先週のつづきです。先に結論を書きますと、僕が最も警戒していた「ぼられる」を受け入れてしまう羽目になってしまいました。悩みに悩んだのですが、状況が心理的に緊迫していましたので致し方なく受け入れてしまったのでした。
おさらいの意味も含めてこれまでの流れを書きますと、自宅の排水桝が壊れており、その修理をある業者にお願いしたところ、その業者は排水桝の修繕の経験がなさそうな雰囲気が漂っていましたので「見積もり」だけをお願いすることにしました。その業者の方が帰ったあとに急いでほかの業者を探すことにした、までが先週書いたことです。
結局僕が電話問い合わせをした業者は4つなのですが、わかりやすいように電話をした順にA社、B社、C社、D社とします。A社はすでに書きましたように「見積もり」だけをお願いすることにしたのですが、正直に告白しますと、「見積もり」をお願いした段階ですでにお断りする心づもりではいました。ちなみに、のちに届いた見積額は11万円でしたが、メールにて丁重にお断りをしました。
さて、A社が帰ったあとに急いでほかの業者を探したのですが、どこも忙しいようで下見にくるのに数日を要すると言われてしまいました。すべての業者にそのような対応をされてしまいますと、不安と焦りが高まってくるのは自然な感情です。
先週のコラムで、A社の方が下見に来たときに、「壊れて穴が開いている個所に手袋をつめて排水が建物下に入らないようにしていた」と書きましたが、その様子を見て僕は「応急処置として、その穴を自分で塞ごう」と考えました。以前雨戸を修理したときに購入した水に強く丈夫で加工しやすいプラスチック板が残っていたことを思い出したからです。
自分でいうのもなんですが、これはとても上手くできました。応急処置としては満点に近いと自負しています。この処置でとりあえずは排水が建物下に侵入するのをある程度防ぐことができますので安堵する気持ちになっていました。
話を戻しますと、A社の方が帰ったあとすぐに3つの業者に問い合わせました。その日は土曜日でしたが、下見に来られる日にちが「B社は火曜日」、「C社は金曜日」、「D社は月曜か火曜だが、確実な約束はできない」という返答でした。しかし、僕の中では応急処置ができていましたので、それほど焦っている気分にはなっていませんでした。
そうした状況のとき、その日のお昼過ぎあたりに突然B社の方から電話がありました。「火曜日に下見に来る」と話していた業者です。「ほかのところへ修繕に行く途中に近くを通りますので下見だけですが、寄ってもいいですか?」という内容でした。もちろん僕は快諾しました。
やってきた業者さんは50半ばの男性で、言葉遣いも振る舞いも丁寧で感じがよく明るい方でした。その方は排水桝を見ながら「なるほどなるほど…」とつぶやくように声を発していました。僕が「こんな大きな穴、塞げますかね?」尋ねますと、「全然大丈夫ですよ。もっとひどいのをたくさん見ていますから」と答えました。その方はスマホでこれまでの修繕した写真を幾つも見せながら説明してくれました。
朝一番に来たA社の方が「これは、左官業の方に頼んだほうがいいんじゃないですか」と言っていたのとは正反対です。しかも、排水桝の修繕とそこにつながっている排水管すべてに高圧洗浄をかけて総額で「5万5千円(税込み)」という「見積もり」を言ってきました。
A社の方が排水管一つを高圧洗浄するのに2~3万円と話していましたので、それに比べますと格段に安いことになります。僕はその時点で「この方にお願いする」ことを心の中で決めました。ですが、これまでいろいろな辛酸を舐めてきた僕ですので簡単に決めることはしません。
口約束だけですと不安ですので見積書に書いてもらうことと、「妻にも相談したいので正式な返答は明日まで待ってほしい」旨をお願いしました。僕の要望を快く受け入れていただき、作業日を来週の金曜日とすることにしました。
B社の方に決めましたのでC社の方にはお断りの電話を入れました。しかし、D社とは下見に来る日にちを決めていませんでしたのでなにも対応はしていなかったのですが、なんと午後3時頃にD社の方が突然来訪しました。30才前後の若い男性でしたが、D社さんとは下見の日にちを正式に決めていませんでしたので驚く気持ちの方が強かったのが正直なところです。しかも心の中ではすでにB社の方にお願いする気持になっていましたので戸惑いもありました。ですが、せっかく来ていただいたのに無下に断るのも悪いと思い、排水桝を見てもらうことにしました。
この思いが悪い展開のはじまりでした。実はそのとき、僕の心の中には少しずつ灰色の雲が広がりつつあったのです。その「灰色の雲」とは、僕の応急処置に関係があります。僕が施した応急処置は排水が建物の下に侵入することを防ぐ目的でしたが、少し経ってからよくよく考えたところ、大事なことが一つ思い浮かんだのです。それは排水桝から下水道へつながっている排水管の「詰まり」です。
排水桝の壁面の一つが壊れたということは、もしかしたなら「下水道へつながっている排水管が詰まっている」ことの裏返しなのではないのか、と想像したのです。もし仮にその排水管が詰まっているなら僕の応急処置はなんの意味もなさないことになります。それどころか、それまで建物の下に侵入していた排水が流れ出ていく先がなくなり排水桝に溜まるばかりで最終的には排水桝周り一帯にあふれ出る可能性があります。それが「灰色の雲」の正体でした。
そのような不安な気持ちが充満しているタイミングでやってきたのがD社の若い方です。その方は排水桝を見て的外れなことを聞いてきました。例えば、「雨水はどこに流れてきているのか?」とか「この排水桝のほかにも排水桝があるはずだから…」と家の周りを見て回ったりしていました。
そのような動きをする担当者を訝しく思いながら、「私がお願いしたいのは、この排水桝を修繕することと、この排水桝から下水道につながっている排水管が詰まっていないか、確認してほしいです」と話しました。するとその若い方は排水管に手を入れてなにやら動かしながら「石が詰まっているみたいですね」と言ってきました。さらに追い打ちをかけるように「こういう石とかを取り除く器具で作業をしますと5万円ですが、どうしますか?」と問いかけてきました。
僕は頭の中でいろいろな思いが駆け巡りました。
排水桝の修繕をお願いした業者さんが来るのが6日後です。もし、排水管が本当に詰まっているなら6日後まで排水桝から排水があふれ出続けることになります。僕は必死に考えました。もちろん、修繕をお願いした業者さんに依頼しても「排水詰まり」は直してくれるでしょう。ですが、繰り返しになりますが6日後です。それまの期間がとても不安でした。僕は一生懸命悩みました。
結局、僕は不安に負けてしまいその業者にお願いすることにしたのです。作業自体は本当に簡単で、専門業者が使う排水管の詰まりを解消する道具(あとで調べたところ「ドレンクリーナー」というらしいです)でものの10分もかからずに作業は終了しました。
10分で5万円です。道具の価格は10万円以上するようでかなり高価ですが、それでも「ものの10分で5万円」です。僕の悔しさがわかるでしょうか。以前トイレが詰まったとき、業者に依頼して4万5千円支払ったことがあり、その悔しさから自分で高圧洗浄機を購入して次に「詰まった」ときは自分で解消しました。高圧洗浄機は確か8千円くらいでしたが、ドレンクリーナーは10万円以上です。仕方ないとはいえ、やはり悔しい気持ちは免れません。
6日後、排水桝の修繕は排水管の高圧洗浄も含めて3時間ほどで終了しました。その作業代はD社の方が行ったドレンクリーナーだけを使った作業と同じ金額です。どちらが良心的かは言わずもがなです。僕が下水道へつながっている排水管の「詰まり」が心配になったのは、業者に問い合わせをする前日に自分で排水管の詰まりを調べたときのことを思い出したからです。
そのときは排水管の出口のほうから高圧洗浄機の先端を入れて排水桝のほうに向かって進めていき「詰まっていないか」を調べました。ところが、行けども行けども入り口にたどりつけませんでした。そうしたことが「排水管が詰まっているかも」と不安に思った理由です。
ドレンクリーナーを使った業者の方が作業をしているときにわかったのですが、僕が前日に調べていた排水管は我が家のものではなく隣家の家の排水管でした。いくら高圧洗浄機の先を進めようとも、排水桝にたどり着けなかったのは当然のことだったのです。それも含めて「いやぁ、悔しい!」です。
というわけで、今回の「排水桝騒動記」は終了です。僕の体験がどなたかのお役に立てば幸いです。
じゃ、また。