<肩書きと責任と報酬>

pressココロ上




熊本地震の際にイオンモールで爆発が起き、7人の方が犠牲になったと報じられています。全員テナントの従業員とのことですが、僕が気になったのはその方々が「一度は避難していた」ことです。そうした状況で、マスコミ等で問題になっているのは犠牲者を出したバラエティショップの営業部長の指示のあり方です。

その部長が「戻れるのであれば、売上金を金庫に保管してほしい」と依頼したことが、爆発に遭遇してしまった大元の要因だと思えるからです。僕が見たニュースでは、部長は「自らの指示の責任」と認めていましたが、実際の流れはもう少し入り組んでいるようでした。

当日は店長がお休みで従業員2人で営業しており、部長は休日中の店長に連絡をとったそうです。その店長が従業員に指示内容を伝え、それを受けた従業員が店内に戻り、そこでガス爆発に遭っています。繰り返しになりますが、部長は「戻れるのであれば、売上金を金庫に保管してほしい」と指示を出しています。僕は、この「戻れるのであれば」というフレーズがこの事故の大きな要因だと思っています。

このフレーズは伝える際のニュアンスによって受け取り方が大きく違ってきます。「お金第一」に考える人のニュアンスで伝えますと「強制とは言わなくても、半強制的」な言い方になりますし、「従業員の命第一」に考える人のニュアンスですと「戻らなくてもいい」という意味合いを強く含んだ言い方になります。

さらに、難しいのは伝言になっていることです。間に店長が入っているのですから、店長の考え方でニュアンスも変わってきます。また、言うまでもなく、受け取る側の感じ方でも意味合いは大きく変わってきます。今となっては、どういったニュアンスで「伝えた」のか、または「受け取った」のかを確定することは困難ですが、どちらにしても前段はどうであれ「売上金を金庫に保管してほしい」と指示したことは間違いありません。営業部長の責任は免れないと思います。

ですが、僕はそれ以前に「もっと重要なことに触れられていない」と思っています。それは、店舗運営における責任(者)の所在です。今の時代は飲食店とかアパレルショップとか、それこそ今回被災したバラエティショップのようなお店は、現場で働いている方々の多くは正社員ではなく、パートとかアルバイトさんです。理由はシンプルで、企業が人件費を削ろうとしているからです。

ある衣服を販売しているチェーン店は、ほぼパートさん・アルバイトさんだけで店舗運営していることを誇らしげにアピールしています。企業の論理からしますと、それは人件費を使わずに利益を出しているのですから自慢できることです。しかし、それは僕からすると「責任の押しつけ」のように映ってしまいます。「押しつけ」にはマイナスのイメージがありますが、肩書き(仕事の内容)とお給料が見合っていないことを意味します。

仮に、店長の月給が50万円だったとき、その店長の仕事を時給1300円(月給換算約23万円)のパートさんに任せたなら企業の利益は上がって当然です。僕が「押しつけ」と感じる理由はここにあります。店長の仕事とパートさんの仕事は内容が違って当然です。仕事の内容が違うことは責任の重さと比例もしますが、パートさんに店長と同じくらいの責任の重さを求めたなら誰もパートになど応募しないでしょう。ですが、実際はなし崩し的にパートさんの責任が重くなっています。反対に、店長の仕事がパートさんと同じならその企業はすぐに倒産するでしょう。

役職(肩書き)と責任は比例するのが一般的です。そこで、僕は疑問に思うのです。店長がお休み(不在)のときに、パート・アルバイトに店長の代行をさせることの是非です。今回のイオンモールでの爆発も元をたどればそこに行きつくと思っています。

マスコミでは亡くなった方の雇用形態を報じていませんので、正確なことはわかりませんが、「店長でない」ことは確かです。今の段階で「もし」を使うのは不適切ですが、もし、亡くなった方がパート・アルバイトといった非正規社員であったなら、そこまで責任を負わせたことの是非を考えるべきです。

営業部長が店長に「戻れるなら」と指示するのは役職(肩書き)に見合っていると思いますが、店長でない従業員(パート・アルバイトであったなら、なおさら)にそこまで指示するのには違和感があります。役職、もしくは雇用形態と責任の関係について、普段からもっと考えていたなら、今回の惨劇も防げたかもしれません。

僕がラーメン店を営んでいたとき、求人募集に40歳くらいの男性が応募してきたことがあります。その方が面接のときに「金銭の授受はあまりしたくない」と言ってきました。初めて聞いた要望でしたので、少し驚いたのですが、「お金の責任を負いたくない」という理由でした。もちろん、僕のお店のような小さな規模ではそれは不可能ですので、なんとかお願いをして了承をしてもらった記憶があります。

今の時代ですと、自動券売機など手段はあるのでしょうが、30年以上前ですので飲食店で金銭授受をしない仕事はあり得ません。ですが、これもある意味、雇用形態と責任の関係性とも言えそうです。アルバイトという立場で「お金が合わなかったときの責任」を負わされるのは「まっぴらだ!」ということだったと思います。

今でこそ、こんな偉そうなことを書いていますが、ラーメン店を営んでいた頃は「雇用形態と責任および給料」の関係など考えてはいませんでした。単に、「儲かればいい」としか考えていませんでした。ですが、年を重ねるに従い、「儲け方について」も少しずつ考えるようになり、「儲けるにも正当法で儲けなければ意味がない」と考えるようになったのです。

その観点で言いますと、今の時代の役職(肩書き)と責任の関係が曖昧なことに抵抗感があります。人によっては、肩書きが上がるだけで満足、納得する人もいますが、そういう人は世間体を気にする人だけです。普通の人が「肩書きが上がる」ことを喜ぶ理由は、お給料も上がるからです。ですが、そのお給料アップが責任に見合っていないなら、誰も出世したいと思わないでしょう。最近の若い人は「出世を望まない」という記事を読んだことがありますが、「役職(肩書き)と報酬、待遇のバランス」に疑問を持っているのかもしれません。たまに、役職が上がったことで「残業代がつかなくなって、手取りが減った」と聞くことがありますが、これなども役職(肩書き)とお給料が見合っていないことを示しています。

しかし、こういうケースはまだいいほうです。正規社員でもないパート・アルバイトさんに大きな責任を負わせている企業は自らの利益だけを考えているとしか思えません。娘が高校時代、娘の友だちは牛丼店で「店長代行」のような仕事をしていたそうです。なにしろ「大学の学費を自分で貯めよう」と思っていたほどガッツのある友だちでしたので、空いている時間はすべてバイトに費やしているようでした。

僕はその友だちを「偉い、すごい!」と思っていましたが、そういう企業のシステムには違和感を持っていました。高校生が「店長代行をする」のは納得がいきません。正確には「高校生」というよりも「アルバイト」という雇用形態の若者に大きな責任を負わせていることに対してです。それこそ店舗でトラブルが起きたとき、高校生に責任を負わせるのでしょうか。

娘の話は今から20年以上前ですので、現状をAIで調べたところ、現在でもアルバイトが「店長代行」の仕事を担うケースはあるようです。さらに、「タイムリーダー」とか「時間帯責任者」などといった役職名もあるようですが、「店長」とか「リーダー」といった店舗の幹部を思わせる役職名をつけているところから察しますと、それなりの責任は負わされているようです。仕事は責任を負わされれば負わされるほど、「能力・実力が上がる」側面がありますので、一概にそれ自体が悪いことだとは思いませんが、若い人の上昇志向に乗じて、従業員を安く使おうとしているなら、決して褒められたことではありません。

覚えている方もいるでしょうが、数年前ある牛丼チェーンで「ワンオペ」が問題になりました。深夜に一人でお店を運営させていたのですが、そもそも一人でお店を運営させることになにも感じなかったのか、不思議です。

当時、僕は同チェーン店で月に一度妻と食事をしていました。いつも行くそのお店は席数30席~40席くらいはあるそれなりの規模のお店でした。ある日、そのお店に行きますと、お昼時ということもありましたが、普段よりも行列ができていました。それでも並んで席に着き、注文して食事を終えて支払いをするためにレジの前に行きました。そこでなにげに厨房内を見ますと、食べ終わった食器が山のように積まれていたのです。普段ならきれいに片付いているその場所が食べ終わった食器で山のようになっていたのです。

僕は不思議に思い、従業員を探しますと、なんと2人しかいなかったのです。普段なら4~5人でお店を切り盛りしていたはずですが、その日はたったの2人しかいませんでした。一人が料理を作り、もう一人が料理を運び、食器を下げていました。たったのその2人だけでした。僕は思わずレジの若い女性に尋ねました。「二人でやっているのですか?」。すると中で調理をしていた男性も僕の声に気づいたのか、チラリと僕を見たのですが、レジの女性は必死の形相で「ハイ」と答えました。

こうした状況を本部は放置してはいけないです。普段4~5人で回している店舗をたった2人で回せるはずがないです。その証拠に2ヶ月後、そのお店は閉店しました。そもそも僕だったら、2人で運営することになったら、仕事を休みます。たかが仕事にそこまで命を懸ける必要はないですよ。

でもね。そういうときに軽々しく休む決断をする人は、年をとったらこうやってブログを書くだけの人になります。

じゃ、また。




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