<神通力>

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今週は元国税庁長官の佐川氏の証人喚問がありますのでマスコミはこの問題一色になることでしょう。しかし、予想では「検察の捜査がありますので」との言い訳で「中身のある証人喚問ができない」可能性が高いと言われています。野党議員が佐川氏からどれだけうまく事件解明につながる言葉を引き出せるかにかかっています。
遅きに失した感はありますが、ようやっと安倍首相の神通力にも陰りが出てきたように感じます。先週も書きましたが、やはり一強多弱の政界では健全な政治が行われるのは難しいですし、自民党内においても安倍総裁一強は健全な政党でいられなくなります。僕は反安倍さんでもありませんし、反自民党でもありませんが独裁のような政権運営はあってはならないと考えています。
神通力というのは不思議なものでほんのちょっとしたことでなくなるようです。神通力は人間の力では及ばないなにかしらの力が働いているように思えてなりません。
そんなことを感じたのはボクシングの山中慎介選手の世界戦を見たときです。「神の左」とまで賞賛されていた山中選手ですが、「神」という言葉が当てはまるような戦い方でした。全盛期はまさにボクシングチャンピオンとしての神通力が宿っていたように思います。しかし、残念ながらリベンジマッチではその神通力が全く感じられませんでした。前回負けたことで神通力が消えてしまったかのような戦いぶりでした。
確かに、相手のネリ選手が体重オーバーという不公平な試合ではありましたが、僕には山中選手から神通力のオーラが感じられませんでした。ボクシングの専門家によりますと、体重が1キログラム違うだけでパンチ力が全く違うそうです。解説の具志堅さんが「ネリのジャブがストレートくらいの威力になっている」と解説していたのが印象的でした。それを知ったうえでも、僕にはやはり山中選手に絶頂期の頃の神通力がなくなっていたように思います。
同じような感覚を元WBA世界スーパーフェザー級スーパー王者内山選手のときも持ちました。内山選手も山中選手に負けないくらいの実績のあるチャンピオンでしたが、リベンジマッチでは連勝をしていたときには身体全体から放たれていた神通力が感じられませんでした。防衛戦で負けた瞬間になくなったのかもしれません。
前に書いたことがありますが、僕は内山選手がとても好きでした。人間性が素晴らしいことがその理由でしたが、戦いぶりにも興奮していました。負けるまでの内山選手には間違いなく神通力がありました。たとえダウンをしても、そんなものは出合い頭の事故みたいなものですぐに倒せると思わせるオーラが出ていました。その神通力オーラがリベンジマッチのときは出ていなかったのです。
ボクシングついでに書きますと、あの世界最強と言われたマイク・タイソンも絶頂期のころは神通力が感じられ、相手選手はその神通力によって戦う前から負けていたように思います。しかし、一度負けて神通力が消えてからはただの強打者に過ぎなくなってしまいました。引退も仕方ない選択でした。
ヘビー級の流れで話を続けますと、マイク・タイソンよりもずっと前に神通力を感じさせたのはジョージ・フォアマンでした。フォアマン選手のパンチは「象をも倒す」と言われていましたが、チャンピオン時のフォアマン選手にはそれを嘘と感じさせない神通力がありました。その神通力を奪ったのはキンシャサの奇跡と言われるモハメッド・アリ選手です。神通力を奪うのですから「奇跡」が相応しい試合でした。不思議なことに、それ以降のフォアマン選手はやはりただの強打者になっていました。
ボクシングの話が続きましたので今度は産業界に目を移しましょう。
経営者の神通力は権力に裏打ちされていることが条件です。つまり社長ということになりますが、現在ですとCEO(最高経営責任者)のほうが相応しい役職名です。
話は少し逸れますが、先日日本電産の創業者である永守重信氏が社長交代を発表しました。しかし、代表権を持ったまま会長に残るのですからほとんどなにも変わらないことになります。これだけの経営者でも第一線を退くのには抵抗があるようです。しかし、人間というのはいつまでも未来永劫生き続けることはできないのですからどこかで引き際を決める必要があります。そのタイミングを見極めるのは簡単ではありませんが、いつまでも権力を持ち続けたいという姿勢は神通力を失わせるものです。
かつて三越百貨店は栄光を極めていました。その栄光を作ったのは岡田茂さんという三越百貨店の中興の祖と言われていた方です。その岡田氏は神通力が強いばかりに独善的になり私利私欲をむさぼるようになっていました。その岡田氏を失脚させた事件が「なぜだ?!事件」です。取締役会で思いも寄らない「社長解任動議が発せられ、ほとんど全員が賛成」となりそのときに岡田社長の口からから発せられた言葉が「なぜだ?!」でしたのでこのように言われています。
また話は逸れますが、当時の岡田社長のあまりにひどいやり方に憤りを感じて契約を切ったのがヤマト運輸の小倉昌夫社長です。岡田社長は下請けの取引先である配送業者に無理難題を押し付けていました。岡田天皇とまで評されていたのですからどれだけやりたい放題だったからわかろうというものです。
小倉氏はこれを契機に宅配便を開発して今の大成功を成し遂げるのですが、小倉氏は最後まで神通力を失わない稀有な経営者でした。小倉氏は宅配便で成功したあとにスワンベーカリーという障害者が働けるパン屋さんを作るのですが、その背景には家族の問題がありました。このことについては森 健氏の「小倉昌男 祈りと経営」に詳しく書いてありますので興味のある方はお読みになるとよいです。
さて、最後に政界に目を転じますと、神通力という言葉がピッタリと相応しいのはやはり田中角栄元首相でしょう。中卒で総理大臣にまで上りつめたのですから神通力以外のなにものでもありません。今官僚と政治家の関係が注目されていますが、政治家が官僚をうまく使うことを実践したという意味で田中氏の右に出る者はいません。
かつては日本の政治は実質的には官僚が動かしていました。なにしろ政治家は選挙で選ばれるだけですの専門知識をほとんど持っていなかったからです。各省庁のトップが集まる事務次官会議というものが毎週開かれそこでいろいろな政策が決められていました。
事務次官会議を仕切っていたことで有名な方は石原信夫氏という元内閣官房副長官ですが、竹下内閣から村山内閣まで政治を仕切っていたのはこの石原氏と言っても過言ではありません。それくらい官僚というのは力を持っていたのです。
憶えているでしょうか。小泉政権時代に外相に就いた田中真紀子氏に「私が前に行こうとするとうしろでスカートを踏む人がいる」とまで言わしめたのが官僚です。そして官僚は「真紀子氏と差し違える」とまで対決姿勢を鮮明していたのです。
政治家は大臣に就任すると官僚からレクチャーを受けるのが最初の仕事です。レクチャーと言いますと聞こえはいいですが、要は家庭教師ばりに教えを乞うのです。これで政治家が政治を動かせるはずがありません。
つい最近では沖縄・北方担当相に就任した江崎鉄磨氏が就任会見後の囲みインタビューで「官僚の指示通りにやればいいんでしょ」とつい本音を発露して顰蹙を買っていました。江崎氏は高齢のベテラン議員ですのでついつい昔の感覚のままマスコミに対応してしまったのでしょう。
森友学園問題は状況がこじれて複雑な構図になってしまいました。決裁文書が改ざんされたのは間違いありませんが、その理由もしくは背景が込み入ってしまいました。僕の想像では、当初は官僚が安倍首相および官邸を忖度して行動しており、それに官邸側も応えていたように思います。それが佐川氏が国会で「決裁所は残っていない」などと鼻でくくった答弁をしていたことと、その対応に対して佐川氏を国税庁長官に栄転させたという一連の流れです。
しかし、朝日が「決裁文書は残っている」とスクープしてから流れがガラリと変わります。官邸は責任を財務省および佐川氏個人に押しつける方向に舵を切ったようです。すると今度は財務省の官僚側も官邸に反旗を翻しているようにも見えます。
さて、安倍首相の神通力やいかに。
じゃ、また。




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