<仲介者>

pressココロ上




 昨今の政治状況に思いを巡らせていて思い浮かんだ言葉があります。「歴史に学ぶ」です。この言葉が頭に浮かびましたが、誰の言葉かはわかりませんでした。そこで調べてみますと、初代ドイツ帝国宰相のオットー・フォン・ビスマルクの言葉でした。
 名前だけは聞いたことがある政治家でしたが、検索をしたときに驚いたことがあります。言うまでもありませんが、検索結果で上位に入るのは並大抵のことではありません。検索結果を上位にすることを仕事にしている会社もあるくらいですから簡単ではありません。ですから、検索ランキングの上位に入るサイトというのはそれなりの工夫をしていることになります。
 「歴史を学ぶ」を検索したときに2位に入っていたのはなんとある新興宗教関連のサイトでした。僕が驚いたのはランキングもそうですが、それ以上に僕のような凡人で真面目な人が検索するような「堅いワード」が新興宗教で使われていることでした。
 社会を動かすうえで重要なな要諦のひとつであるに違いない「歴史に学ぶ」ことを新興宗教がキーワードとして主張していました。新興宗教がすべて悪いとはいいませんが、インチキまがいの、もしくは犯罪すれすれの新興宗教が存在する現代です。そのような状況で生きる上での指標になりそうな言葉を堂々と使っていること、そしてそのサイトが上位に入っていることに不安を覚えました。
 かつてオウム真理教という殺人まで犯していた犯罪集団インチキ新興宗教がありましたが、その信者には一流大学卒業生が幾人かいたことが衝撃的でした。経歴的には立派な大人までもが殺人集団の教祖を妄信していたのですから信じられなかった記憶があります。今回「歴史に学ぶ」を検索して新興宗教関連サイトがランキング上位に入りましたが、このようにして新興宗教というのは成長していくのかもしれません。
 話を戻します。
 「歴史を学ぶ」は初代ドイツ帝国宰相のオットー・フォン・ビスマルクの言葉でしたが、正しくは「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」だそうです。しかし、この文章も要約したものにすぎず、もっと正しくは
「 愚者は自分の経験から学ぶと信じている。私はむしろ、最初から自分の誤りを避けるため、他人の経験から学ぶのを好む。 」
だそうです。さらに「しかし」を付け加えますと、この文章もドイツ語を日本語に翻訳したものにすぎません。翻訳者の気持ちが含まれていることになります。
 最近のニュース番組でトップを占めるのは、やはり今の時期ですとトランプ氏の言動です。トランプ氏の一挙手一投足を事細かに伝えていますが、その視点は批判的な角度からのものがほとんどです。
 誰の言葉かは記憶が定かではありませんが、あるラジオ番組でジャーナリストがトランプ大統領の記者会見の様子を伝えるときのテレビの対応について興味深い話をしていました。もちろん会見は英語ですので画面の下に日本語の翻訳がテロップで流れますが、トランプ大統領が話す「you」を「おまえ」と訳していることについてです。これを「あなた」と訳すか「おまえ」と訳すかで印象がかなり違うとの指摘でした。
 今はどのようになっているかわかりませんが、僕が中学生時代は「技術家庭」という授業がありました。そして、その授業を担当していた先生は正規の先生ではなく、30代半ばの男性講師でした。今ふうに言いますと、非正規先生ということになります。その先生は授業中に科目とは関係のない話をよくしていたのですが、その中で最も印象に残っている話があります。
「英語は日本語と違って、相手がだれであろうと【あなた】を意味する言葉はひとつしかないんだ。貧乏な人であろうと大統領であろうと相手を呼ぶときは【you】だけなんだよ。だから、英語は平等なんだねぇ」
 やけに僕の心の中に落ちた解説でした。自己啓発の本とか成功者の話ですと、ここから「それがきっかけで、僕は英語を猛勉強した」となるのですが、凡人である僕はそのような展開にはならず、「へぇ~、そうなんだ」で終りました。
 それはともかく、このジャーナリストの指摘から想像しますと、やはりマスコミメディアはトランプ氏のイメージを「悪」の方向へ持っていこうとしていることになります。発する言葉が「あなた」より「おまえ」のほうが見ている人に柄が悪い印象を与えます。
 翻訳と言いますと、外国映画の字幕をすぐに連想しますが、字幕翻訳の大家といいますと今の時代は戸田奈津子さんです。米国から有名な俳優が来ますとインタビューのときに俳優の斜めうしろに背後霊のように立っている眼鏡をかけた中高年の女性を見かけることがありますが、あの方が戸田さんです。トム・クルーズさんやジョニー・デップさんなどが来日するときは必ず戸田さんが通訳をしています。
 その戸田さんの記事を最近目にすることが多いのですが、戸田さんの「字幕の作り方」、これはある意味「翻訳の仕方」でもありますが、その適切性について議論が起きているからのようです。
 つまり、「正しくない翻訳」という批判になりますが、誤訳の指摘には確かにどう見てもふさわしくないと思える訳がありますが、戸田さんの反論にも理があるように思います。
「スクリーンという限られた範囲の中で【映像の邪魔にならず】【画面に合ったスピード】で【ストーリーに適った】翻訳をするのが字幕の最も重要な使命である。見終わったあとに字幕を読んでいたことを覚えていないのが字幕の理想のありかたである」
 「you」が「あなた」にも「おまえ」にも「きさま」にも「あなた様」にも「貴殿」にも当てはまるのですから、その場面場面で最も適した日本語を選ぶのが翻訳者の腕の見せ所というわけです。
 このように字幕を作るときにどのように翻訳するかはとても大きな要因です。英語の世界と日本人の橋渡しをするからです。ニュアンスを少し変えるだけで意味が全く変わることさえあります。同じことがマスコミメディアの世界でもいえます。
 世の中で起きていること、特に政治の世界で起きていることをどのように伝えるかはとても大切です。メディアの考え方や姿勢によって事実がいろいろなふうに見えます。僕たちはそのことを留意したうえでマスコミメディアを利用する必要があります。仲介者の役割はとても重要です。
 じゃ、また。




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