<白物家電>

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 昨年の後半あたりから僕が「面白い」と思いながら見ているCMに西島秀俊さんが出演しているPanasonicのCMがあります。西島さんは昨年結婚してしまいましたが、若い女性に人気がある男優のひとりです。数年前のNHK大河ドラマに出演したときはその肉体美が週刊誌などで賞賛されていました。
 このように西島さんは数年前からメディアに頻繁に取り上げられることが増えた感がありますが、僕が最初に見たのは「あすなろ白書」という青春ドラマでした。「あすなろ白書」は当時高視聴率を得ていましたので中高年の方なら多くの人が知っているはずです。若かりし頃のキムタクさんも出演していました。主演は石田ひかりさんと筒井道隆さんでしたが、主人公の影のある友達として出演していました。
 僕たちはその頃から西島さんに注目していたのですが、その後はテレビではあまり見かけることもなく、どちらかというと同年代の俳優の中では前に出しゃばるのが好きでないような印象を受けていました。
 「僕たち」とは僕と妻のことです。ですから、妻とはたまに「松岡君、どうしているかなぁ」などと話していたものです。松岡君とは「あすなろ白書」での役名です。まだネットが普及する前でしたので、注目している芸能人の動向などを簡単に調べることができなかった時代です。今は本当に便利な時代です。
 事実は違うのかもしれませんが、やはり芸能人の方はテレビへの露出が少ないと「活躍していない」ような印象になってしまいます。ですが、実際は映画で主演賞を受賞するなど活躍していたようです。
 その西島さんがPanasonicのCMに出演しているのですが、このCMでの西島さんの笑顔が独特の雰囲気をかもし出しています。もちろん西島さんをメインキャラクターに選んだ理由は大河ドラマや民放のドラマで人気が出たことが理由だと思いますが、このCMの肝は西島さんの笑顔にあるように思います。
 「なにが違うか」といいますと、それは「表情の対称性」です。ほとんどの人間は笑うときに左右のどちらかにいくらかは偏るものです。ですが、西島さんの笑顔は左右が対称です。もちろん意識してのことでしょうが、この笑顔がPanasonicのCMに特別な趣を出しています。食の世界でいいますと隠し味という感じでしょうか。
 この表情ができる西島さんはどこか理知的なイメージがありますが、今回コラムで書くにあたってウィキペディアを読んでみましたら、なんと横浜国大中退でした。知的な理由がわかったような気がします。
 西島さんの俳優としての生き方を見ていますと、売れるために目立つことをやることを好むのではなく、自らの信念に基づいて地道に活動することの大切さを示しているように思います。地道な活動があったからこそ、現在連続ドラマで主演を務められるような立ち位置にいられるように思います。
 西島さんと似たような雰囲気を出している若手俳優が向井理さんです。向井さんも昨年結婚しましたが、やはり知的な雰囲気が漂っています。またデビュー以来、一歩ずつ順調に芸能界の階段を上っているように見えます。そして、それを成し遂げさせているのは向井さんが所属している事務所の力が大きいように思います。もちろん向井さん自身の考えもあるのでしょうが、事務所のサポートが将来の戦略性も含めてしっかりしている印象を受けます。
 さて、西島さんが出演しているPanasonicですが、Panasonicのここ数年のCMにはある特徴があります。それは白物家電に対する姿勢です。かつて白物家電は成熟分野といわれ成長性がない分野と考えられていました。白物家電とは洗濯機とか電気釜とか冷蔵庫など白い家電のことですが、これらはほとんどの世帯に普及しましたので成長する余地がないと考えられていました。
 また成熟の意味には機能的な意味合いも含まれています。つまり、技術的に行くところまで行きついたというイメージです。
 ですが、現在Panasonicはその白物家電に力を入れているように僕には見えます。最初に気になったのは、やはりCMでした。演出が入っているのか、または本当の夫婦なのか判断に迷うほど自然に会話をしている老夫婦が登場するCMが放映されていました。なんとも微妙な空気が流れているCMでとても強い印象を与えていました。
 このほかにも白物家電のCMがありますが、そこから感じるのは「生活をもっと便利にできる」という信念です。かつて技術的に行き着いたと思っていた家電がITの進歩により新しい行き先が広がったことになります。
 マスコミなどで比較されることが多いソニーの業績は低迷したままですので、Panasonicの好業績が一層際立って見えます。今から15年ほど前Panasonicの前身である松下電器は中村邦夫社長という人が創業者である松下幸之助氏のやり方を根底から覆す改革を断行しました。当時のマスコミは中村氏を「創造と改革を成し遂げた男」として賞賛していました。いわゆるV字回復を成し遂げていたからです。
 それまでの松下電器は大企業病といわれるような状態で、徐々に業績が落ちていく状況で誰が社長になってもその流れを止めることができないでいたのです。それを過激なまでの改革で業績を回復させたのですから「旧来の幸之助神話を壊した男」といわれたのも当然でした。
 ですが、僕はV字回復という業績回復を信用していません。なぜなら、短期間で業績が回復するはずがないと考えているからです。マスコミはキャッチコピー的な文言を好みますので「V字回復」という見出しを使いたがります。「V字回復」とは短期間で回復することを意味しますが、企業の業績というものは短期間で回復するほど生易しいものではないはずです。ですから、僕は信用しません。
 しかし、実際に数字的に「V字回復」を成し遂げていることもあるのも事実です。では、なぜそうしたことが可能かといいますとそれは数字のマジックがさせることに過ぎません。わかりやすい例を上げるならリストラもそのひとつです。従業員を減らし人件費を抑えるなら利益は短期間で回復します。また、不良債権を売却することや価格の安い取引先に変更することも短期間で回復させる方法です。ですが、これらは根本的な回復ではありません。言葉を変えるなら表面上の回復です。
 その証拠に中村氏が改革を成し遂げ、V字回復を果たしたあとに業績が低迷しています。短期間で回復してもそれが長続きしないならそれは回復とはいえないはずです。ですから、僕はPanasonicの回復には懐疑的でした。しかし、現在の好業績は本物です。単なるうわべだけの好業績ではなく実態が業績を表しているように感じます。
 ここまで書いてきてふと思いました。もしかしたなら、中村氏の本当の業績はV字回復させたことではなく、松下幸之助氏の作った組織を根本的に作り変えたことなのかもしれません。旧態依然とした組織が時代の変化についていくことができないのは間違いないからです。いずれにしましても、成熟分野と思われていた白物家電を成長分野にしているPanasonicは素晴らしい企業といえます。
 西島さんを見ていてそんなことを考えました。
 じゃ、また。




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