<番記者>

pressココロ上




 番記者という言葉を僕が初めて聞いたのは竹下さんが首相になったときです。番記者とは特定の政治家につきっきりになる記者ですが、フジテレビの番記者にラグビーで活躍していた上田昭夫さんがなったことがマスコミで注目を集めたからです。
 上田さんは新日鉄釜石の松尾雄治さんと同年代の選手ですが、監督として慶應大学を日本一に導くなど選手としてまた指導者として活躍した人です。因みに、先日亡くなりました神戸製鋼の平尾誠二さんは世代がひとつ後輩になります。
 上田さんで最も印象に残っているのは慶応大学の監督として日本一になったことです。現在は対戦方式が変わりましたが、当時は毎年1月15日に学生日本一と社会人日本一が対戦して日本一を決定する日本選手権がありました。常識的に考えるなら学生と社会人では力の差が歴然と開いているのが普通ですので学生が社会人に勝利することはあり得ません。ところが、上田さんが監督を務めていた1986年は慶応大学がトヨタ自動車を破って日本一になったのです。このときの驚きは今でも覚えています。スポーツ大好き人間の僕としては体力も経験も勝っているはずの社会人が学生に負けるのはあってはならないことです。そうであるだけにとても興奮しました。
 僕は一時期ラグビー界で活躍した人について書かれた本を読み漁ったことがあるのですが、そのときに共通点があることに気が付きました。実は、あまりうれしくない共通点なのですが、早世する方が多いことです。
 先の平尾さんもまだ53才でしたが、上田さんも昨年62才で亡くなっています。またさらに遡るなら早稲田大学で活躍し日本代表監督も務めた宿沢広朗さんがいます。宿沢さんは2006年に55才の若さでお亡くなりになっています。因みに、宿沢さんの早稲田大学を日本一にしています。
 昨年、ラグビー日本代表はワールドカップで南アフリカに勝利し世界の注目を集めました。またそれは監督のエディ・ジョーンズヘッドコーチの指導力が注目されたことでもありました。そのときはエディ監督の指導方法が認められ、外国人監督でなければ日本は成長できないかのような論調までマスコミに出ました。
 しかし、僕的には「日本にだって優れた指導者がたくさんいるにの…」との思いがあり、納得できない気分でもいました。
 話が逸れてしまいました。
 僕はラグビーで有名な上田さんが竹下首相の番記者になったことでその仕事を知ったわけですが、番記者は政治家に限らずスポーツ選手などにもいることも知りました。ウィキペディアから引用しますと「番記者は、基本的に取材対象者の動静を継続的に追い、情報やコメントを引き出したりすることが重要な役割とされている。同じく引用しますと「取材対象者との距離が近くなればなるほど、重要な情報を得ることができ、時にはスクープを得ることもある」存在です。
 しかし、問題点もあり「取材対象者と距離が近くなるため、癒着が生まれることもある」ことです。テレビなどで政治評論家として活躍している人の中には番記者の経験のある人が少なからずいます。現在、日本テレビで権勢を誇っているナベツネさんが中曽根首相の番記者だった話は有名ですし、ほかにもたくさんいます。僕の想像するところでは、記者の中でも番記者はエリートコースのひとつなのかもしれません。
 スポーツ界で僕が最初に番記者を意識したのは元巨人でメジャーでも活躍し、国民栄誉賞ももらっている松井秀喜選手がメジャーに行っているときでした。ある番組が松井さんに密着していたのですが、たまたま松井選手の休日に過ごすようすを撮影していました。
 スポーツ選手といえどもお休みの日はリラックスをしたいものです。しかし、その日松井選手は各社の番記者が集まって行っていた草野球を見に行きました。松井選手くらいになりますと各社が番記者を張りつけます。ですから、人数的にはかなりになります。そうした人たちが集まってお休みの日に草野球をやっていたのでした。
 最初松井選手はグラウンドで戦っているようすを金網越しに見ていたのですが、番記者たちに誘われて試合に参加することになりました。もちろん草野球ですから遊びです。それでも番記者の人たちを喜ばせようとする姿勢に好感しました。そのやりとりを見ていて、松井選手が番記者たちから好かれていることがわかりました。
 因みに、松井選手が打つときは右打席に入っていました。ただの草野球が松井選手が参加するだけで盛り上がるようすが映像から伝わってきました。
 松井さんは選手時代にあまり悪く書かれたことがありません。その理由が草野球に参加している松井選手の姿勢からわかりました。松井選手は取材する側の気持ちも慮って接しているからです。もちろん偉ぶったりわがままな振る舞いなど決してしないのでしょう。松井選手は番記者の人たちから慕われているようでした。松井選手のように選手として大成するのには番記者との接し方や距離感の取り方がとても重要な気がします。
 松井選手に対してあまりうまくつきあっていない印象があるのがイチロー選手です。もう少し古くなりますと野茂英雄さんでしょうか。
 想像でしかありませんが、イチロー選手の独特な孤高を好む雰囲気が番記者たちとの距離を遠ざけているように感じます。イチロー選手の場合はずば抜けた実績が番記者との距離感など吹き飛ばしていますので問題はおきませんが、番記者ともう少し自然に接することができていたなら日本での報道も違ったものになったような気がします。
 結局、スポーツ選手もその動向を伝えるのはマスコミであり記者です。その伝え方ひとつで選手のイメージは全く違ったものになります。ですから、スポーツ選手は番記者との接し方や距離感の取り方はとても重要です。
 有名なスポーツ選手が本を出すときは選手との距離感がとても大きく影響します。スポーツライターはいかにして選手と仲良くなれるかが勝負の分かれ道になります。そうした目でスポーツ関連の本を眺めますと一味違った見方ができます。
 そのような観点で今最も注目されている野球選手である大谷翔平選手をみますと、とても上手に番記者と付き合っているように見えます。大谷選手は実力はさることながら頭もとてもいい人ですので番記者との接し方をすでに身に着けているようです。あの若さでそのような感性を獲得していることが165キロよりも僕は驚かされます。
 記者からしてみますと、「なんとかして大谷選手の心の中に入ろう」と虎視眈々と機会をうかがっているはずです。大谷選手には、そんな大人の深謀遠慮に惑わされることなく野球人生を歩んでほしいと思います。
 じゃ、また。




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