<若者と年配者>

pressココロ上




 今年の流行語大賞は「神ってる」に決まりましたが、僕の中で最も記憶に残った言葉は「ブラック企業」です。この言葉自体は今年ではなく数年前に登場した言葉ですが、今年は「ブラック企業」に関するニュースが多かったように思います。
 それを最も象徴しているのが電通の女性社員が過労死した事件の報道です。従業員を使い捨て部品のように扱っているかのような企業がたくさん存在することに憤りを感じてしまいます。
 これに関連するニュースが先週ありました。「ユニクロ帝国の光と影」という本を書いた横田増生氏という作家がユニクロを解雇されたというニュースです。報道によりますと、横田さんの著作に対してユニクロ会長の柳井氏が「現場で働いたこともない知らない人が書いた本で、実際に働いてから書いてほしい」というような内容を述べたそうです。それを受けての横田氏の入社でした。もちろん偽名で入社しています。
 横田氏が解雇された理由は表向きは「就業規則違反」ですが、誰が考えても本当の理由はユニクロでの就業体験を週刊誌でルポルタージュしていたことです。やはり、社内での労働状況および環境を世の中に発信されるのは不都合があるようです。結局、「実際に働いて」などというセリフが口先だけだったことになります。
 そういえば、僕が移動販売をしていた頃、毎週火曜日にお弁当を食べていた公園でユニクロで働いている青年と知り合いになりました。その青年はいつもその公園で昼食を食べたいたようで、僕が公園に行くようになってから話しかけられたのが親しくなったきっかけです。
 その青年はフリーターから契約社員になったそうですが、「頑張れば正社員になれる」と話していました。しかし、仕事内容はかなり厳しそうで「辞めるかも」と不安な気持ちも吐露していました。
 これまでのユニクロに関するマスコミ報道から鑑みますと、ユニクロでの仕事が楽ではないことは想像できます。普通に考えて、早出やサービス残業などは常態化していたでしょう。
 7~8年前ですが、配送の仕事をしていたとき早朝7時ころに渋谷の商店街に行っていました。その商店街の中にユニクロと同じような業態の店舗がありましたが、7時前から社員が出社して仕事をしていました。開店時間は10時ですから、かなり早い出社ということになります。基本的に小売業は給与がそれほど高くはありません。そうしたことを踏まえますと、早出の分まで給料を払う余裕などはないはずです。おそらくサービス早出でしょう。
 同じころのことですが、大手ファーストフード店が「名ばかり店長」という実態で批判されました。今では「名ばかり管理職」などという言葉もありますが、要は残業代の支払いをなくすことが目的で管理職に昇進させることです。
 先日のニュースで固定残業代という制度について報じられていました。この制度は働く側からしますとかなり損な制度です。どんなに定時時間外に働いても残業代が固定されているのですからたまったものではありません。就活や転職を考えている人は残業代の支給制度についてきちんと把握しておくことは大切です。
 報道によりますと、電通には「鬼十則」と呼ばれる行動規範があるそうです。仕事に臨む姿勢について綴られたものですが、社員手帳の中にも書かれているそうです。まさしく自己啓発にふさわしい内容ですが、今回の女子社員自殺報道が過熱する中で「鬼十則」が手帳からなくなるそうです。
 週刊誌などでは電通の労働状況が報じられています。電通ビルの電気が点いている時間を報じたりもしています。労働監督署が調査に入っているようですが、僕は電通よりも電通の下請け企業のほうに注意を払うべきだと思っています。
 電通が夜遅くまで働いているということは、常識的に考えて下請け企業も同じように働いているはずです。正確にいうなら「働かされている」でしょうか。下請けですから、元受け企業に言われるがままに業務を遂行する必要に迫られあて当然です。
 僕が想像するには、電通は下請け企業にかなり無理難題を押し付けているはずです。基本的に電通に限らず大企業は下請け企業に厳しく接するのが常です。あのトヨタでさえ乾いた雑巾を絞るほどの要請を下請け企業に課しています。下請け企業の大変さは想像するにがたくありません。
 放送業界も電通とは無縁ではありませんが、その放送業界もテレビ局が下請け企業である制作会社に無理難題を押し付けています。ある意味、放送業界は制作会社にしわ寄せを押し付けることで成り立っているところがあります。テレビ業界はたびたび「やらせ問題」が起きますが、その根本的な原因はテレビ局が制作会社にしわ寄せを押し付けていることにあるように思います。
 電通やテレビ局は下請けに仕事を発注する側です。常に発注する側にいるのはいわゆる大企業といわれる企業です。ですから、大企業に勤めていますと発想が傲慢で不遜になりやすい状況になります。下請けに発注するのが基本的な立場になるからです。
 これは以前書いたことがありますが、僕はラーメン店時代に妻が自動車事故に遭ったことがあります。そのときに相手方の損害保険会社の事故担当者は大手メーカーを定年退職した人でした。
 このときの事故はひとつ間違えたなら死亡していたかもしれないほどの大けがだったので長期入院を強いられることになりました。このような状況ではラーメン店の営業にも支障をきたします。なにしろ妻は重要な働き手だったのですから。
 そんな状況のときに相手側の自動車保険会社の事故担当者が送ってきた手紙には「お店が倒産しても当方は責任を負いません」という文面が書いてありました。これだけでも怒り心頭の心持でしたが、お店にやってきた担当者はなんとポケットに手を突っ込んでやってきたのでした。まだ仕事のイロハを知らない若いビジネスマンではありません。歴とした60歳くらいのスーツをピシッと着こなした男性でした。
 僕は基本的に大企業に勤めている人があまり好きではありません。理由は、選択される側ではなく選択する側にいることが多いからです。人間は偉い立場にいる時間が長くなるとどうしても傲慢になってしまいます。
 定年退職したビジネスマンが第二の職場になかなか適応できないことが多いのは「偉い立場にいる感覚」が抜けきれないからです。企業においては定年を迎えるまでの少なくとも十年間はその職場ではベテランという立場になります。ベテランという立場はいろいろなことを知っていて偉い立場でいられることです。その立場がなくなってしまうのですからプライドが傷つけられることになります。プライドとは偉い立場にいるときの感覚です。
 どんなに仕事が好きな人でも企業内で現役でいられるわけではありません。下の世代からどんどん人が上がってくるからです。そんなときにいつまでも先輩面をして職場にいては迷惑になるばかりです。
 ある年齢に達したならあとから続く人に道を譲ることは大切です。これは企業内に留まらず、社会においても同様です。若い人には年配者を敬う気持ちを持ってほしいですが、同時に年配者もつまらないプライドを捨てて接する気持ちが大切です。これから高齢社会の本番を迎えますが、若い人と年配者の両方が相手を思いやる気持ちががなけれれば社会は崩壊してしまいます。
 そうは言っても、、年金の支給時期がどんどん後ろ倒しになりそうだし、しかも支給額も少なくなる法律が成立したし、60才を過ぎたおじさんがそんな世の中を生きていくのは大変です。…僕のことです。若い皆さん、どうかご理解を…。
 じゃ、また。




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