<油断>

pressココロ上




 最近はテレビを見ることが少なくなり、スポーツ中継も生で見ることはほとんどなくなりました。しかし、たまたま19日(木)の世界野球大会の韓国戦を見ました。なぜなら大谷選手の快投に釘付けになったからです。これまでニュースなどで見ることはありましたが、リアルタイムで大谷選手を見たのは初めてでしたので結構興奮しました。
 やはりバッタバッタとバッター打席の韓国選手をなぎ倒している様は痛快ものでした。「全く打たれる気がしない」という雰囲気を感じたのも久しぶりで、大分以前に見たダルビッシュ投手以来でした。
 それにしてもプロ野球の世界に入ってからの大谷選手の活躍には目を見張るものがあります。これまでにも前評判が高い選手が幾人もいましたが、実際にプロの世界で前評判どおりの活躍をできたのはほんのわずかです。中々、前評判どおりの活躍をできないのがプロの世界です。
 よく言われますが、あのイチロー選手はドラフト6位でした。たぶん「プロで成功する確率は小さい」とスカウトの人が見たからでしょうが、その後の活躍をみますとまさに選手の能力を見抜くことの難しさを示しています。
 しかし、プロの世界で成功するには能力以外の要素も関係してきます。例えば相性の合うコーチや監督または先輩にめぐり合うことなど人間関係も大きく影響してきます。あの野茂選手は仰木監督がいなかったなら活躍する場面が与えられず大成しなかったかもしれません。いくら実力の世界といえども実力以外の要素も重要です。
 このようなプロの世界で成功するには自分自身の軸を持っていることがとても重要になってきます。なにしろ過去に実績のあるコーチや監督、先輩、そしてOBなどが自分の考えを押し付けてくるのですからそれらを上手に捌くことが必要です。「捌く」といっては失礼ですので「受け入れる」という表現のほうがいいかもしれませんが、どちらにしても先輩方のアドバイスを上手に聞き流しながら自分の思い通りのやり方を貫き通す覚悟が必要です。そのために必要なのが自分の軸です。
 大谷選手を見ていますと、その確固たる軸を持っているように感じます。これは誰かはわかりませんが、大谷選手が心の底から信頼している師匠がいるからではないでしょうか。まだ二十歳を超えたばかりの人間が周りに振り回されずに自分のやり方を貫き通すにはこれしか方法はありません。
 このように着実に成長している大谷選手が7回で降板し、則本投手にスイッチしたわけですが、この継投策に対して采配ミスを指摘する声があります。小久保監督自身も自らの失敗を認める発言をしていますが、球数が少なかった大谷投手でしたので最後まで投げきったほうが良かったかもしれません。
 しかし、僕が考える一番のミスは捕手の嶋選手にあると思っています。一言でいうなら油断です。これ以外のなにものでもありません。
 油断した理由は、皮肉なことですが大谷選手の快投でした。そして、たまたまの則本投手の最初の打者が初球に手を出し平凡なセンターフライに終わったことでした。結局、8回は簡単に終わってしまったのですが、これが9回の逆転劇を生んだ源流となっています。
 野球に「もし」や「たら」は意味がありませんが、もし8回に韓国がひとりでも塁に出ていたならこのような結果にはならなかったように思います。8回が簡単に終わったことで嶋捕手に油断が生まれてしまいました。則本投手を擁護するわけではありませんが、普段は先発をやっていて慣れないリリーフを任される投手が油断をするわけはありません。そんな余裕はあるはずがありません。責め過ぎかもしれませんが、嶋捕手にすべての責任があります。
 9回の先頭打者に対して…。
 せっかく則本投手のストレートの早さに対応しきれていないのにチェンジアップを要求したのは配球ミスです。仮にチェンジアップを選択するならボールにするべきでした。しかも、次打者にもチェンジアップをセンター前にヒットされています。
 逆転をされた9回の全体にいえることですが、嶋捕手には慎重さが欠けていました。安易にチェンジアップを要求したのもそうですが、投球の組み立てをもっと慎重にする必要がありました。8回からリリーフした則本投手と違いずっと出場していたのですから、全体の流れもわかっていたはずです。
 「流れ」の面でいいますと、僕はバレーボールをやっていましたので、どんなスポーツでもリズムを考えます。ミュンヘンオリンピック時の監督だった松平さんはバレーボールはリズムのスポーツだと話していました。それが頭の中にこびりついているからですが、リズムの視点でスポーツを見ると一味違った側面が見えてきます。
 先頭打者にヒットを打たれたあとも嶋捕手はリズムを変える配慮を全くしていません。それまでと同じようにサインを出し、受けたボールを返球するという一連の動きを続けていました。「慎重さ」を意識するなら、ボールを受けたあとに「一呼吸」をおいてから返球するなり、牽制のサインを出すなりリズムを変える工夫をするべきでした。投手というのは気持ちに余裕がなくなり焦ってくると、リズムが早くなりがちなところがあります。それは打者のペースになることを意味しています。
 次打者にもヒットを打たれたあとはマウンドに行くべきでした。こうした動きは韓国に傾いた「流れ」を押し留める効用があります。これは嶋捕手だけではなく内野手全員の責任ですが、孤立している則本投手にもっと声をかけなければいけない場面でした。特に、一塁の中田選手にはその役割が強く求められてしかるべきです。
 満塁になったあとに投手を交代しましたが、松井裕樹投手ではあまりに荷が重すぎます。これこそ監督の最大のミスです。元々制球に難がある松井投手があの場面で実力を発揮できるはずがありません。僕にはマウンドに立った松井投手の心の震えが伝わってきました。せめてもの救いは三塁を守っていた松田選手が声をかけていたことでしょうか。
 結局、押し出しを与えて交代となりましたが、ここまで韓国に流れが行ってしまってはあとに登板する投手が余程の実力の持ち主でなければ逆転を阻止することはできません。負けるべくして負けた準決勝でした。
 残念に終わった世界野球ですが、この準決勝について小久保監督の采配ミスを指摘する声はありましたが、嶋捕手に対する批判を目にすることがありませんでした。それが僕には不思議でしたのでコラムで書いた次第です。
 采配ミスを批判された小久保監督ですが、点を取られても逆転されてもベンチの中で動じない姿勢はとても好印象でした。小久保さんの生き方のポリシーがにじみ出ていたように思います。
 それにしても大谷選手は選手としても人間としても素晴らしいなぁ…。このまま成長してくれることを願います。油断しないことを祈っています。野茂さんと親密になればいいのに…
 じゃ、また。




シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする