<永福町と池袋と虚業と実業>

pressココロ上




 題名を読んで今週の内容を想像できた人はどのくらいいるでしょう。
 今週のテーマはラーメン業界です。新聞の訃報欄にも書かれていましたし、Yafooのトピックスにも記載されていましたのでご存知の方も多いでしょう。「つけ面の元祖」といわれている池袋大勝軒の創業者の訃報が先週報じられました。ラーメン業界に十数年身をおいていた僕としてはやはりいろいろな思いが沸き起こります。
 池袋店を全国区にしたのはなんといいましてもフジテレビでのドキュメント番組です。この番組で一気に有名になりました。それほどテレビというメディアは大きな力を持っています。しかも池袋店の場合は数年おきに番組で取り上げていましたので効果は絶大でした。 
 確かに「味がおいしい」と感じる人がたくさんいたのは事実でしょうが、そのようなお店はほかにもたくさんあります。その中で全国区になったのは、繰り返しになりますが、テレビの効果です。池袋店の創業者の認識や意図がどうだったかはわかりませんが、ラーメン店の業績とメディアは無関係ではいられません。ですから、機に長けている経営者は上手にメディアを使おうと戦略を練ります。
 やはり最も有効なメディアの使い方は頻繁にメディアに登場することです。また、メディアの側にしましても、先に書きましたように飲食店の話題は読者や視聴者に受け入れられる土壌がありますので双方の思惑が一致するということになります。
 池袋店が最初にテレビで取り上げられたのは2002年のようですが、実はそれ以前に永福町店はテレビで取り上げられていました。しかし、池袋店の取り上げ方に比べますとインパクトが弱かったように思います。
 実は、僕は永福町店の噂はすでに高校生のときに知っていました。つまり今から40年前ということになりますが、学校からそれほど遠くないところにありクラブの先輩に誘われて食べに行ったりもしていました。当時から店の前に行列ができていることで有名でしたが、僕たちの間では「味がどうの」というよりは麺の量が半端ではないということで有名でした。
 永福町店のドキュメント番組が放映されたとき、僕はすでにラーメン店を営んでいましたので興味深く見ました。当時、TBSは深夜にドキュメント番組を放映しており、その頃の僕はドキュメント番組を好んで見ていたのでたまたま見ることができたのでした。正直な感想を述べるなら、ドキュメントという作成手法に違和感を持たせる内容でした。
 当時は企画モノとしてラーメン店を取り上げる番組が花盛りでしたが、たまたま家の近所のラーメン店がある番組で取り上げられたことがあります。ですが、その内容が僕が実際に知っている事実とあまりに違うことにショックを受けたことがあります。そうした経験がその後の僕のテレビ業界への見方に大きく影響を与えています。
 栄枯盛衰が激しい飲食業界ですが、僕が印象に残っている経営者は日本テレビの「マネーの虎」という番組にも出演していた「なんでんかんでん」の創業者である川原氏、またはラーメン界のイチローといわれていた森住氏です。特に川原氏はいろいろな番組に出まくっていた感がありますので数年前にネットで「閉店の知らせ」に接したときはいろいろな思いが駆け回りました。
 川原氏森住氏ともメディアを活用していたのは大勝軒の2つと同じですが、その後の展開は大きく違っています。その違いはどこにあるのでしょう。
 ここから先が虚業と実業になります。
 ラーメン店における売上げにはいろいろな要素があります。巷間いわれている味や評判はもちろんですが、それ以外にも内装や外装、そして宣伝や立地やシステムetcです。これらの中で大きな要素を占めるのが宣伝です。そして、宣伝にはメディアの露出度が大きく関係してきます。
 先週、親子喧嘩で世間の注目を集めた大塚家具のかぐや(家具屋)姫こと大塚 久美子社長が会見を開きましたが、この会見も親子喧嘩を逆手にとった宣伝のひとつといえます。
 会見場に現れた久美子社長の出で立ちは真っ白なスーツでした。そしてなにより印象に残ったのが笑顔です。株主総会では微塵も見せなかったあの笑顔は間違いなく練習に練習を重ねて作られた笑顔です。ファッションから立ち振る舞いまですべてが僕には経営コンサルタントによってアドバイスを受けたような計算し尽くされた会見と映りました。ときたま意地悪な質問が出たときに見せた硬い表情のほうが久美子社長の本質ではないか、と思えるほどの笑顔でした。
 話を戻しますと、ラーメンのような人間の感性に評価を依存する商品の売上げには宣伝はとても大きな要素を占めます。そして、宣伝とはメディアの露出度のことでもあります。川原氏や森住氏が閉店に追い込まれたのはこのメディアへの露出度が減ったことが原因です。
 こうしたことを踏まえて2つの大勝軒について考察してみます。
 両大勝軒においても常にメディアに出ていられるわけではありません。池袋店でさえドキュメント番組で取り上げられたのは2002年と2005年と2011年と間隔が開いています。ここから先が大切です。
 つまり繁盛店であり続けるには、売上げに占める宣伝の割合が高くない経営状況または経営環境になっていくことが重要になってきます。そして、宣伝の代わりに重要な要素となるもののひとつに間違いなく入ってくる要素が立地です。繁盛し続けているお店の共通点は立地条件がいいことが間違いなくあります。
 そして次に重要なのがシステムです。
 システムについてもう少し詳しく説明しますと、できるだけ少ない人数でお客さまに満足感や感動を与えながらきれいに捌くまたはこなすやり方のことです。言葉を変えるなら効率的に作業ができる工夫をすることで人件費や管販費を少なくして利益を出せるような体制にすることです。
 整理をしますと、売上げを宣伝に依存するのではなくお客様が来店しやすい立地を選びそして利益を捻出できるシステムを構築することで実業になることができます。しかし、実業を構築したからといって安閑とはしていられません。なぜなら立地やシステムが未来永劫に通用する保証はないからです。世の中は諸行無常が基本です。
 だからこそ、ドラッカーさんの言葉が身にしみます。
「 変化はコントロールできない。できるのは変化の先頭に立つことだけである 」
 じゃ、また。




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