<意識高い系>

pressココロ上




 ブックオフの業績が落ち込んでいるそうです。2016年12月期の営業利益は5億1200万円の赤字だそうで、先日社長交代が発表されました。それにしてもブックオフの業績が悪くなる時代が来るとは十数年前は思いもしませんでした。十数年前に近所にオープンしたお店は店内が広く駐車場も広く、いつもお客様で賑わっており、その状況がずっと続いているイメージがありました。数年前から本やCDだけではなく衣料品も扱うようになっていましたが、それが業績が悪いことが理由とは思ってもいませんでした。
 本当に「時代は常に変わっていく」ことをブックオフの業績悪化は教えてくれています。ブックオフに少し異変を感じたのはいわゆる「せどり」というビジネスが登場したときでしょうか。ブックオフで安い本を仕入れてネットで高値で販売するビジネスです。おそらくこうしたビジネスの登場もブックオフの業績と無関係ではないでしょう。
 そうは言いましてもやはり僕の中ではショックを感じています。理由の一つにブックオフがフランチャイズシステム(FC)を採用していることがあります。実は、近所の店舗のオーナーさんは当時の僕よりも若く開店当初はいつもお店に立ち、お店の運営に直接携わっていました。しかし、1年後くらいにはほとんど現場で見かけることはなくなり、お店の運営は従業員の人に完ぺきに任せるようになっていました。かなり大きな店舗ですのでおそらく従業員は20名以上はいたはずです。もしかしたならバイトさんやパートさんだけではなく店長としての正社員もいたかもしれません。
 僕はそのときラーメン店をやっていましたが、20名以上の従業員を雇用してしかも運営をすべて従業員に任せている状況に驚きと羨望を感じていました。ラーメン店では店主がお店の運営に関わらない状況はあり得ません。毎日最低でも14時間以上はお店にいます。それに比べますと、現場に出なくてもお店が回っていることが驚きでした。
 ですから僕はブックオフの経営スタイルのすばらしさに感心していました。フランチャイズシステム(FC)にはコンビニなどほかにもたくさん業種がありますが、その中でも加盟店主に負担が少ない良好なFCと思っていました。
 そうしたことから鑑みますとブックオフの未来は安泰のように思っていました。そんな中での今回の報道です。ビジネスに「安泰はあり得ない」ことを証明するできごとでした。
 今回の報道は業績悪化により社長が交代することも伝えていましたが、この人事にはちょっと興味を持ちました。ご存知の方も多いでしょうが、ブックオフの創業者は坂本孝氏という方ですが、坂本氏は「俺のイタリアン」とか「俺のフレンチ」など「俺シリーズ」の飲食店を成功させて注目された経営者です。
 その坂本氏がブックオフの経営から身を引いたのは取引先から裏リベートをもらうという背任行為が週刊誌で報じられたことがきっかけでした。要は不祥事を起こしたことが理由ですが、「俺シリーズ」を成功させた際に出版した本を読みますと、「経営者として驕りがあった」と反省の弁を述べています。
 坂本氏がブックオフを去ったあと後任の社長になった方は橋本真由美さんという方ですが、この方もマスコミから注目される背景を持っていました。「あのねのね」として歌手やタレントして活躍している清水 国明さんの実のお姉さんだったからです。しかもただのパートとして入社しながら社長にまで上り詰めたその立身出世ぶりがマスコミの格好のネタとなりました。これはおそらく坂本氏も橋本氏もブックオフの宣伝に利用する意図があったと思います。
 しかし、橋本氏が社長にまで上り詰めたのは有名人が身内にいるからではありません。ブックオフが業績を飛躍させた大きな要因に「売ってください」というキャッチコピーを前面に押し出したことがあります。このキャッチコピーを思いついたのが橋本氏だったのです。しかも店長の経験もありますから人を束ね動かすセンスにも長けていたのでしょう。経営者の素質があったのは間違いのないところです。
 その橋本氏が社長を務めていたのはわずか1年です。ここから先は僕の想像になりますが、橋本氏の後任社長である佐藤弘志さんを指名したのは坂本氏だそうです。佐藤氏の経歴を見ますとブックオフに入社する前はコンサルタント会社に勤めていました。坂本氏は不祥事を週刊誌に書かれたことにより緊急的に社長の座を降りなければいけない状態でした。ですからある意味最初からリリーフとしての社長を探していたはずです。その条件に適ったのがマスコミ受けにも適している橋本氏だったのではないでしょうか。
 しかし、実際問題として社長という職務はやはり経営に関する専門的な知識が必要です。パートさん出身である橋本氏が社長の任務をこなすだけの見識があったとは思えません。ブックオフは一部上場の大企業です。橋本氏が自分の力だけで務めるのは無理があります。ですから、リリーフのあとの本来の社長にすべき人材が必要だったはずですが、その坂本氏の眼鏡に適ったのが佐藤弘志だったというわけです。
 その佐藤氏がブックオフに入ってからの自らの失敗や挫折について赤裸々に告白している記事を読みました。そこにはまさにコンサルタント企業に勤めた「意識高い系」の若者の浅はかさが書いてありました。興味ある方は是非読んでみてください(http://www.takarabe-hrj.co.jp/ring/season1/030/p1.html)。
 この対談には佐藤氏が若さからくる悲しくなるくらい意識が高いようすが綴られています。そして、そうした失態を乗り越えて社員から慕われる立派な社長になったようすも書いてありますが、今回社長を退任するのはこの佐藤氏のあとに社長に就任した松下展千氏です。
 実は、佐藤氏から松下氏に社長が交代したのは2011年ですが、そのときもマスコミから注目を集めました。理由は、業績がそれほど悪かったということもないのに「唐突」な交代発表だったからです。
 創業者である坂本氏が去ったあとのブックオフは大人の事情が理由で社長が交代するような状況になっていたのではないでしょうか。僕の想像でしかありませんが、社長として社員から慕われていた状態で松下氏に交代したのはまさに大人の事情が透けて見えます。松下氏の前職が日本興業銀行だったことが僕に想像させるのですが、松下氏になってから業績が伸び悩んでいたのを見ますと、まんざら間違いでもないように思っていますが、どうでしょう。
 ちょっと心配なのは今回社長に就任する堀内康隆氏の経歴です。堀内氏はブックオフに入る前はコンサルタント会社に勤めていました。ブックオフに入社して10年以上経っていますので意識高い系だった頃の佐藤氏のようなことはないと思いますが、少し不安です。
 今回の交代をよい方向で想像しますと、銀行出身の意識高い系の松下氏が佐藤氏を追い落として社長に就任したけど、業績が落ち続けたためにそれに業を煮やした現場を知っている正当な後継者である堀内氏が社長の座を奪い返した、とこんなふうに空想するのですが、どうでしょう。
 経営者として脱皮した佐藤氏のコンサル時代の上司はまとめ記事がパクリが問題になったDeNA創業者の南場智子氏です。その南場氏は「不格好経営」という著書の中で、DeNAの創業時に味わった苦労とコンサルタント時代の苦労を比べて、「コンサルタント業務では経営の本当のことはわからない」と語っています。
 実は、コンサルタント出身者が実際に経営者になってから同じような感想を語っている例は多いのですが、これはコンサルタントという仕事が役に立たないことの証明であるように思っています。それなのに今でもコンサルタント業が盛況しているのが僕には不思議でならないのですね。
 僕からしますと、コンサルタント業で意識高い系の若者の集まりのように思っているのですが、そんなことを思う僕って「意識高い系」かな。
 じゃ、また。




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