とうとう江藤農林水産大臣が辞任に追い込まれ、新たに小泉進次郎氏が就任しました。しかし、小泉大臣の先には茨の道が待っているのは間違いのないところです。なにしろ自民党に限らず、野党にも農林族がたくさんいますから。小泉大臣が就任してすぐに「5キロ2,000円」とマスコミに語ったのは、僕には農林族に対する狼煙のように思えました。
報道によりますと、小泉氏を農林水産大臣に推したのは菅元首相とのことですが、最近ではまったく表に出てこない菅氏が、まだ力を持っていることがうかがい知れました。その菅氏の後ろ盾で、先の選挙で総裁選に立候補した小泉氏でしたが、僕から見るとまだまだ経験・実力不足の感がありました。僕の穿った見方では、菅氏が院政を敷きたくて小泉氏を担ぎ上げたのか、とさえ想像してしまいました。
自民党で総裁になるということは、一国の総理になることですから、相当な経験・知見が必要です。そうした点から考えても、小泉氏は時期尚早だと思っていました。その意味で言うと、今回の農林水産大臣への就任は修羅場を経験する点で試金石になるのは間違いありません。繰り返しになりますが、農林族の抵抗は半端ではありません。
お父様の純一郎氏が総理大臣になったとき、「自民党をぶっ壊す」をキャッチフレーズに総裁選を戦っていたことを憶えている人は多いでしょう。その一丁目一番地が「郵政改革」だったのですが、「自民党をぶっ壊す」くらいの気概がなければ「郵政改革」ができないことの表れでもありました。なにしろ当時の郵政族は、強力を通り越して絶対的でしたから。
当時の郵政事業は郵便の非効率もさることながら、郵便貯金や簡易保険で集めた資金を官僚や一部の政治家が好き勝手に采配できる制度になっていたことが、一番の問題でした。当時、大蔵大臣(今の財務大臣)を務めていたのは「塩ジィ」の愛称で親しまれていた塩川正十郎氏でしたが、その塩ジィが「郵便貯金や簡易保険が第二の予算になっている」と会見で説明していた姿が今でも頭に残っています。
小泉首相は一応はなんとか郵政改革を成し遂げましたが、実はその改革を継続させることのほうが「何倍もむずかしい」と思わされる報道が最近ありました。それは、日本郵政社長の増田寛也氏が退任し、後任に元郵政相の官僚が就任するという人事の発表です。ある経済誌では「郵政民営化の揺り戻し」と見出しを打っていましたが、郵政族議員の力が衰えていないことの証左でもあります。
最近、「飲酒で配達」とか配達前の「点呼不備」などのニュースが多いですが、考えようによってはマスコミが「郵便事業への批判を婉曲に行っているのではないか」と感じないでもありません。それほど大きなニュースでもないのに繰り返し報じられるからですが、僕の考えすぎでしょうか。
先ほど、「郵政族議員の力が衰えていない」と書きましたが、そう思わせるニュースがもう一つありました。自民党内の“郵政族”議員が、全国郵便局長会(全特)の要望を受け、郵便局網の維持のために財政支援を行うことなどを盛り込んだ郵政民営化法の改正案を検討しているというニュースです。詳細は省きますが、この全特という組織は「一部の人たちだけが利益を得るシステムになっている」と経済誌で批判されています。こうしたニュースに触れると、小泉政権が成し遂げた郵政改革が元の木阿弥に戻りつつあるように思えて仕方ありません。改革を行うことよりも、改革を継続することのほうがいかに難しいかを実感させられる出来事です。
そうしたことを思うとき、僕は小泉政権よりふた昔前の中曽根康弘政権の見事さを思わずにはいられません。中曽根氏はマスコミから「風見鶏」と揶揄されることもありましたが、実際には将来に意義のある改革を幾つもやっています。その中でも僕が最もすごいと思うのは「国鉄・電電公社・専売公社の民営化」です。「民営化」ということは、それまで「民営」ではなかったことを意味しますが、特に国鉄の民営化は並大抵のことではありませんでした。理由は労働組合の抵抗です。
今と違って、当時の労働組合は強大な力を持っていました。しかも、上記の3つは民間企業ではありませんので、赤字になれば国が損失を埋めてくれる仕組みです。倒産の心配がないのですから、どこまでも要求を突き付けることができます。その結果、さらに組合の力が強くなる、という悪循環に陥っていました。そして、こうした組織の特徴として、人事を決める決定権まで持っているケースが多々あることです。。
上記の3つの中でも特に記憶に残っている民営化は「国鉄」です。国鉄には「国鉄労働組合」とか「動力車労働組合」など力の強い組合が複数あり、その抵抗は尋常ではありませんでした。そうした反対勢力を抑え込み、民営化を実現させたのですから、僕が中曽根氏の実行力を「見事!」と評価する理由もわかっていただけると思います。
民営化される前の国鉄は、累積した赤字が莫大でしたし、電電公社もNTTに衣替えしたことで今のITの進歩があります。もし、これらが成功していなかったなら、今の日本の繁栄はなかったでしょう。中曽根政権の改革は、それほど大きな功績でした。
もう、今からJRが国鉄に戻ることも、NTTが電電公社に戻ることも、「JT(日本たばこ産業株式会社)」が専売公社に戻ることもないでしょう。それに対して、郵政事業は元に戻りそうな気配を感じます。そして、今回の小泉農林水産大臣の改革です。
前にも少し書きましたが、コメの高騰が起きたとき、経済誌では農協批判の記事がありましたが、テレビなどではあまり報じられませんでした。しかし、小泉大臣の登場により、少しずつ農協の問題点が指摘されるようになってきました。例えば、備蓄米の放出に際して落札したのはほぼすべて農協だったのですが、以前は「大手集荷業者」としか報じられていませんでした。中立を標榜するマスコミとして特定の名称を避けた、という見方も理解できないではありませんが、政治からの批判を恐れたという見方もできないではありません。
このように報道においてさえ微妙な関係があるのですから、実際に政策を実行する小泉大臣の手綱さばきの難しさは相当なものでしょう。小泉大臣がスーパーを視察する映像が流れたとき、小泉大臣が空になった米売り場を見ていると横から「農家のことも考えて」という声が発せられました。そのとき小泉大臣はその声を無視することなく、声をしたほうに顔を向け、軽くうなづいていました。その振る舞いを見て、僕は小泉大臣は期待できると思いました。消費者目線だけでは農業改革ができないことをわかっている、と感じたからです。
実は、小泉大臣は2015年から2年間、「自民党農林部会長」を務めています。おそらくそのときに農業界、もっと言えば農協の問題点を痛いほど理解していたと思います。例えば、本来農協は農家に資材や耕具などを安く提供するのが役目のはずです。しかし、実態はその反対のことを行っています。このように書くと批判されそうなので、「あくまで個人の印象です」と付け加えますが、農家の支援とは正反対のことを行っているのが実態です。
小泉大臣は「自民党農林部会長」時代に、農協の抵抗力の強さも肌で感じているはずです。そうした経験生かして、ぜひともお父様の純一郎氏のように中途半端で終わるのではなく、中曽根氏のように完遂していただきたいと期待しています。
抵抗勢力って恐怖ですよね。僕は我が家で実感しています。
じゃ、また。