<おっちょこちょい>

pressココロ上




お待たせいたしました。結局、なんだかんだ言いながら3週間にわたって延びていました「江川投手」について書きます。先週は、江川投手より一世代前に怪物と呼ばれていました松坂投手について書きました。松坂投手は「平成の怪物」と呼ばれていましたが、その一世代前に「昭和の怪物」と呼ばれていたのが「江川投手」です。

「怪物」に似た言葉に「怪獣」がありますが、僕が「怪獣」という言葉を聞いて真っ先に思い浮かぶのは、なんと言ってもウルトラシリーズです。僕が小学校低学年の頃はウルトラマンやウルトラセブンなどウルトラリーズのテレビ番組を食い入るように見ていました。そのウルトラシリーズにはいろいろな怪獣が出てきますが、その中で僕が一番記憶に残っているのは「カネゴン」という怪獣です。

カネゴンは「お金、つまり紙幣や硬貨を食べ続けていないと死んでしまう」設定でしたが、子供ながらに、そうした設定に感動した覚えがあります。今から50年以上前に、お金に執着しすぎることの弊害を訴えていたことには驚かされます。ウルトラマンシリーズは子どもの心を掴んだヒーローですが、大人になって考えますと、ひと言もしゃべらずに正義の味方になっているのが凄いところです。

普通の人間は自分をアピールするために、または誇示するために必死にしゃべり続ける傾向があります。しかし、ウルトラの方々はひと言もしゃべりません。ただ「シャー」と言ってるだけで、あとは行動で示しています。余計な言葉を発せずに、黙々と自分の使命を果たす姿は、まるで高倉健さんのようで清々しさを感じてしまいます。

そういう人に比べて、僕は小さい頃からおっちょこちょこちょいでおしゃべりだったのですが、僕のような人間は絶対に正義のヒーローになる資格はないことになります。そういえば、僕はこの「おっちょこちょこちょい」な性格は、大人になったら直るものだと思っていましたが、65才の今になっても直っていませんので年齢は関係ないようです。

それはともかく、たまたま昨日テレビで漫画家の谷口ジローさんを紹介する番組をやっていました。僕は、最初のうちはパソコンをやりながら横目で見ていたのですが、次第に谷口さんの魅力に引き込まれてしまい、途中からは本気で見てしまいました。

谷口さんは「孤独のグルメ」という漫画の作者として有名だったようですが、僕が知らなかった一番の理由はタイトルに「グルメ」という言葉が使われていたからです。僕は30才から40代前半までラーメン店を営んでいましたが、僕はお客さまたちの口から発せられる「ウンチク」が嫌いで嫌いで仕方ありませんでした。

もうすぐお正月になりますが、僕がお正月番組でとても気に入っているのはダウンタウンの浜ちゃんがMCをしている「芸能人格付けチェック」です。芸能人の本当の実力があからさまになるのは見ていて痛快です。料理の本質を見抜いているのは、または理解しているのは連勝を続けている「GACKT」さんだけで、ほかの人たちは料理の表面的な知識を語っているにすぎない実態がわかります。

これは一般人にも当てはまるのですが、それにもかかわらず偉そうにウンチクを語る人をラーメン店で見ていました。中には、お店の運営についてもアドバイスをしようとする人がいましたので辟易していました。そうした経験がありましたので、根本的に僕は「グルメ」という言葉に敏感に反応する体質になっています。ですので、「孤独のグルメ」という漫画にもさして興味を持てなかった、というよりは遠ざけていたように思います。同じ理由で「おいしんぼ」という漫画に対しても同様の気持ちを持っています。

僕はこうした経験がありましたので、できるだけ「グルメ」という言葉から遠ざかろうとしていました。ですので、「孤独のグルメ」も谷口さんについても一切知りませんでした。

ところが、昨日のテレビで、谷口さんの丁寧に詳細に描かれている絵の素晴らしさを紹介していました。特に番組後半からは「歩く人」という漫画を取り上げていましたが、「歩く人」がほかの漫画と根本的に違っているのは、台詞が全くないことです。登場人物がひと言も話さないのですが、これはウルトラマンと同じです。ちなみに、「シャー」も言いません。

では登場人物はなにをしているかといいますと、タイトルのとおり「ただ歩いているだけ」です。それでも十分に登場人物の気持ちや思っていることを絵が伝えています。それが可能なのは、素人である僕が言うのは憚れますが、谷口さんの画力が素晴らしいからというほかありません。ウンチク嫌いの僕ですので、谷口さんのどこが、なにが素晴らしいかは言いませんが、見る人を惹きつける魅力があるのは確かです。

僕が「孤独のグルメ」に今一つ魅力を感じなかったのにはあと一つ理由があります。それは原作と漫画の作者が違っていることでした。なんとなくですが、作者が原作も考えている方が漫画として格が高いように思っているからです。そうは言いつつ、僕が好きだった「巨人の星」や「あしたのジョー」などは作者のほかに原作者もいますし、漫画家と原作者が別々の魅力的な漫画もいっぱいあるのも事実です。

僕はかつてビッグコミックオリジナルという週刊誌を40年以上読んでいたのですが、「浮浪雲」とか「黄昏流星群」とか「三丁目の夕日」などといった作品があったからです。その中に「家裁の人」という漫画があったのですが、当時はあまり漫画に原作者がいることを意識していませんでした。

もしかすると、僕が原作者の存在を強く意識するようになったきっかけはこの「家裁の人」かもしれません。この「家裁の人」は家庭裁判所の裁判官を主人公にした漫画なのですが、毎回実に考えさせられる内容でした。その原作者は毛利甚八さんという方ですが、毛利さんは後年漫画原作の仕事から離れ、非行少年を更生させる仕事に就いている記事を読んだことがあります。原作を実行に移しているように感じて、感激した記憶があります。

どのような経緯で「家裁の人」の原作者になったのかはわかりませんが、毛利さんの本職は著作家・写真家で元々法律に造詣が深いわけでもなかったようです。それが、あれほど読者を惹きつける裁判物語を生み出していたのですから、弱者に対する気持ちが強い方のようにお見受けしていました。残念なことに、毛利さんは2015年に57才の若さでお亡くなりになっています。

実は、今回書くにあたり毛利さんについて調べていたところ、なんと、先ほどの谷口さんが漫画を描いている「BENKEI IN NEW YORK [N.Y.の弁慶]」という作品の原作も務めていることを知りました。こうした状況から察しますと、おそらく業界ではライターとしてかなり有名な方だったのではないでしょうか。そうでなければ、原作の依頼など受けることはないはずですから。

*ちなみに、「家裁の人」は現在東洋経済オンラインhttps://toyokeizai.net/articles/-/465267で一部ですが、読むことができるようです。

毛利さんはお金儲けよりも、若い人を助ける道に進んだ感がありますが、今年ヒットした本に「ケーキの切れない非行少年たち」という児童精神科医の方が書いた本があります。この本は非行に走る少年たちの中には「知的なハンディ」を抱えている少年がいることが記されています。著者は、このような少年に対しては単に罰を与えるだけではなく、正しいトレーニングの必要性を訴えています。こうした対応も弱者に対する視点の一つのように思います。この本を読んだとき、毛利さんのことが頭に思い浮かびました。

と、ここまで書いてきて、

あれ? 今回こそ江川投手の話を書くつもりだったのに、今回も江川投手について書かずに終わってしまいそうです。でも、仕方ないんです。だって、僕、おっちょこちょいだから(^_^;)

じゃ、また。




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