<ハガキ職人と仕込みハガキ>

pressココロ上




先週気になったニュースは「〝仕込みハガキ〟は当たり前」という記事でした。僕からしますと、今頃注目を集めたことで不思議な気持ちになりましたが、そう感じる理由は大分前からメディア業界だけではなく、一般的にも「ハガキ職人」というワードが認知されていたたからです。

「ハガキ職人」をネットで検索しますと「ラジオ番組でネタメールがたくさん採用されるリスナー」と説明されています。この説明では「ネタメール」となっていますが、「メール」が主流になる以前は「ハガキ」だったはずです。

もう少し丁寧な解説になりますと「ハガキ職人という言葉が誕生した歴史は古く、誕生・定着したのは、70~80年代のタレント深夜ラジオ黄金期である。基本的にネタコーナーにネタハガキを送る人のこと」(ニコニコ大百科より引用)となっていました。

僕なりの理解では「要は、ラジオに投稿する人でたくさん採用される人」となりますが、僕がそうした人の存在を知ったのは阿久悠さんという作詞家の自伝の記事を読んだときです。阿久悠さんは70年代から80年代に活躍したプロデューサーのような方ですが、名前を知られるようになったきっかけは「スター誕生!」というテレビ番組の審査員だったことです。

中年以上の方ですと「スター誕生!」という番組をご存じでしょう。70年代に人気があった「オーディション番組」ですが、出身者としては山口百恵さんやピンクレディー、中森明菜さんなどが有名です。当時は素人の登竜門的な番組になっており、若い人たちがたくさん応募していました。

当時は結構お化け番組的な人気がありましたが、この番組の企画から構成まですべてを仕切っていたのが阿久悠さんでした。このように企画にも参加していましたが、阿久さんの本業は作詞家です。作詞した歌は5,000曲以上といわれていますが、すごいのは大ヒット曲が幾つもあることです。しかも演歌からロックまでジャンルが幅広いのも特徴です。

幾つか例を挙げますと、「ざんげの値打ちもない」北原ミレイ、「また逢う日まで」尾崎紀世彦、「ジョニィへの伝言」ペドロ&カプリシャス、「街の灯り」堺正章、「津軽海峡・冬景色」石川さゆり、「北の宿から」都はるみ、「ペッパー警部」ピンク・レディーetc…5,000曲以上もありますと、切りがありませんのでここらへんでやめますが、とにかく当時の音楽業界の中心人物になっていた方です。

阿久さんの本業は作詞家なのですが、その前は放送作家でした。僕が「放送作家」という職業を認識するようになったのは「欽ちゃん」こと萩本欽一さんの番組を見ていたときです。絶頂期の萩本さんは「視聴率100%男」と命名されていましたが、これは萩本さんが出演していた3つのお笑い番組がどれも人気があり、3つを合わせて100%ということでマスコミからつけられました。

その萩本さんの裏方として支えていたのが構成作家と呼ばれていた方々でした。なにかの記事で、そうしたスタッフのことを書いている記事を読んで初めてその存在の大きさを知りました。よくよく番組を見ますと、番組の最後にテロップで名前が流れていました。あまり表に出てくることはありませんが、こうした方々がいてこその萩本欽一さんだったようです。
(*当時は「放送作家」ではなく「構成作家」と書いてあったように記憶しています)

今のお笑い界のトップと言いますとやはりダウンタウンさんでしょうか。そのダウンタウンさんにもやはり同じようや役割を果たしている放送作家の方がいました。ダウンタウンさんの活躍に比例するようにその放送作家の方も注目されるようになっていきました。僕がトーク番組で見たのは高須光聖という方ですが、こうした裏方の人たちがいてこその表で活躍している人たちです。

阿久悠さんは本業が作詞家であるにもかかわらず「スター誕生!」の企画までかかわっていたのは作詞家になる前に放送作家だったことが関係していると想像します。阿久さんの経歴を知ってから業界を見渡しますと、放送作家から作詞家になっている人が多いことに気がつきました。一般の人で作詞家になることを夢見ている人も多いでしょうが、ヒットが一曲出ますと印税が入ってくるのは魅力的です。働かなくてもお金が入ってくるのですから夢のような職業です。

放送作家から作詞家になる人は意外に多いのですが、阿久さんは放送作家の修業時代にラジオ番組へのハガキ投稿をたくさんしていたそうです。阿久さんのほかにも「修行としてハガキ投稿をしていた」と話す業界の人は多いのですが、こうした慣習は見方を変えますと、読まれるハガキが純粋な投稿ではないことを示しています。

冒頭に書きましたが、「ハガキ職人」という言葉がすでに社会的に認知されている現在において、「仕込みハガキ」云々というのは僕からしますと、やはり「なにを今さら」という気持ちになってしまいます。

僕は度々「たまむすび」というラジオ番組について書いていますが、その番組のパーソナリティは赤江珠緒さんという方です。ご存じの方も多いでしょうが、赤江さんは元々はテレビのアナウンサーでした。その赤江さんが1~2年ほど前、番組の中でのパートナーの方とのやり取りで「ハガキ職人」という人の存在を聴いて、「ええ!?」と大きな声を発したことがありました。「ハガキ職人」の存在を知らなかったからですが、自分が今までリスナーからのお便りだと思っていたメールなりハガキが「実は、ハガキ職人の可能性がある」と知ったときの驚きの声でした。

僕は赤江さんの驚きの声を聴いて、反対に驚きました。テレビやラジオ業界で長い間働いていながらそうした実態を知らなかったことが驚きだったのです。大きな声を発したあと、少しばかり落ち込んだ雰囲気がありましたが、パートナーの方がうまく流してくれたことでことなきを得たように感じました。実際のところはわかりませんが、根が真面目な赤江さんですので、「本来のリスナーの方からではないハガキ」に違和感を持ったのではないでしょうか。

その日のパートナーはお笑い芸人の方でしたが、その方は「ハガキ職人」の存在は当然のような感覚になっていました。しかし、一般の人の感覚では、少なくとも僕の感覚では「ヤラセ」です。投稿メールやハガキが読まれたときに、あまりにうまいネーミングのとき、僕はほとんど疑っています。一般の素人の人では思いつかないような「洒落て」いたり、「ウィットに富んで」いたり、「面白かったり」したときは間違いないと思っています。

僕は「ハガキ職人」は「ヤラセ」と同じと思っていますが、中には中間に位置するような人がいるのも事実です。先ほど「ハガキ職人」は「文章を書く仕事の修行の場」と書きましたが、仕事ではなく、純粋に趣味でやっている人もいるからです。以前ラジオの取材に答えていた人は学生さんでした。自らノルマを課して授業中や空いている時間にコツコツと投稿している、と話していました。

もしかしたなら、趣味と言いつつ就活の一端として投稿している可能性もありますが、修行の立場ではありませんので、まだ「ヤラセ」とまでは言えないように思います。ですが、紙一重であるのは間違いありません。

今回はラジオで発覚しましたが、今の時代は個人でも情報発信ができるのですからテレビ業界やメディア業界の方々は注意が必要です。「ヤラセはすぐに発覚する」どころか、「ヤラセは見られている」と考えて番組を作るくらいの気持ちが必要です。

じゃ、また。




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