<勝ったー!>

pressココロ上




僕は毎週土曜日の午後10時頃からはメールチェックをしながらTBSの「情報7days ニュースキャスター」を見ています。しかし、昨晩はバレーボールの試合を中継していました。ですので、久しぶりにリアルタイムでバレーの試合を見ることにしました。なかなか白熱した試合で一生懸命応援したのですが、残念ながら負けてしまいました。考えてみると、普段リアルタイムで見ない僕が、たまたま見たことが敗因かとも思ったりもしたのですが、実際はどうなのでしょう。

僕が見はじめた時は、1セット目を取られたあと2セット目を勝利し、3セット目の終盤でした。その時点での試合の流れは日本に傾いており、結局3セット目も「25―20」で勝利はしたのですが、なんか嫌な空気がなきにしもあらずでした。それは試合を伝えていたTBSのアナウンサーがしきりに「あと1セット勝てば決勝進出です」と声を張り上げていたからです。

たまに言うのならいいのですが、何度も何度も「あと1セット勝てば決勝進出です」と繰り返していました。その言葉が気になって気になって仕方ありませんでした。そんなアナウンサーですから、4セット目がはじまったあとも日本が得点を重ねるたびに、「このセットを取れば、日本は決勝進出です」とか「メダルが確定します」と叫んでいました。

おそらくこのアナウンサーはスポーツの経験がない人です。もしくはサークル的なスポーツの経験しかしていない人です。真剣にスポーツに取り組んでいた人は安易に「勝利が決まった」あとの仮定の話はしないものです。

高校時代のことです。これまで書いていますように、僕が入ったバレー部は校内で一番練習が厳しいクラブでした。先輩後輩の厳しい縦関係の戒律を知ったのもそのクラブでした。そうは言いましても、公立高校でしたので、私立のような権威主義で固められた雰囲気ではありませんでした。

なにしろ私立の強豪校ではミスをすると試合中でも監督からビンタをされていました。僕は昭和男で「巨人の星」や「あしたのジョー」に感化された年代ですので、スポ根物語には感動する心根があります。ですので、ある程度の厳しいスポーツ環境を受け入れる素養はありましたが、私立の強豪校の厳しさには耐えられなかったと思います。その意味でいいますと、ちょうど僕の根性レベルに見合っている厳しさで、本当に運がよかったと今でも思っています。

このようにそれなりに厳しいクラブに入っていた僕の1年生のときの出来事です。学内で一番練習が厳しいクラブでしたので、春に二十数名いた1年生部員も、夏を過ぎた頃には6~7人になっていました。つまり、夏を過ぎても残っていた1年生はそれなりの厳しさに耐えられた人たちということになります。その中の一人にT君がいました。

彼は、僕のように高校に入ってからバレーをはじめたのではなく、中学でもバレー部に入っていた、僕よりバレーの経験がある人でした。しかも、それなりに強い中学だったようです。ある試合の日のことです。1年生は試合に出られるはずもなく、ベンチのうしろから声援を送っていました。単純な僕は下級生の部員というよりも、試合を一観客として見て一喜一憂していました。

試合も終盤にさしかかった頃、3年生のエースが得点を決めたあと、興奮した僕はつい「よっしゃー! 勝ったー! 勝ったー!」と大声で叫んでいました。すると、隣に座っていたT君が「こういうときに、そんなこと言ったらダメだよ!」とたしなめてきました。T君は「試合が最後に決まるまで、“勝つ”という言葉を使っちゃいけないんだ!」と注意をしてきたのです。

僕は中学時代も運動部に入っていましたが、それほど厳しいクラブではなかったので、そのような話を聞いたことがありませんでした。強いクラブというのはそういうことも教えてくれるんだなぁ、と感心した思い出があります。その経験以降、僕は結果が決まる前に軽々しく「勝つ」という言葉を発することに躊躇するようになりました。

それなのに、あのTBSのアナウンサーは何度も何度も、「このセットを勝利すればメダルが確定です」と叫んでいたのです。僕は昨晩日本が負けたのはこのアナウンサーのせいだと思っています(笑)。本日、3位決定戦があるそうですが、TBSアナウンサーが是非とも「勝利」とか「勝つ」という言葉を使わないことを願っています。

そんなTBSなのですが、僕はTBSに対して、人事や出演者の遇し方に好感を持っています。例えば筑紫哲也さんです。筑紫さんは自分の名を冠した「筑紫哲也 NEWS23」というニュース番組でメインキャスターを務めていましたが、ご病気で亡くなるまで18年間続いていました。

筑紫さんで僕が一番印象に残っているのは、日本人で初めてメジャーへ渡った野茂英雄投手へのインタビューです。当時、業界的にもマスコミ的にも野茂投手に対しては批判的な意見が大半でした。週刊誌的な視点で説明しますと、所属していた近鉄と契約交渉で決裂し、近鉄が画策してマスコミが野茂投手を批判する流れを作ったからです。野茂さんに関しては、これまでに幾度か書いていますが、当時の監督との軋轢もありました。そんな状況下の野茂さんに筑紫さんはインタビューを行ったのです。筑紫さんの報道姿勢が垣間見えたインタビュー映像でした。おそらく野茂さんも筑紫さんだからこそ、インタビューを受けたのでしょう。

今は日本人選手がメジャーへ行くのもごく普通な流れになっていますが、その端緒を作ったのは紛れもなく野茂英雄さんです。もちろん、メジャーでも結果を出したからこそですが、その意味でも野茂さんは「尊敬に値する人」と思っています。大谷さんもイチローさんも凄いし素晴らしいし偉いですが、僕が最も凄くて素晴らしくて偉い野球選手は野茂英雄投手だと思っています。

近鉄の悪口ばかりを書くのは申し訳ないですが、当時の近鉄は選手を人というよりも駒としか考えていなかったように思います。その点、TBSは違っていました。筑紫さんを最後まで厚遇していましたし、僕がこのコラムでよく書く森本毅郎さんに対する境遇も同様です。森本さんはNHKを退局してTBSでキャスターを務めているのですが、以来ずっと大切に遇されています。

半年くらい前ですが、森本さんが体調を崩して2ヶ月くらいお休みしたのですが、その間ほかのアナウンサーが代理を務めて復帰を待っていました。この番組はなんと37年目に入っています。今回TBSについて書こうと思ったのは、本日の「サンデーモーニング」に張本勲さんが出演していたからです。ご存じのように張本さんはスポーツコーナーでの「喝!」という台詞が有名でしたが、高齢でレギュラーを退いています。ですが、あっさりと引退させるのではなく、きちんと定期的に出演しています。これはTBSが張本さんに対してリスペクトしている証です。

その「サンデーモーニング」の現在のメインキャスターは膳場貴子さんですが、その膳場さんに対するTBSの待遇も好感が持てるものです。膳場さんもNHKからTBSに異動してきた方ですが、NHK出身というネームバリューを一時的に重宝するのではなく、ずっといろいろなニュース番組でメインキャスターに起用しています。簡単に「切り捨て」ていないところが素晴らしいです。膳場さんがメインキャスターを務めてきた番組は「筑紫哲也 NEWS23」の後を継ぎましたし、TBSの看板番組である「報道特集」のメインも務めていますし、同じく日曜朝の人気番組である「サンデーモーニング」にも抜擢されています。

TBSにはほかにも草野仁さんというNHK出身のアナウンサーがいるのですが、この方も「世界ふしぎ発見!」という人気番組のキャスターを約38年務めていました。現在は定期放送ではなく不定期で放映しているようです。この番組の草野さんに対する待遇も、後半ではMCをTBSのアナウンサーに譲り、「クイズマスター」というご意見番的な立場で出演を続けていたのですが、そういうTBSの姿勢も好感が持てます。

このようにTBSは全体的に、異動してきたアナウンサーを簡単に首を切らない事例が目につきます。これは偶然ではなく、局としての根本に「人を大事にする」考え方があるように思えて仕方ありません。TBSでは朝の番組にお笑いコンビ・麒麟の川島明さんがMCを務めている「ラヴィット!」という番組があります。この番組は開始当初視聴率が極端に低迷しており、いろいろ批判する意見も多く、炎上することも多々ありました。しかし、諦めることなく地道に改善をして、現在ではそこそこの視聴率をとるようになっています。これも「簡単に首を切らない」好事例だと思います。

今週はTBS絶賛で終わってしまいますが、毎週読んでくださっている方の中には「今週は最後のオチがないのか」と思った方もいるかもしれません。ですが、「オチがないのがオチ」だったんです。

ウフフ、勝ったー!

じゃ、また。




シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする