかった」とか「女子高生が虐待されて警察が出動したことがある」などといろいろな情報が出ていますが、どちらにしても女子高生の生活環境が幸せでなかったことは間違いないようです。
 女子高生はもう子供ではありませんが、まだ「働いていない」という点においては子供と同じで立場です。そうした立場の人が殺人でしか未来への対処法が思い浮かばないのなら、そうした状況を作っている社会や環境に問題があります。
 人間は「幸せになるために生まれてきた」となにかで読んだことがありますが、簡単に幸せになれないのが人生の難しいところです。先の女子高生の場合は、「殺すこと」ではなく「環境を変えること」、つまり家出も選択肢のひとつに出来ていたなら悲惨な事件を起こさずに済んだかもしれません。
 人間は追い込まれるとどうしても考えが狭まってしまいます。苦しいときほど気持ちに余裕を持って周りを見渡すことが大切です。しかし、わかっていても実行できないのも、また人間の悲しい性といえるかもしれません。…自戒を込めて。
 さて、先週のニュースで興味を引いたのはセブンとイオンの業績発表です。やはり生活に身近な業界ですし、他の産業に比べて業績に対する評価もしやすいのが小売業の特徴です。
 僕はひとつのニュースからいろいろなことが次々に浮かんでくるのが癖ですが、セブンとイオンに関するニュースから頭に思い浮かんだことを書きたいと思います。
 少し前になりますが、ファミリーレストランの業績も発表されていました。その業績から見て取れるのは低価格路線からの脱却でした。すでにこの傾向は2~3年前から指摘されていましたが、価格よりも品質に消費者の気持ちが移っていると報道されていました。
 昨年あたりからファミレスの御三家(すかいらーく、デニーズ、ロイヤルホスト)の復活が伝えられていますが、僕の感想は「復活」ではなく「下げ止まり」です。これまで十年以上業績が落ち続けていたのが単に下げ止まりをしただけに過ぎないと思っています。今の豊かな時代にファミレスを利用する人がひとりもいなくなることはありません。その最低ラインに達したに過ぎないと思っています。
 セブンとイオンの業績発表と関連がありますが、先週はローソンによるスーパー成城石井の買収のニュースがありました。成城石井の下げ止まりを成し遂げたのは大久保恒夫氏という方です。
 この方については以前も紹介したことがありますが、元々はヨーカドーの出身の方でいろいろなスーパーを再建したことで有名な方です。現在は、古巣に戻ってセブン&アイ・フードシステムズ社長になっています。ですが、ずっとヨーカドーで働いていた生え抜きの社員の人たちはどんな気持ちで向かえたのか複雑な気持ちです。
 ローソンの買収についても僕は少し穿った見方をしています。ローソンの現在の社長は玉塚元一氏という方で前任者の新浪剛史氏から引き継いだわけですが、玉塚氏は新浪氏が招聘した人事です。玉塚氏はユニクロ社長からファンド経営の経歴がありますが、やはり成城石井の買収は前任者の新浪氏への対抗心があるように感じます。元ファンド経営者ですから、買収はお手の物のはずです。
 その新浪氏は現在サントリーの社長を務めていますが、この人事についても以前コラムで書きました。こうした一連の流れを見ていますと、以前コラムの題名にしました「誰が経営者になっても変わらない」気持ちになってしまいます。
 言葉の響きからしますと、「名経営者」には「経営能力が高い人」というイメージがありますが、たまたまめぐり合わせで「下げ止まり」もしくは「復活」の時期に経営者になっていたに過ぎないと思ってしまいます。その証拠に名経営者のひとりと言われている現在ベネッセの社長を務めている原田泳幸氏は情報漏えいへの対処方法で批判されています。名がつく経営者とは思えない対処法です。
 ベネッセは情報漏えいの謝罪として少額の弁済を発表していますが、我が家にもその案内が届きました。しかし、我が家は子供たちも30才を過ぎていますのでベネッセとは無縁のように思っていました。不思議に思いながら中を読んでみますと、なんと子供が小学校のときに進研ゼミをやっていたときのものでした。つまり、今から20年くらい前の個人情報漏えいに対する謝罪なのですが、正直「ピン」と来ないのが実感です。
 その原田氏が社長・会長を務めていたマクドナルドの凋落が止まりません。8月の前年対比がマイナスの25%だそうですが、原田氏が退任するときは既に業績の悪化が始まっていました。僕には、なぜ名経営者として評価されるのか不思議でなりません。
 さて、本題のセブンとイオンです。今回の報道での両者の業績はセブンが過去最高でイオンは減益と対照的な結果でした。新聞ではいろいろな理由を挙げていますが、僕には単にグループ傘下のコンビニ業績の差としか思えません。実際、数字を追っていきますとそうした実態が浮かび上がってきます。
 セブンイレブンに比べてミニストップの貧弱さは言うまでもありません。イオンの間違いはただひとつコンビニを重要視してこなかったことにつきます。それ以外に理由はありません。
 コンビニを除くならセブンとイオンに大きな差はありません。元々の業態であったスーパーではそれほど差がついていませんし、プライベートブランドでも見劣りすることはありません。両者の違いはコンビニの業績です。
 セブン&アイグループの総帥は鈴木敏文氏という方で、鈴木氏の経営能力は高く評価されています。しかし、それはあくまでセブンイレブンという業態における評価でしかありません。なぜなら、コンビニからセブンの本体であるスーパー業態に移動してからは業績がいいとはいえないからです。本当に鈴木氏の経営能力が高いのならコンビニだけではなくスーパーでも業績が向上するはずです。
 僕が「誰が経営者になっても大して変わらない」と考える理由と表裏一体ですが、「業績はタイミングで決まる」とも思っています。たまたま時代の流れとか経済の状況とかそうしたことが業績に影響を与えていることは事実です。
 では、経営能力は全く関係ないかといいますと、決してそうだとも考えていません。例えば、ソニーのウォークマンやアップルのMacから現在のiphoneに至るまでの成功は間違いなく経営能力の高さが成し遂げさせたものです。それまでと全く違うやり方、現代風にいうなら革新とかイノベーションということを行って業績を上げたのですから経営能力以外のなにものでもありません。
 このように真の意味で名経営者がいるのも真実ですが、表面ばかりを真似て名経営者ぶる人が多いのはとても不満です。憤りを感じるといっても過言ではありません。
 そして、「ぶる」人たちに共通しているのは有名な大学などで経営学を学んでいることことです。このような人たちは単に過去の例に現状を当てはめてそれに対する対処法を実践しているに過ぎません。これでは大学進学を目指している受験生と変わりありません。
 しかし、時代や状況などのタイミングさえ合うなら業績を向上させることも可能です。そしてその実績で名経営者になることも可能です。
 名経営者ほどでなくても普通の経営者でも同じようなことが当てはまります。僕がこのサイトを始めた頃に最も感銘を受けたのは板倉雄一郎というベンチャー起業家の本です。弱冠二十歳でベンチャーの社長になりわずか数年で自己破産した著者ですが、事業は現在ごく普通に利用されているネット広告でした。もし、あと少し時代が早く進んでいたなら板倉氏も孫さんのようになっていたかもしれません。
 その意味で名経営者になるには運という要素はとても大切です。このように結論づけてしまいますと努力するのがバカバカしくなってしまいますので、最後に昨日の新聞で読んだ箴言を贈ります。
「幸運の女神は準備のできた持ち主だけに訪れる」
 じゃ、また。




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